オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

24. コーヒーの飲用と運動療法の上乗せ効果

鈴木政登 先生(東京慈恵会医科大学臨床検査医学教授)

鈴木政登 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 24(2010年4月1日号)

コーヒー常飲は生活習慣病を予防・改善する生活習慣か?

 コーヒーの薬理作用については、既に 1000年以上昔の文献に記述がみられ、今 日も呼吸器疾患や循環器疾患、がんな ど、さまざまな疾患の抑制効果が検討さ れています。「コーヒーを習慣的に飲用す ることで2型糖尿病の発症リスクが低下 する」「メタボリックシンドローム(Met-S) を構成する危険因子の改善に有効」と いった報告も少なくありません。本年1 月発行の『高尿酸血症・痛風の治療ガイ ドライン(第2版)』には、コーヒー摂取 量が多いと痛風になりにくことがエビデ ンスレベル2aで取り上げられています。

 コーヒーがこうした効果を発揮する機 序は、未だそのすべてが明らかになって いるわけではありません。しかし、カ フェインによる交感神経刺激を介して内 臓脂肪分解を亢進することが、主要な機 序の一つと考えられています。

 現在、肥満糖尿病やMet-Sの治療で は、内臓脂肪解消のために運動療法が強 く推奨されますが、その根拠は、運動に より内臓脂肪が皮下脂肪に優先して燃焼 されるという点にあります。もし本当にコー ヒー飲用が内臓脂肪分解・燃焼を亢進さ せるのであれば、運動療法の上乗せ効果 も期待でき、コーヒー常飲が生活習慣病 の予防と治療に有効な"良い生活習慣"と して位置付けられる可能性もあります。

コーヒー+運動の一過性効果

 そこで私たちは、コーヒー飲用で実際 に運動効果に差が生じるか否かを、健常 人を対象に検討しました。体重1kgあた り4mgのカフェインを含むコーヒー(通 常のコーヒー約2杯分に相当するカフェイン量)または白湯を飲んでもらい、そ の1時間後から30分間、トレッドミルで 中等度の運動を負荷し、その前後の血漿 カテコールアミン濃度、血圧、心拍数、 酸素摂取量、エネルギー消費量などを経 時的に観察しました。

 その結果、コーヒー飲用の1時間後の 時点(運動開始直前)で血漿アドレナリ ン、ノルアドレナリン濃度が有意に上昇 しており、交感神経興奮によると考えら れるカテコールアミンの分泌亢進が認め られました。また血圧上昇と心拍数低 下、酸素摂取量とエネルギー消費量の増 加も認められ、コーヒー飲用前に比較し いずれも有意な変化でした。

 次に運動後の変化ですが、コーヒーを 飲用した場合、運動終了直後と60分後の 血漿アドレナリン、ノルアドレナリン濃 度、および血清遊離脂肪酸値が上昇して いました。ノルアドレナリン濃度や遊離 脂肪酸値は白湯を飲んだ後の運動でも上 昇していましたが、コーヒーを飲用して から運動した場合の変化のほうが有意に 大きいという結果でした。そして酸素摂 取量とエネルギー消費量は、コーヒーを 飲んだ場合では運動終了後60分経過した 時点でも、有意に上昇していました。

 なお、コーヒー・白湯どちらでもイン スリン値は若干低下し、血糖値は若干上 昇しましたが、いずれも有意ではありま せんでした。また、運動前にみられた コーヒーによる血圧上昇は、運動後には 有意な差ではなくなっていました。

 以上をまとめると、運動前にコーヒー を飲むことで、糖代謝に影響なく、運動 の脂質代謝・エネルギー代謝改善効果を より高め、その効果は運動終了後もより 長く維持されると結論できます。

コーヒー+運動の継続による効果

 コーヒー飲用による一過性の効果は確 認できましたので、引き続き「その効果 が長期的に持続するか」という点を、 ラットを用いて検討しました。

 肥満・糖尿病モデルであるOLETFラッ トを、安静群、運動群、カフェイン投与 群、運動+カフェイン投与群の4群に分 け、 5週間経過した時点で比較したとこ ろ、安静群以外の3群ではいずれも体重 が減少していました。しかし、運動+カ フェイン投与群の体重減少幅が最も大き く、筋肉量は有意に多く、内臓脂肪量は最も低下していました。これはMet-Sの 予防・改善にとって理想的な変化と言え ます。しかも運動+カフェイン投与群は トリグリセライド値が最も低く、 HDL- コレステロール値は最も高く、いずれも 運動単独群およびカフェイン投与単独群 とは有意差がありました。コーヒーによ るMet-S構成因子解消の上乗せ効果が実 際に示されたわけです。

 さらにアディポカインの一種であるレ プチンの濃度も比較したところ、運動+ カフェイン投与群のレプチン濃度が最も 低下していました。レプチンは動脈硬化 改善作用のある、いわゆる"善玉アディ ポカイン"ですが、肥満状態ではその感 受性低下のために、濃度が高値であるに もかかわらず作用が低下する「レプチン 抵抗性」となり動脈硬化が促進されると 考えられています。運動+カフェイン投 与群のレプチン濃度が最も低いという結 果は、レプチン抵抗性が改善されたこと を示唆するものと解せます。

コーヒー飲用の注意点

 さて、コーヒーに臨床的な効果を期待 するのであれば、当 然"適 応"や"用 法"も はっきりさせておく必要があるので、最後 にまとめておきます。まず"適応"としては Met-Sや肥満糖尿病が最も良い適応で、 内臓脂肪の解消という視点から食後では なく食間にコーヒーを飲用し、カフェイン が吸収される約1時間後に運動するのが 推奨される"用法"と言えるでしょう。もち ろん、過剰な飲用は不整脈や痙攣発作な どの"副作用"につながるので、あくまで常 識的な量の飲用が基本です。また、脂肪 燃焼を重視するのであれば、砂糖なしの ブラックが適しています。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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