オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

2. 経口血糖降下薬使用のポイント

吉岡成人 先生(北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座・
第二内科助教授)

吉岡成人 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 2(2004年10月1日号)

 糖尿病の患者さんに経口糖尿病薬を処方するときには、糖尿病の病態に応じた薬剤の選択、治療のターゲットとなる目標血糖値の設定、副作用としての低血糖の回避、経口薬からインスリンへの切り替えなど、他の疾患の薬物治療にはない、いくつかのポイントがあります。単に血糖を下げるのではなく、糖尿病の治療目的である合併症を抑止し、患者さんのQOLを高く保つためには、これらのポイントを抑えたうえで薬を使い分ける必要があります。

いつから経口薬の投与を始めるか

 食事・運動療法が十分行われているのにもかかわらず空腹時血糖値で120~140mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上の高血糖が持続している場合が経口薬療法の適応です。このように一定の基準値を設定して治療を開始するという点においては高血圧症や高脂血症でも同様です。しかし糖尿病治療においては、食事・運動療法を中心とした生活習慣の改善が薬剤以上の効果を発揮することがあります。インスリン抵抗性改善薬で示唆される動脈硬化の抑止作用、SU薬を用いた場合の体重増加に対する注意、低血糖のリスクの軽減なども考慮のうえ、慎重なスタートが望まれます。ポイントは少量から始め、治療に伴う血糖の変動をしっかりと見極めていくことです。

どのような薬剤から開始するか

 高血糖の原因は、インスリンの分泌障害(食事に応じた十分なインスリンが分泌されないことと分泌の遅延)と、インスリン抵抗性の増大の二つがあります。使用薬剤は、高血糖の原因を見極め薬剤の作用特性を考慮して選択します。

 糖尿病の初期にみられる空腹時血糖がそれほど高くはなく食後高血糖が目立つような状態では、血糖上昇に対するインスリン分泌反応の遅延が考えられます。肥満傾向がある場合はインスリン抵抗性が高血糖の主要原因である疑いが強く、HOMA-Rなどからそれを確認します。肥満がなくインスリン抵抗性の関与が強くないと推測され、しかも空腹時の血糖値が高い場合は、インスリンの量的な分泌不全が高血糖の原因と考えられます。

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)

 インスリン分泌反応遅延による食後高血糖を抑えるために、α-GIが使われます。α-GIは多糖類の分解を遅延させ血糖の上昇を抑えるもので、食後過血糖改善薬といわれます。食事の直前に服用していただくことが服薬指導上のポイントです。

速効性インスリン分泌促進薬(グリニド製剤)

 α-GIとともに食後過血糖改善薬に分類されていますが、作用は異なります。α-GIは食後の血糖値の上昇を遅らせてインスリンの必要量を減らすのに対して、速効性インスリン分泌促進薬はスルホニル尿素(SU)薬と同様にインスリンの分泌を促して血糖値を下げます。やはり食直前に服用してもらいます。

スルホニル尿素(SU)薬

 インスリンの分泌を促進する薬です。インスリンの分泌不全が高血糖の主要原因と考えられる場合に選択します。経口糖尿病用薬の中では最も確かな血糖降下作用を発揮しますが、食事療法が十分におこなわれない場合は体重が増加しますし、低血糖への配慮も必要です。

ビグアナイド(BG)薬

 肝臓におけるグルコースの産生を抑え、筋肉でのグルコースの取り込みを促し、消化管からの糖質の吸収も抑制します。肥満例などインスリン抵抗性の存在が考えられる場合のファーストチョイスといえます。

チアゾリジン誘導体

 肥満患者の大きく肥大した脂肪細胞を小型化し、脂肪細胞から分泌されインスリン抵抗性を改善するアディポネクチンを増やすことなどで、血糖値の改善をもたらします。しかし、浮腫の発現や肥満の助長に注意が必要です。

低血糖を避けるには

 経口薬による低血糖は決して稀とはいえません。低血糖を引き起こすのは主にSU薬と速効性インスリン分泌促進薬ですが、後者は服用時間(食直前)が守られれば頻度は少ないと考えられます。他の経口薬の場合、それぞれの単独使用では低血糖は起こりません。しかしSU薬などと併用する場合は当然注意が必要ですし、α-GIを併用している場合にはブドウ糖以外の糖質では低血糖からの回復が遅いことを指導することが大切です。

効果が不十分なとき、どうするか

 薬物療法を始める際には少量から投与を開始し、血糖の変動を確認しつつ投与量を増加します。一時期安定していたコントロールが悪化した場合は増量や多剤併用、インスリンの導入を検討しますが、その前に食事・運動療法の乱れや他の疾患の可能性(たとえば悪性腫瘍など)を見逃さないためのチェックが必要です。高血糖による糖毒性の影響が考えられる場合には、入院治療により糖尿病の基本である食事療法を厳格に試みたり、インスリンを短期間使用することもよいでしょう。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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