オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

34. 妊娠糖尿病の新たな診断基準と管理

清水一紀 先生(心臓病センター榊原病院糖尿病内科)

清水一紀 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 34(2012年10月1日号)

26年ぶりの大改訂で、定義・診断基準が国際的に統一される

 妊娠糖尿病という言葉は1960年代後半 から使われていましたが、その定義は定 まっておらず、従って診断基準が国や学会 によって異なっていました。しかし2010 年、国際的な研究グループ 'International Association of Diabetes and Pregnancy Study Group' の発表を受け入れ、わが国 でも26年ぶりに妊娠糖尿病の定義と診断 基準が大改訂されました。新診断基準(右 下囲み)は一見して糖尿病の基準より厳格 なことにお気付きのことと思います。その 理由は、年余に及ぶ高血糖が原因で生じ る慢性合併症対策が主眼である糖尿病と は、診断の目的が異なるからです。

妊娠糖尿病の診断基準 (2010年改訂)

75gOGTTで血糖値が以下の1点以上を満たした場合
(糖尿病の診断基準を満たすものは除外)
1)空腹時  92mg/dL以上
2)1時間値  180mg/dL以上
3)2時間値  153mg/dL以上

 妊娠糖尿病は二つの目的で診断します。 一つは周産期の母児合併症を減らすこと、 もう一つは、将来の糖尿病発症を予防す ることです。一番目の目的を達成するため には糖代謝異常を見いだしたら、たとえそ れが軽度であっても直ちに介入しなければ なりません。

ハイリスク妊娠糖尿病の血糖自己測定が保険適用に

 妊娠糖尿病では胎児の体幹発育に重要 な妊娠初期の血糖値は正常であるため、 糖尿病合併妊娠 1) で生じるような胎児奇形 こそあまり問題にならないものの、胎児の高インスリン血症による合併症、すなわち 巨大児出産、肩甲難産、帝王切開、出生 時低血糖、呼吸障害、高ビリルビン血症、 心筋肥厚などのリスクが高まります。診断 基準改訂によって妊娠糖尿病の頻度は従 来の約4倍となるため医療現場の負担が増 えますが、新基準は胎児高インスリン血症 を反映したものですので、看過せず確実 な対応が求められます。

 本年4月の診療報酬改定で「在宅妊娠 糖尿病患者指導管理料」という項目が新設 されました。これは、糖尿病患者の妊娠 (糖尿病合併妊娠)だけでなく、ハイリス ク妊娠糖尿病に対する療養指導を行った 場合にも算定できます。妊娠糖尿病による 周産期合併症の減少への取り組みを後押 しするものです。

 ここでいうハイリスク妊娠糖尿病とは、 HbA1cが6.5未満(NGSP値)で75gOGTT 2時間値が200mg/dL以上の場合をいいま す。これに該当する妊娠糖尿病の場合、 あるいは糖尿病合併妊娠の場合、インス リンを使用しなくても、血糖自己測定器加 算が認められるようになりました。このよ うな診療報酬上のバックアップも、より安 全な出産につながることでしょう。

出産後の母親、子ども、家族のフォローアップ体制の確立を

 さて、妊娠糖尿病を診断する二つ目の 目的である「将来の糖尿病発症を予防す る」ために妊婦の中から妊娠糖尿病を見い だすことは、将来の糖尿病発症リスクが 高い集団をスクリーニングすることと同じ です。ただ、妊娠糖尿病では多くの場合、 出産後に血糖値はいったん正常化し、そ れとともに医療管理下を離れてしまいま す。妊娠糖尿病の全例を継続的にフォ ローアップしていくのがベストではあるもの の、よりリスクの高い集団に絞って対策を 立てることも現実的な考え方と言えるで しょう。

 診断基準の改訂にあたって国内では、 この点についても検討が加えられました。 出産後10年以上経過を観察し得た418例を 後ろ向きに解析した結果、前記のハイリス ク妊娠糖尿病の基準に合致する集団で、より早期に糖尿病を発症することが認めら れました 2) 。そこで、ハイリスク妊娠糖尿 病症例は、妊娠中に糖尿病合併妊娠に準 じた管理が必要なだけでなく、出産後も厳 重なフォローアップが必要であることが、 わが国独自の基準として診断基準の注釈 に記されています。ハイリスク妊娠糖尿病 の妊婦さんには、出産後の体重管理、年 に1回以上の血糖検査の必要性をしっかり と伝え、継続管理できる体制を整えていき たいものです。

 また近年、妊娠糖尿病は母親の将来の 糖尿病発症リスクだけでなく、子どもの糖 尿病発症リスクでもあることが示されつつ あります。妊娠糖尿病の診断基準改訂を 生かし、家事を切り盛りしているより多くの 母親に、食事や生活習慣に興味をもってい ただき、自らとご家族の健康管理を実践し ていただけるよう指導することは、糖尿病 総患者数の抑制にも益することではないか と考えられます。

1)糖尿病合併妊娠:糖尿病の診断基準を満た すレベルの高血糖や、網膜症が存在し明ら かに妊娠前から罹患していたと考えられる糖 尿病。以前は扱いが曖昧でしたが、診断基 準改訂により、妊娠糖尿病とは明確に区別さ れました。

2)糖尿病と妊娠 11(1);85-92

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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