糖尿病診療の目

特定健診からみた血糖と体重の関係

松葉 育郎 先生(松葉医院 院長)

筆者について

 血糖と体重の関係を糖尿病ではどうなっているのかをお話する前に、一般的には健康な方ではどうなっているのか考えてみます。そこで、参考にしたいのが、今、日本では40歳以上に毎年、実施を期待されている特定健康診査・特定保健指導(特定健診・保健指導)です。実際に、生活指導で体重を下げると、どのくらい血糖値が動くのかを知ることができます。

期待が高まる特定健診・保健指導

 平成20年4月から特定健康診査・特定保健指導が始まりました。糖尿病等の生活習慣病については、若い時からの生活習慣を改善することで、その予防、重症化や合併症を避けることができると考えられています。生活習慣を見直すための手段として、特定健康診査の実施や、特定健診の結果でメタボリックシンドローム該当者およびその予備群となった方々に対して、個人個人の状態に合わせた生活習慣の改善に向けた特定保健指導が実施されるようになりました。その改善の効果も定期的に評価していくという国家規模の画期的な取り組みが始まりました。

健診で拾い上げ、保健指導で改善する

 特定健診と質問票の結果、メタボリックシンドローム予備軍など、生活習慣改善の必要性が高いと判断された対象者については、対象者が自ら生活習慣を振り返り、行動目標を立てることができるよう「動機づけ支援」が行われています。内臓脂肪増加と検査データの悪化との関係について理解を深め、体重が増加してきた背景を考え、すぐに実行できる行動目標を立てていきます。この動機づけ支援では、はじめに面接を行い、それから6カ月後に実績評価を行うことになっています。

 また、既にいくつかのリスクを持っている方には、医師、保健師、管理栄養士らによる積極的支援を行います。生活習慣の改善目標を設定し、目標を達成するための具体的なプログラムの作成と実践、また、プログラム完了後もその生活を継続することを目指すようにサポートしていきます。

 一言で言えば、お腹が出てきて、体重が若いころよりも増加してきている中高年を対象に、血糖、血圧、脂質の検査値が上がり始め、喫煙歴の有無をリスク因子として考え、メタボリックシンドローム体質の人たちを選び出す検診を始めたのです。生活指導を受けていただく、拾い上げのための毎年1回の健診と、具体的な生活改善へ向けての保健指導が始まったのです。健康診査だけではなく、生活習慣の改善を組織的に連動させる方針を示し、国を挙げて健康増進プログラムを実施し始めたとも言えます。

特定健診・保健指導の成果

 平成20年度から23年度までの4年度分の特定健診のデータを用いて、特定保健指導の効果が報告されています。特定保健指導を受けた対象では、各年度、すべての性・年齢階級において、対照群よりも大きな腹囲、BMI、体重の減少効果を認め、血糖、血圧、脂質等の改善がみられています。(参考:特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の 検証のためのワーキンググループ 中間取りまとめ(厚生労働省) ▶

腹囲

 腹囲についてみると、積極的支援で約 2~3cm、動機付け支援で約 1~2cm 程度の減少効果が見られています。

体重

 体重については、積極的支援の介入群における体重減少の程度が、男性では 1 年間でベースラインの約 2.5%、女性では約 3.3%であり、メタボリックシンドロームにおける検査値改善のための最低目標量(3%減量)に近い効果が得られています。動機づけ支援の介入群における体重減少の程度は、男性で約 1.7%、女性で約 2.3%であり、対照群と比較して有意な体重減少効果が認められています。

血圧、脂質

 血糖のみならず、血圧および脂質に関連する検査値への特定保健指導の効果も認められ、積極的支援の介入群では、中性脂肪が約 25~30mg/dL減少、収縮期血圧が約 2~4mmHg 低下するなど、循環器疾患の危険因子の改善が認められています。 健康日本21の目標値として、国民全体の収縮期血圧を4mmHg 低下させるとしていますが、今回の積極的支援の介入群では、生活習慣改善のみでこの目標に近づけることができたともいえる結果でした。

血糖値、HbA1c

 積極的支援の介入群男性では、空腹時血糖が約102.8 mg/dLから約101.2 mg/dLへと約1.7 mg/dLの減少、女性では約104.6 mg/dLから約101.5 mg/dLへと約3.1 mg/dLの減少がみられています(平成20-21 年度)。また、特定健診導入後の4年度いずれでも、空腹時血糖、HbA1cについては、積極的支援・動機づけ支援の介入群で低下傾向を認め、保健指導による生活習慣改善、体重減少によるインスリン感受性の改善が糖尿病予防に果たす役割が大きいと結論づけています。

 積極的支援を終了した者において、男性の約2~3割、女性の約3~4割の人がメタボリックシンドローム該当、または予備群から脱却したことは大きな成果であると考えられています。

保健指導と糖尿病の療養指導

 こうして特定健診で得られた保健指導の結果を考えてみると、実は面白いことに、糖尿病の治療の目的(糖尿病治療ガイド)に挙げてきた血糖、血圧、脂質、体重を適切な値に下げていくという管理、生活指導の目標と一致していることに気づきます。

 メタボリックシンドローム体質または糖尿病予備群と呼ばれている方にとっては、お腹を凹まし、体重を下げることで、血糖のみならず、血圧、脂質も改善する効果が得られる重要な結果が得られました。この効果は、実は糖尿病患者さんにも当てはまり、特定保健指導の工夫をさまざまな健康管理センターをはじめ、保健、医療関係者が検討しています。

 具体的にどのように生活習慣を改善し、何をしていくかは、患者さんだけではなく医療関係者にも参考になります。ぜひ、一度、医療関係者の皆さんも特定保健指導を受けたら結果を調べてみてください。(参考:保健指導における学習教材集(国立保健医療科学院) ▶

 今回は特定健診での対象者でのデータを中心にお話をしてきましたが、もちろん、世の中には太っていない方もたくさんいます。痩せている方には、必ずしも当てはまらないことも付け加えておきます。ただ、痩せている方でも、体重が増加してくると血糖は上がる方向であることは間違いないようです。

 次回は、糖尿病患者さんにおける血糖と体重の関係を述べてみます。

参考資料

(2015年04月27日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

2019年08月22日
「SGLT2阻害薬」はケトアシドーシスに注意 「患者への説明も含めた十分な対策が必要」と呼びかけ 日本糖尿病学会
2019年08月22日
空腹時血糖値と膵臓がんリスクが非糖尿病段階でも相関
2019年08月21日
金沢大学がAIを活用した糖尿病性腎症重症化予防の共同研究を開始 日本人に最適な予防法を開発
2019年08月21日
神経障害性疼痛の痛みの原因物質を特定 痛みシグナルを伝達する末梢神経・脊髄後角に着目 大阪大
2019年08月21日
糖尿病における創傷治癒遅延の分子メカニズムを解明 CCL2が創傷治癒を促進 和歌山医大
2019年08月21日
「10月8日は、糖をはかる日」講演会2019 参加者募集開始!
2019年08月21日
「10月8日は、糖をはかる日」2019年写真コンテスト作品募集開始!
2019年08月13日
メトホルミンの禁忌は重度の腎機能障害患者(eGFR30未満)のみに 厚労省が安全性情報
2019年08月09日
「吸入インスリン」の第2相および第3相試験の結果を発表 MCIあるいは軽度のアルツハイマー病の患者が対象 AAIC 2019
2019年08月08日
DPP-4阻害薬「スイニー」にLDLコレステロール低下作用 スタチン服用中のハイリスク2型糖尿病患者で