オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

43. What is diabetes mellitus...?
―医療スタッフとともに考える―

吉岡成人 先生(NTT 東日本札幌病院糖尿病内分泌内科)

吉岡成人 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 43(2015年1月1日号)

 「糖尿病」とはどのような病気なのでしょうか。

 みなさんは、「血糖が高くなる病気ですよね...、インスリンの作用不足によって...。」とお答えになるのではないでしょうか。『糖尿病治療ガイド2014-2015』(日本糖尿病学会編・著)にも「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群である」と記載されています。1型糖尿病は、ウイルス感染などの何らかの原因によって自己免疫反応がひきおこされ、その結果として膵β細胞が破壊され、インスリン分泌が枯渇してしまう病気ですし、2型糖尿病はインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝因子に、過食(特に高脂肪食)、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子や加齢によって発症する病気です。2型糖尿病の病態については長い間インスリンとグルカゴンという2つのホルモンのバランスからとらえていましたが、最近では膵β細胞と膵α細胞のみならず、脂肪細胞や肝臓、筋肉、腎臓、消化管(腸内細菌をも含む)などの各臓器と、臓器間の情報を伝達する神経ネットワークの障害と捉えられています。「インスリンの作用不足」をもたらす要因はさまざまで、極めて複雑であることがわかってきました。

 もう10年以上前のことになりますが、小坂樹徳先生(東京大学名誉教授、1921~2010年)のお話を伺った時、糖尿病は数字のみで診断される疾患ではなく、自分の目の前の患者さんたちから得た情報を集約して疾患に対する概念を自ら形成し、育んでいくべき疾患であるということを教えていただきました。

 「FPG 126 mg/dLであるから糖尿病、125 mg/dLであるから非糖尿病というような小学校1年生でも診断できるような疾患ではない」、「糖尿病に関心を持ち、臨床に携わって数年したら、どなたも『糖尿病とはこんな病気ではないか』という自身のイメージを持たれるでしょうし、持ってほしいと思います。しかし、その概念は極めて不満足なもので、いびつなものでしかない。臨床を積み重ね、勉強し、研究を通じて常に不足を補い、立派な大きな円満なものになるように心がける」 1)というお言葉に、内科学、糖尿病学の重鎮としての先生の厳しさを感じたことを今でも覚えています。

 糖尿病は血糖値の異常を契機に診断される病気ではありますが、血糖値の是正のみで糖尿病の治療目標が達成されるわけではありません。体重、脂質、血圧の管理など血糖値の管理以外にもきめ細やかな代謝管理が求められるのは確かですが、病を持つ患者さんや患者さんの家族の思いを大切にし、患者さんが家庭で、社会でかけがえのない人として活躍することをサポートすることは極めて重要なことです。また、慢性疾患であるがゆえに、幼年期、青年期、壮年期、老年期という時間軸を組み込んで、医療スタッフと患者さんが糖尿病に対峙していく必要があります。そこでは、disease(疾病)として糖尿病をみるのではなく、illness(やまい)として糖尿病をとらえ、患者さんや患者さんの身のまわりの人たちの思いをくみ取って診療を行うことが重要になります 2)

 糖尿病治療における個別化の重要性が認 識され、"personalized treatment"、"individualized treatment"が必要であることには多くの人たちが賛同しています。しかし、どの患者さんにどのような血糖コントロールが望ましいのかについては、質の高いエビデンスが全くないというのが現状です。私たちには、この世に生を受け、就学し、就職、結婚、出産、子育て、退職、そして人生を終えるというライフサイクルがあります。人生というライフステージの中で、ひとつひとつの節目(ライフイベント)を充実した思いで乗り越えていくことは、簡単なことではありません。しかし、糖尿病というillnessとともに暮らしている患者さんたちが、糖尿病であることを理由に、何かをあきらめなくてはいけないということは是が非でも避けなくてはいけない...と、私は考えています。

 糖尿病は「ありふれた」病気のひとつですが、その病気の本質をdiseaseの面からもillnessの面からも「見極める」ということは、決して簡単なことではありません。"What is diabetes mellitus...?"と常に考え、糖尿病という疾患における病態の多様性を認識し、その上で、「やまい」に悩む患者さんと対峙することがより良き糖尿病患者のケアにつながるのではないかと思います。

文 献

  • 1)『糖尿病診療マスター』2:260-70、2004
  • 2)『糖尿病情報BOX&Net.』No.29、2011

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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