オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

39. インクレチン治療 -活かすための患者指導-

難波光義 先生(兵庫医科大学内科学糖尿病・内分泌・
代謝科主任教授)

難波光義 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 39(2014年1月1日号)

2型糖尿病の患者指導≒高齢&メタボの患者指導

 厚労省『国民健康・栄養調査』をみると、60歳以上男性の約4割、女性の約3割が糖尿病かその予備群と報告されています。糖尿病の基盤にあることが多いメタボリックシンドローム(Met-S)に対象を広げてみると、男性では60歳以上の約6割、女性は約3割がMet-Sかその予備群に該当します。つまり、日常臨床で診る2型糖尿病の患者さんの多くは、肥満傾向を伴う高齢の患者さんだということになります。

 改めて言うまでもなく、肥満は糖尿病治療の妨げとなります。また、高齢者は腎・肝をはじめ体の諸機能が低下していたり、低血糖に気付かないことが少なくありません。高齢であるがために、身に付いた生活習慣の変更が困難なこともしばしばあります。このような状況から、安全でかつコンプライアンスも良く、さらに肥満を助長しないという3点が、糖尿病の薬物治療に求められています。ご承知のように昨年、日本糖尿病学会から新たな血糖管理目標が発表されました。基本的にはHbA1c7%未満を目指すものの、低血糖リスク等のためにそれが困難な場合には目標をHbA1c8%未満に緩和するという内容です。この変更も、治療の安全面をより重視した結果と言えます。

血糖の日内変動を極力抑える

 低血糖の回避とともに血糖変動への配慮も、これからの糖尿病治療に強く要求される要素です。食後の短時間であっても急峻な血糖上昇は血管内皮機能を障害し、動脈硬化を促進させます。また高血糖に対する治療強化の反動として低血糖が起これば、交感神経活性を亢進させて血管障害を惹起します。さらに近年では、高血糖や低血糖が認知機能低下を加速することも明らかになってきました。仮に血糖管理目標を8%未満とせざるを得ない場合でも、合併症の抑止のためには血糖変動性を抑えるための一層の努力を払うべきでしょう。

 このような今日的な臨床上の課題に応え得る治療法の一つが、インクレチン治療です。本来、インクレチン作用は食後の高血糖時のみにインスリン分泌を刺激するため、これを増強するインクレチン薬は単剤では低血糖を来すことが少なく安全です。また肥満を助長しにくいのが利点です。日本の患者さんは一般的に欧米の患者さんに比べてインスリン分泌障害の関与が強いため、病態に基づいたアプローチという面においても、インクレチン治療が適しています。特に経口薬のDPP-4阻害薬はコンプライアンスの点でも優れています。発売から数年で国内の2型糖尿病患者さん200万人に処方されるに至ったのには、このような背景があるわけです。

インクレチンを生かすヒント

 とは言ってもインクレチン治療も万能ではありません。効果が次第に減弱したり、投与開始直後から反応が芳しくないケースもあります。それらの原因は必ずしも明らかにはなっていませんが、これまでに報告されている知見に対策のヒントを見つけることが可能です。

ヒント1:体重管理

 DPP-4阻害薬の作用ターゲットであるDPP-4は、脂肪細胞から分泌されているアディポサイトカインの一種でもあります。そのため肥満やMet-Sではその分泌が亢進しており、そのような状態ではDPP-4阻害薬の効果が弱まることが報告されています。このことから、体重を増やさない生活指導がDPP-4阻害薬の効果を生かす第一のヒントと言えます。

ヒント2:肉より魚

 DPP-4阻害薬によるHbA1c低下作用は、魚の摂取量や、EPA/DHAの摂取量および血中濃度と正相関するとの報告があります。つまり、青魚を多く食べるほどDPP-4阻害薬の効果がより強く発揮されるということです。欧米化された肉中心の食事ではなく、私たち日本人が昔から親しんできた魚中心の食事は、抗糖尿病的に働いてくれそうです。

ヒント3:よく噛む

 全く同じ量・組成の食事を5分で食べる場合と30分かけて食べる場合を比較した結果、30分かけて食べた時のほうがGLP-1が多く分泌され、食後3時間以上経過しても分泌量に有意差がみられたと報告されています。この報告から得られるヒントは、同じ食べ物でもゆっくりよく噛んで食べることがDPP-4阻害薬の効果をより高める結果に結び付く可能性があるということです。食事の最初に野菜を食べることも、食事をゆっくりとるためのアイデアの一つです。

ヒント4:単糖類より、少糖・多糖類を使う

 少糖類(例えばパラチノース)の中にはスクロース(ショ糖)に比べ摂取後の血糖上昇幅、インスリン分泌量、GIP分泌量が少なく、GLP-1分泌量は多くなるものがあります。GIPとGLP-1はともにインクレチンではありますが、前者は脂肪蓄積を介した体重増加作用もあるため、なるべくGIP<GLP-1となるのが理想です。料理にはなるべく少糖類を使う工夫も有効と考えられます。

 DPP-4阻害薬の使用に際しては、未だ明確な結論が出ていない膵炎・膵がんへの注意を念頭に置くことも必要ですが、このようなアイデアを併用して、より安全かつ効果的に、薬の特徴を長期にわたり生かしていってもらいたいと思います。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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