オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

45. 運動療法:新しいエビデンスと指導方法

佐藤祐造 先生(愛知みずほ大学大学院人間科学研究科 特任教授)

佐藤祐造 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 45(2015年7月1日号)

運動がマイオカイン活性を上げる

 糖尿病治療の最近の進歩というと、新薬の上市が続く薬物療法や糖質制限の論争が喧しい食事療法が話題になることが多いですが、運動療法の研究も確実に進歩しています。その一つが「マイオカイン」の研究です。

 マイオカインとは骨格筋から分泌されるサイトカインの総称です。種々のマイオカインは、筋肥大促進、インスリン感受性亢進、抗炎症、骨形成促進など多彩な作用をもっています。マイオカインは身体トレーニングによって分泌が増加し、熱産生と酸素消費を増加させ、インスリン抵抗性や耐糖能を改善します。反対に運動不足によってマイオカインの分泌・活性が低下すると、糖尿病をはじめとする生活習慣病が発症しやすくなります。ただしマイオカインについては未知の部分も多く、作用や測定法に関しての異論もあり、今後のさらなる研究が期待されます。

運動は異所性脂肪を減らす

 筋肉や肝臓に蓄積した異所性脂肪と運動の関係も近年注目されています。異所性脂肪は皮下脂肪、内臓脂肪に続く"第三の脂肪"と呼ばれ、それによって生じる脂肪毒性が慢性炎症などを惹起して糖代謝異常や臓器障害につながります。

 運動療法が内臓脂肪を減少させてメタボリックシンドローム(Met-S)を改善することはよく知られていますが、実は異所性脂肪も運動によって効率よく減少するのです。異所性脂肪は糖尿病に伴うことの多い脂質異常症や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の主要な原因でもあることから、糖尿病に対する運動療法は糖尿病のみでなく、その併発症をも改善する、実に費用対効果の優れた治療法と言えるでしょう。

高齢患者さんでも確実な効果

 異所性脂肪が問題となりやすいのは肥満やMet-Sの患者さんですが、一方で糖尿病の実臨床では現在、やせやロコモティブシンドローム、サルコペニアが問題になりやすい高齢者の割合も増えています。そして高齢患者さんへの効果的な運動処方の研究も着実に進んでいます。

 一般に、加齢に伴いインスリン感受性は低下しますが、有酸素運動の継続によりインスリン抵抗性が改善します。しかし高齢者を対象とした私たちの検討では、有酸素運動のみではインスリン抵抗性改善の程度がわずかで、軽度の負荷をかけた筋力トレーニングを併用することでより大きくインスリン感受性が亢進し、かつ筋力も向上します。つまり、高齢者に対する適切な運動処方が、糖尿病治療のみでなくサルコペニア等の予防・改善という点でも欠かせないということです。なお、運動のトレーニング効果は3日で消失するため、運動実施日の間隔を2日以上あけないように指導しましょう。

エビデンスの蓄積も着々と

 EBMにおいても運動療法は進化しています。既に本誌No.31(2012年)で新しいエビデンスを若干紹介しましたが、その後も多数の報告が続いています。例えば、日本人2型糖尿病患者を対象とした大規模臨床研究であるJDCSからは、余暇時間の運動量を三分位に群分けすると、高運動量群は低運動量群に比し有意に脳卒中発症率が低いことが報告されました。

 また、メタアナリシスの結果から、糖尿病患者の運動量が増えると、心血管疾患リスクが低下(1メッツ・時/日あたり-7.9%、1,000kcal/週あたり-13.3%)するだけでなく、全死亡リスク低下(同順に-0.95%、-14.9%)というベネフィットも得られるとの報告があります。

なによりも安静がよくない

 このように運動療法の研究は着実に進歩しているのですが、では実際にその成果が臨床に生かされているのかというと、やや心もとない面があります。日本糖尿病学会の調査委員会(委員長:佐藤祐造)が実施した運動療法に関する調査では、糖尿病患者のうち'運動療法をしている'は52%にとどまり、残りは'運動療法をしていない'か' 以前はしていたが今はやっていない'で、その理由は'運動する時間がない'が41%でトップを占めていました。このことから、ふだんの生活の中で運動療法を行う時間を新たに作ることが、大きなネックになっていると言えます。

 しかし、これに関しても最新のエビデンスから答を得ることができます。例えば、2型糖尿病患者を対象とし安静にしている時間の長さで三分位に分けOGTTを施行したところ、安静時間が長い群ほど糖負荷2時間値が高いこと、安静時間の増加は運動時間の増加の効果を凌駕して心血管疾患危険因子を増やすことなどが海外から報告されています。つまり、運動指導の前にまず「安静にしている時間を減らすこと」が肝要ということです。また運動継続率を高める施策としては、診察機会2~5回に1回の頻度で指導すると、それ以下の頻度での指導より有意に運動継続率が向上することを私たちは報告しています。

 生活習慣病の代表である2型糖尿病は、運動療法の効果を最も生かすことのできる疾患です。このような研究の進化を日々の臨床に取り込み、患者さん個々の病態とライフスタイルにあわせて、療養指導を深化させていただければ幸いです。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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