オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

4. 糖尿病の漢方治療 -有用性と限界-

佐藤祐造 先生(名古屋大学名誉教授・
愛知学院大学心身科学部健康科学科教授)

佐藤祐造 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 4(2005年4月1日号)

漢方が適するのはどんなときか

 糖尿病の治療目的は、血糖や血圧管理によって合併症の進展を阻止することですが、患者さんが訴える自覚症状を改善することも、もちろん重要です。糖尿病の愁訴というと、未治療時の高血糖に伴う諸症状を除き、具体的には合併症による身体症状が中心となります。

 臨床的に有意な血糖降下作用を漢方薬に期待することはできません。しかし、合併症による自覚症状の改善には、身体症状・愁訴を基本に組み立てられた治療体系である漢方医学が適していると言えます。

 合併症の自覚症状のうち、網膜症によるものは眼科的治療、腎症は降圧などによる腎機能維持や透析療法が主な対処法となり、また、いずれも高血糖状態がある程度長期に継続した後に発症します。これに対して神経障害は、比較的早期から高頻度で自覚症状が現れ、血糖管理を徹底すること以外に著効を示す西洋医学的な治療法が少ないのが現状です。血糖管理が良いにもかかわらず症状を訴える患者さんや、副作用のため西洋薬を使えない患者さんもいます。このようなときが特に漢方のよい適応となるでしょう。

漢方医学での糖尿病

 漢方では喉の渇きが激しい状態を「消渇(しょうかつ)」と言い、これが現在の糖尿病や腎機能障害に該当すると考えられています。『金匱要略(きんきようりゃく)』では「男子の消渇、小便反って多く、飲むこと一斗なるを以て小便一斗ならば、腎気丸(じんきがん)(八味地黄丸(はちみじおうがん))之を主る」と記されていて、古くから八味地黄丸が用いられ、現在も高齢者に多用されます。虚証の中高年で、腰や下肢の脱力感、冷え・しびれがあって夜間頻尿を訴える患者さんに使用します。血圧安定化(降圧)作用を示したり、勃起障害や自律神経障害、末梢循環障害に有効なケースもあります。

神経障害の漢方治療

 八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を加えた牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、特に神経障害のしびれに有効です。メコバラミンとの比較試験においても有意に高い改善効果を示し、中でも血糖コントロールが良好で肥満でない高齢者に有効例が多いことがわかっています。薬理学的にはアルドース還元酵素阻害作用、末梢血管拡張作用、鎮痛作用があり、また動物実験的に、かつ臨床的にもインスリン抵抗性改善作用があることを私たちは報告しています。なお、八味地黄丸と牛車腎気丸は構成生薬が似ているので併用しません。

副作用とその対策

 八味地黄丸や牛車腎気丸で頻度は少ないものの動悸やのぼせが現れることもあり、その場合は投薬を中止します。また胃腸障害が現れた場合は、桂枝加朮附(けいしかじゅつぶとう)や清心蓮子飲(せいしんれんしいん)への変更を考慮します。

 桂枝加朮附湯は、虚証から中間証で冷えや手足のしびれ・痛みを訴える、胃腸虚弱の患者さんに使用されます。私たちは、桂枝加朮附湯とその構成生薬の桂皮にはインスリン抵抗性改善作用があり、そのメカニズムにインスリンシグナル伝達経路とNOが関与していることを、動物実験で明らかにしています。

その他の方剤

 糖尿病による血行障害は漢方の「お血」に該当すると言えます。血を改善するお血薬には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や柴苓湯(さいれいとう)があり、後者は糖尿病腎症の早期にも用いられることがあります。肥満に対しては、実証では防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、大柴胡湯(だいさいことう)、中間証では五苓散(ごれいとう)、虚証の水太りには防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)が主に使われます。

効果の判定について

 しびれなどの自覚症状に対しては、投与開始から2~4週間で効果を判断します。自覚症状に現れない腎症などに用いる場合は数カ月後の尿検査所見で判定し、改善がなければ中止します。

糖尿病治療における漢方の今後

 牛車腎気丸にみられる多彩な薬理作用は、証が合えば漢方薬1剤で西洋薬数剤分の作用に相当する可能性を示唆するもので、医療経済的にも注目されます。糖尿病に対する漢方薬の効果は徐々にエビデンスが蓄積されつつあり、有効性のさらなる解明が期待されます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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