オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

38. スポーツの喜びを取り入れた運動指導

勝川史憲 先生(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授)

勝川史憲 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 38(2013年10月1日号)

糖尿病治療は継続が大切

 糖尿病などの生活習慣病の治療は、食事・運動療法が基本です。どのようなエネルギー処方、PFCバランス(三大栄養素の比率)の食事が最も効果的か、どのような種類の運動、強度・時間・頻度が最も効果的かについて多くの研究が進められています。しかし一方で、こうした最適化された食事や運動療法も、患者さんが継続しなければ意味がありません。

 食事・運動療法は、指導しても2、3カ月でやめてしまう患者さんが少なくありません。これは継続以前の、そもそも食事・運動療法の導入がうまくいかなかったと考えられます。一方、2年くらい、食事・運動療法を真面目に続けた後、徐々に食事や運動のコントロールが緩んでいく患者さんもおられます。食事・運動療法による身体の改善効果を体験し、それが自分の努力の賜物であることがよくわかっているはずなのに、なぜか止めてしまう。食事・運動習慣が維持されていても、必ずしもその後も継続が保証されるわけではないことに気づかされるわけです。これは内面、すなわち、どのような動機付けで食事や運動を続けているかがポイントになると思われます。

外発的動機付けと内発的動機付け

 運動に対する動機付けには、外発的動機付けと内発的動機付けがあります。前者は運動以外に目的があり、運動はその目的を達成するための手段であることを指します。例えば、減量、健康増進、疾患治療のために運動するなどです。後者は、運動が楽しくて、それ自体が目的で行っている状態です。

 運動療法は、最初は外発的動機付けで始めることになりますが、運動を継続できている人は、内発的動機の要素が強くなっていることが知られています。血液検査データの改善や体重の減少が運動の励みになる場合も少なくはないですが、こうしたデータと運動の関係は強固なものではありません。望ましい結果が得られない場合はもちろん、成果が得られた場合であっても、継続の動機付けにはなりにくいのです。

自主性、能力感、社会的つながり

 運動継続には、内発的動機付けを高めるような工夫が大切です。内発的動機付けは、自主性、能力感、社会的つながりの3つの要素が重要とされています。例えば、健康づくりが目的であれば、少しでも運動する方が全然やらないよりましと言えますが、疾病の改善が目的になると、運動には特定の条件が要求されます。減量が必要ならばエネルギー消費量が重要になり、血圧コントロールのためなら運動の頻度が最も重要になると考えられます。糖尿病の場合は、急性効果、トレーニング効果、エネルギー消費の効果、骨格筋量増加の効果など、いろいろな機序で血糖が改善するので要求条件は複雑ですが、それでも条件を満たす多様な運 動プログラムが考えられます。しかし、それらを速歩で○分というように規定してしまうと、自主性は損なわれてしまいます。多様なオプションから患者さんが自主的に選択していく方が継続には有利です。

 社会的つながりとしては、周囲からのサポートだけでなく、ライバルや、同じ曜日の同じ時間枠のジムのスタジオで、いつも顔を合わせる他のメンバーの存在といった緩い関係も、継続の重要な助けとなります。

運動とスポーツと遊び

 健康のための運動は楽しくなく、ある種苦痛を伴うもの(no pain、 no gain)という既成概念も大きな問題です。毎年のヒット商品ランキングを発表している某誌によれば、今年のキーワードは「健康の娯楽化」だそうです。確かに、楽しみが目的であれば、身体を動かすことは決して苦痛ではありません。また最近のニュースによると、今年の富士山登山者数は例年の3割増とのこと。これは世界遺産登録による一時的な盛り上がりも原因でしょうが、近年の登山ブームが下地になっていることも確かでしょう。そしてその登山ブームを主に支えるのは、糖尿病等の生活習慣病好発年齢の中高年層です。健康のために階段を使いましょうと言われるよりも、山登りのために、日頃から階段をまめに利用して足腰を鍛えようと言われたほうが、ずっとやる気になったりするものです。

 さて、「Sport」を辞書で調べてみると、ルールに則った競技という意味のほかに、気晴らし、娯楽という意味合いがあることがわかります。登山はもちろん、ダンスや街歩き、カメラをもっての撮影旅行なども、ちょっと工夫すれば立派なスポーツになります。このような幅広い視点から、患者さんの環境や嗜好にあった運動を勧めることが必要ではないでしょうか。

 楽しみの中に運動が折り込まれ、結果として疾病の改善効果をもたらす。そのためにはまず、フィットネスやカルチャー施設、観光業界などのスキルやアイデアを柔軟に取り込む必要があります。同時に、楽しみのための運動が疾病改善のための要求条件を満たすような品質管理も重要です。医療とフィットネスを連携させる社会的な取り組みが、今求められているのではないかと思います。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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