オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

41. 新薬時代の今、
糖尿病患者さんの生活習慣を見直す

岩瀬正典 先生(社会医療法人財団白十字病院副院長・
糖尿病センター長/九州大学特任准教授)

岩瀬正典 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 41(2014年7月1日号)

 糖尿病新薬が次々と発売され、薬物療法が大きく変貌しつつあります。しかし、作用機序が異なる血糖降下薬が新しく登場しても、糖尿病治療における生活習慣の重要性は不動です。他の生活習慣病でも同様です。例えば、スタチンは強力にコレステロールを低下させますが、従来の脂肪摂取量の制限が順守されなくなったため肥満が増え、糖尿病の発症が増えています。また、薬物療法が糖尿病より先行している高血圧治療でも、日本高血圧学会は学会を挙げて減塩運動に熱心に取り組んでいます。

 新薬は一定の血糖降下作用がありますが、薬価が高く、患者さんの経済的負担になり、糖尿病治療の中断につながるおそれがあります。従って、薬物療法が台頭している現在こそ、糖尿病診療における生活習慣の修正、非薬物療法を見直す必要があります。以下、私たちが行っている福岡県糖尿 病 患 者 デ ータベース 研 究(Fukuoka Diabetes Registry, FDR)から糖尿病患者さんの生活習慣の重要性について再確認してみたいと思います。

食事摂取速度

 食事指導で、早食いを止めましょうと指導することがよくあります。しかし、実際にどの程度の早食いがよくないかのエビデンスがありませんでした。そこで私たちは7,275人に早食いの有無を調査しました。食事を食べるのが早いと答えた人は食事がゆっくりの人と比べ、肥満が健常者で3.6倍、境界型で2.8倍、糖尿病で2.1倍多くみられました。また、HbA1cも早食いの人で高く、特にインスリン治療中の人はゆっくり食べる人よりも0.3%高値でした。ゆっくり食べると、腸管からのインクレチン分泌が増えて、また、咀嚼回数が増えることで満腹中枢が刺激され、満腹感が得られやすくなります。

食物繊維

 最近、過剰な糖質制限食が流行しています。日本糖尿病学会は極端な炭水化物の制限は長期的な安全性の観点から薦められないという提言をしています。一方、同提言で食物繊維を積極的に摂取することを強調しています。私たちの調査では、食物繊維の摂取量が増えるほどBMI、HbA1c、インスリン抵抗性、中性脂肪、全身微小炎症(CRP)が低下し、腹部肥満、高血圧、メタボリック症候群が減少していました。さらに、食物繊維が多いほど、アルブミン尿や慢性腎臓病(CKD)の合併頻度も減少していました。食物繊維は腸内細菌で分解され、短鎖脂肪酸が産生されます。短鎖脂肪酸にはインスリン感受性を改善する作用があります。食事は民族や国によって異なりますが、食物繊維の有用性は共通です。米国では食物繊維は主に穀類や豆類から摂取され、1日当たり男性38g以上、女性25g以上の摂取が推奨されています。日本では野菜からの食物繊維の摂取が多く、1日20~25g以上の摂取が推奨されています。

運動

 身体活動量をメッツ換算(1メッツは座って安静にしている状態)で調査したところ、運動していない人に比べてBMI、腹囲、CRPは8メッツ・時/週から、インスリン抵抗性、HDLコレステロール、メタボリック症候群は12メッツ・時/週から改善していました。肝心のHbA1cは23メッツ・時/週からと、かなり運動をしないと血糖コントロールは改善していませんでした。また、低強度の運動は血糖コントロールを改善していませんでした。従って、よく言うように軽い運動だけで血糖コントロールをすることは困難です。ただし、早足でのウォーキングを週2時間以上行えば、糖尿病患者さんの健康状態を改善することが示されました。

睡眠時間

 昼寝を含む1日の睡眠時間を調査したところ、7時間前後と答えた人に比べて、4.5時間未満の人で肥満の頻度が1.8倍多く、8.5時間以上の人でも1.3倍多くみられ、U字型の関係を認めました。同様に、HbA1cやアルブミン尿もU字型のパターンがみられ、HbA1cが0.2%程度、アルブミン尿の頻度が10%程度、睡眠時間が短くても長くても増加していました。睡眠という一見糖尿病とあまり関係ないと思われていた生活習慣が、意外と関係が深いことを患者さんに知ってもらうことは非常に大切なことです。

うつ症状

 糖尿病とうつの関係は最近注目を集めていますが、私たちの調査では地域住民の糖尿病でない人に比べ、2.6倍多くうつ症状がみられました。うつ症状を有する人は肥満が多く、HbA1cが高く、合併症(特に足のしびれ)や重症低血糖が多くみられました。ただし、うつ症状は10メッツ・時/週程度以上の運動により減少しており、メンタルヘルスの面からも糖尿病患者さんには積極的に運動することが勧められます。

 「糖尿病は生活習慣病です」とは"糖尿病=生活習慣が悪い人"ではなく、治療上、生活習慣への配慮が必須という意味です。今一度患者さんの生活習慣を見直してみましょう。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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