オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

27. CGM(持続血糖モニター)で見えてくるもの

森  豊 先生(東京慈恵会医科大学附属第三病院
糖尿病・代謝・内分泌内科准教授)

森  豊 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 27(2011年1月1日号)

血糖管理強化による合併症抑止はもう限界?

 糖尿病の治療は、血糖のみでなく、脂 質や血圧も含めた多面的な治療が必要で す。このことは、最近行なわれた欧米の大 規模臨床研究(ADVANCE、 ACCORD) でも改めて明らかにされています。特 に、生命予後に直結する心血管疾患の抑 制には、血糖管理を強化しても短期的に はその効果がみられないことから、むし ろ脂質や血圧をより厳格に管理したほう が、効果的で安全であるとの印象さえ広 がりつつあります。

 ところで、これまで高血糖のリスク は、どの程度正しく評価されてきたので しょうか。血糖評価のゴールデンスタン ダードはDCCT以来HbA1cで、ほぼす べての臨床研究がHbA1cによって介入 効果を評価していますし、日常臨床にお いてもHbA1cが最も重視されています。 インスリンの調節や低血糖対策に極めて 有用なSMBGは、血糖状態を評価すると いう点では把握し得る情報に限界があり ます。つまり、これまでに蓄積された高 血糖と合併症の関係に関するエビデンス の多くは、 HbA1cでとらえられた情報 のみだということです。

 一方、近年CGM(持続血糖モニター) が使えるようになり、血糖の日内変動の 全体像がよく見えるようになりました。 それによりHbA1cの血糖管理指標とし ての限界が分かり始めています。これ は、逆に言えば合併症抑止への新たなア プローチが見えてきたということでもあ ります。

HbA1cには食後高血糖や 潜在する低血糖が反映されない

 CGMを施行すると、糖尿病患者さん の血糖日内変動は、決して単純な動きで はないことが示されます。興味深いこと に、血糖日内変動が大きくても、それが HbA1cには反映されないことにも気付 かされます。紙面の都合で血糖変動曲線 は示しませんが、食前血糖が100mg/dL 前後で健常者と同等、 HbA1cも「良」で、 ほぼ満足のゆくコントロールと判断して いた患者さんの血糖が食後に急激に上昇 し、ピーク値が200mg/dLを大きく超 え、一方で夜間睡眠中には低血糖域近く まで低下していることがあります。

 こうしたことから、HbA1cは血糖値の平 均値としてとらえるべきであることが実感 でき、その値だけしか見ていないと、隠 れている食後高血糖や、HbA1cの数値上 は高血糖を打ち消すように働く潜在性の 低血糖、その両者をともに見逃してしま う可能性があります。 適切な薬剤と検査を組み合わせ 食後高血糖も妥協せず是正

 食後高血糖が合併症、特に心血管疾患 のリスクファクターであることは DECODEスタディや舟形町研究で示さ れています。そしてSTOP-NIDDMスタ ディでは、α-GIによる食後高血糖への介 入で、心血管疾患が抑制されることが示 されています。これらの報告を根拠に、 2007年に国際糖尿病連合(IDF)は食後2 時間値140mg/dL未満を推奨する『食後 血糖値に関するガイドライン』を発表し ました。

 そして今、食後高血糖をターゲットと した複数の薬剤が使用可能です。また、 食後高血糖を把握し得る検査指標として 1,5-AGがあり、1,5-AGがCGMで把握され る血糖日内変動の大きさとよく相関する ことを、諸家が報告しています。HbA1c や空腹時血糖だけでなく、これらの薬剤 や検査を用いて食後高血糖を妥協せずに 是正することが、患者さんの生命予後改 善に寄与すると言えるでしょう。

 現在、血糖降下薬として6種類の経口 薬があります。CGMを用いると、それ ぞれの作用特性の違いが明確に表れ、空 腹時血糖を下げるSU薬やBG薬、チアゾ リジン薬は、 1日の血糖値全体を平均的 に下げる薬であることが改めてわかりま す。仮に、これらの薬を用いて空腹時血 糖値が30mg/dL下がったのであれば、食 後血糖値もやはり30mg/dLほどしか下がっ ておらず、通常それでは十分なコントロー ルを達成できません。それにもかかわら ず、HbA1cが顕著に改善した場合、潜在 性の低血糖を疑う必要性も出てきます。

 DPP-4阻害薬は作用が血糖依存性なた め、食後の血糖値も比較的よく下げま す。しかしCGMを施行すると、その下 げ方はα-GIやグリニドとやや異なるこ とがわかります。後二者が食直後からの 血糖上昇を抑制するのに対し、前者は若 干効果発現が遅いのです。CGMでは血 糖日内変動の標準偏差、血糖変動幅総面 積、目標血糖値から逸脱した時間の割合 などの指標を確認できます。筆者らの検 討では、これらの指標を有意に改善し、 健常者の血糖変動により近づけていくた めには、食後高血糖改善薬を1剤ではな く、複数用いることの必要性を示してい ます。

血糖にも介入すべき余地が 依然、残されている

 冒頭で述べたように昨今、血糖管理を 現状以上に強化しても得られるメリットは 少ないことを示す臨床研究が続けて発表 されました。しかしそれらは、 HbA1cとい う血糖の及ぼす影響の一側面しか見てい なかったためではないかとの考え方も成 り立ちます。24時間血糖をモニターする ことで今まで見えていなかった多くのこ とが見え、それによって「血糖の厳格な 管理」の新たな方向性と可能性が今、広 がりつつあるのではないかと思います。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス 目次

2016年06月13日
SGLT2阻害薬で握力が向上 高齢者のサルコペニア対策に効果?
2016年06月10日
第76回米国糖尿病学会(ADA2016)開催間近 注目のセッションは?
2016年06月10日
足病診療の実態報告 診療科により診断・治療法・予後が異なる可能性
2016年06月09日
関節リウマチ患者の糖質コルチコイド服用で糖尿病リスクが1.48倍に [HealthDay News]
2016年06月02日
インスリン、IGF-1両受容体欠損に伴う脂肪組織の変化 [HealthDay News]
2016年06月01日
日本食で健康長寿を延ばせる 日本から世界へ「スローカロリー」を発信
2016年06月01日
糖尿病の人でも加入できる より少額の定期保険 糖尿病保険ミニ
2016年06月01日
営業成績と社会人2年目の苦悩 インスリンとの歩き方
2016年05月31日
SAP導入で生活が激変! 1型糖尿病患者さんの手記を公開
2016年05月30日
新制度「下肢救済加算」をわかりやすく解説 フットケア情報ファイル