糖尿病診療の目

糖尿病と体重

松葉 育郎 先生(聖マリアンナ医科大学 臨床教授・松葉医院 院長)

筆者について

 糖尿病患者さんに求められている4つの管理目標は、血糖、体重、血圧、血清脂質というお話をしてきました。今回は、糖尿病と体重の関係について述べてみたいと考えています。どのように患者さん自身が体重を血糖コントロールの改善に反映し、維持するために取り組んでいけるかを具体的に考えてみます。

体重計だけで良好な血糖コントロールを保つ患者さんも

 私は、糖尿病患者さんには必ず体重を自分自身で量る、体重計に載るという習慣をつけていただくことをお願いしています。できれば、体脂肪を測定できる体脂肪計付きの体重計を使用することを推奨しています。

 糖尿病のコントロールを良好に保ち、維持していくために、血糖を自分で測ったり、自身で検尿し、尿糖をみたりすることの有効性を前回、お話してきました。実は、この体重を細目に計り、常に気をくばることだけで、良好な血糖コントロールを達成し、維持できる患者さんも、いらっしゃることを知っていただきたいのです。

 糖尿病と言えば、太り過ぎ、いわゆる肥満と関係があることは、良く知られています。肥満は、単に体重が増えることではありません。摂取エネルギーが、消費エネルギーを上回った結果、予備のエネルギーとして蓄積された体脂肪が、必要以上に増えた状態です。体重は体格に影響をうけるので、一般的には体格指数Body Mass Index(BMI、体重(Kg)を身長X身長(m)で除した値)で比較検討に用いられています。この肥満と糖尿病の関係については、後藤由夫先生の解説を参照してください(参考:糖尿病セミナー7「肥満と糖尿病」 ▶)。

 糖尿病の基本療法である食事療法は、摂取エネルギーをコントロールし、適切にすることが目的であり、運動療法は体を動かし、消費エネルギーを増やすことでエネルギーバランスを保つことが目的です。過体重であれば、エネルギーバランスを「負」に傾けるようにしていく。このバランスシートを、体重を量ることで理解し、自分自身で食事量、運動量を大まかに工夫していくことが、結果として血糖コントロールに繋がっていきます。

 実際に、食事・運動療法の細かい知識をもたなくても、体重計だけを頼りに良好なコントロールを維持している患者さんを、私は「無作為の達人」と呼んでいます。

日本人の体重はわずかに増加している
糖尿病患者さんの体重も増加傾向

 糖尿病データマネージメント研究会(JDDM)からの日本全国での調査結果からは、1型糖尿病、2型糖尿病のいずれにおいても、この10年間でBMIが僅かに増加しています。糖尿病患者さん全体では、2002年のBMI 24.02から2013年のBMI 24.92まで増加しています。2013年には、2型糖尿病患者さんのBMIは25.0に達しています。

 日本肥満学会の肥満の定義はBMI 25以上であることから、約50%の患者さんが肥満を伴っていることになります。BMI 22が標準体重であることを考えると、BMI 22以上を過体重、肥満とした患者さんは、少なくとも70~80%は存在するとも推察されます(参考:糖尿病データマネジメント研究会 ▶)。

 平成24年 国民健康・栄養調査結果の概要によると、肥満者(BMI≧25)の割合は、男性29.1%、女性19.4%でした。糖尿病患者さんでは、一般の日本人よりも明らかに肥満者が多いことが窺えます。

 さらに、日本人は欧米人に比べるとBMIが比較的小さくても糖尿病などにかかりやすいことがわかってきています。10年間、初診糖尿病患者さんの空腹時インスリンとBMI、血糖、血圧、血清脂質の関係をみたデータからも、BMIは24~25前後とわずかな増加でした。しかし、空腹時インスリン値低下には、このわずかなBMIや腹囲の増加が、ほかのメタボリック因子(血圧、脂質)よりも大きく関係してることが明らかになってきています(参考:Diabetes Care 2012; 35(9):1853-7. ▶)。

日本人のBMIと糖尿病

 さて、太ってきていることは糖尿病だけにみられる傾向でしょうか? 糖尿病でない一般の日本人では、どうなっているのでしょうか? 厚生労働省のホームページをみると、男性の場合は、どの世代でも10年前、20年前より明らかに肥満者の割合が増えています。特に40歳代から60歳代の肥満者は30%を超えています。女性では、30歳代~60歳代において肥満者の割合が20年前、10年前と比べて減少しており、また、20歳代~40歳代においては低体重(やせ)が増加傾向になっています。

 戦後直後には、20歳以上の男女の体格は年齢による差が余りなく、おおむねBMIが21~22程度でした。最近の傾向では各年齢とも男性では太ってきています。戦後の日本人の平均BMIをみると、BMIは増加傾向であることは糖尿病患者さんと変わらないと考えれらます(参考:日本人の肥満(厚生労働省) ▶)。

 戦前、戦後で日本人の摂取カロリーはわずかには増加傾向ですが、2倍、3倍にはなっていません。3大栄養素の中では、脂質の割合が3~4倍に増加しているのが特徴であり、このことが日本人のメタボリックシンドローム体質から、糖尿病予備群へと進行していく内臓脂肪の蓄積へと関係があると考えられています。体重増加の原因としては、摂取エネルギーがそう変化してないことを考えると、消費エネルギーの減少が大きく関係しているとも考えられます。科学技術の進歩により、便利な社会へと発展したことは幸福の追求であり、一方、貧困の時代を乗り越えてきた日本の近代化の波にみられる「負」の部分のひとつが生活習慣病とも考えられます。

 次回は体重の増減と血糖、血糖コントロールの指標の関係について述べてみます。

参考資料

(2015年04月01日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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