糖尿病診療の目

患者さんが血糖変動を理解することの意味
―その重要性と指導法―

松葉 育郎 先生(松葉医院 院長)

筆者について

 第1回では『糖尿病治療の目指すところは?』と題し、血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロール状態の達成と長期的な維持が求められているお話をしました。第2回『求められる血糖コントロール値とは?』では、血糖の管理目標の実臨床(Real World)での到達度をお話いたしました。今回は、皆さんが最も身近に考えている血糖について、患者さん自身がどのように取り組んでいけるかを具体的に考えてみます。

血糖変動を知ることの意味

 患者さんは、こうしたら血糖値が下がり、糖尿病のコントロールは改善するとさまざまな指導を受けて実践を求められています。自分自身で工夫をしたりしても、自己注射をしている患者さんを除くと、継続的に長期にわたり血糖値の変化を知ることは、保険診療が適応されないため、費用の面なども含め難しいのが現状です。

 一人ひとりの患者さんの個性に合わせて治療を組み立てるためには、血糖の動きを知ることは欠かせない情報であるはずです。自分の血糖値の変化をまったく知らずに、もしくは、血糖を測ることを知らずに、糖尿病の治療に取り組んでいくということは、羅針盤を持たずに、大海原に海図だけで船出するような危うさを感じるのは私だけでしょうか? HbA1cだけを知っていれば、十分な糖尿病のコントロールが達成できるのでしょうか?

血糖自己測定(SMBG)の普及と現状

 かつて、インスリン非使用者でも血糖が測れる保険診療を目指し、多くの先生方が努力してきたことを皆さんはご存じでしょうか? 血糖を患者さん自身が測るようになったその経緯や歴史は、糖尿病ネットワークの連載『血糖自己測定 SMBG』(池田義雄 先生) ▶ をご参照ください。SMBG(Self Monitoring of Blood Glucose の略で、血糖自己測定のこと)がどのように、日本で始まり保険診療の中で取り組まれてきたかがわかりやすく解説されています。

 2013年には、糖尿病専門医からの要望もあり、インスリン療法中の患者さんのほか、中等度以上の2型糖尿病の患者さんに健康保険が適用されるようになりました(年に1回のみ)。しかし、継続的に使用できないなどの理由で、実際にはあまり行われていないことも事実です。

 一部の患者さん自身が興味をもち、自ら自費で購入して自己測定をしているケースもあります。しかしながら、高額な費用がかかり、多くの患者さんに普及しているわけではありません。少しでも、安い機器、付属品を探しているという実情もあるとお聞きしています。

 私自身は、初診の患者さんや血糖コントロールがなかなか改善していない患者さんには、一定の期間を設けて集中的に血糖を測り、生活習慣の点検、見直しに役立てることを推奨しています。しかしながら、毎日小まめに血糖を測ることは、精神的に負担になる場合もあります。指先を自分で穿刺して血液を採るのが怖い患者さんもいることも事実です。また、高齢な患者さんには無理な要求とも考えられます。

当院の試み
「食べて、体を動かし、血糖はどうなる―血糖を測ってみよう」

 そこで、当院の糖尿病教室では、食事や運動が血糖値にどのような変化を及ぼすかを、患者さんに実際に体験していただくカリキュラムを取り入れました。

松葉医院で行われている糖尿病教室

 当院では、実際の調理実習室を借りて、体験から学ぶ糖尿病教室「糖尿病食を楽しむ会」を年2回開催しています。本稿では、第30回までのプログラムを、みなさんの参考になればと思い、紹介させていただきます。

図1 運動のタイミングと食事内容の違いで食後血糖値変動の違いを体験学習から学ぶ
(食材の組合せなどで食後血糖値変動を調節:
患者会「糖尿病食を楽しむ会」でのSMBG結果から)

Aさん、境界型糖尿病、女性

Bさん、2型糖尿病、女性、73歳

Cさん、2型糖尿病、女性、73歳

 図1は、連続して参加された方の結果です。同じ人の結果でも、運動の仕方、タイミング、食事の内容、食べ方によって、このように血糖の動きは異なってきます。われわれ医師は、個人差があり、一人の人でも、運動や食事の摂り方によって変化するということを認識する必要があります。例えばCさんの場合は、食後に運動をする方が効果を期待できそうですが、食後の運動のタイミングはもう少し遅くした方が良い可能性があります。

 このように、ひとつの事象からさまざまな情報を得ることを心がけ、その方の状態を推測し、食生活の取り組み、運動のタイミングなど、生活習慣の中での試みを、一人ひとりに合わせて提案しています。

手軽にできる自己検尿のすすめ

 血糖を自分で測るのが効果的とはいえ、やはり毎日SMBGを行うのは手間も時間もお金もかかることは否めません。手っ取り早く、簡単に安くできることはないのでしょうか? 実は、簡単に年配の方でもできることがあるのです。それは、自分で検査する検尿、いわゆる、「自己検尿」と言われている手技です。トイレに尿試験紙を置いておいて、排尿時に少量の尿につけるだけで、大まかな血糖値の動きが反映された尿糖の情報を知ることができます。詳細は、糖尿病ネットワークの連載『尿糖チェックで糖尿病コントロール』 ▶ をご参照ください。

尿糖が出る仕組みと活用法

 人にはそれぞれの腎臓へブドウ糖が排泄される閾値があります。腎閾値(腎からの尿糖排泄閾値)とは、腎臓から尿に糖が排泄される血糖の値です。一般的には、血糖値が160~180mg/dLを超えると尿糖が排出されてきます。朝、眼が覚めたらトイレに行き、まず排尿し、少し経ってから、再度検尿をしてみましょう。これでわかることは、あなたの空腹時血糖が160~180mg/dL以下ならば尿糖はマイナス(色がかわらない)になるはずです。色がつけば、空腹時血糖が160~180mg/dL以上ある可能性が高くなります。また、食後の血糖値を大まかに知ることもできます。食後1~2時間でも良いので、尿糖を見ていけば、200mg/dL以下の目標を考えるなら、色が変わらなければ(マイナス)食後血糖は200mg/dL以下になっているはずです。

 尿糖の多寡が、腎臓から溢れ出たブドウ糖だとわかっていれば、尿糖検査を小まめに見ていくことで血糖値の動きを推測することができるはずです。

自分の血糖変動の傾向を知り、治療に活かす

 血糖の動きを患者さん自身が知る手段として、血糖自己測定(SMBG)と自己検尿のふたつを紹介してきました。実際にチェックしてみると、人によってさまざまな違いがあり、そのことを承知して、自らの糖尿病とのつき合い方を模索できるようになることを期待しています。

 次回は、「目指すべき体重」について知っておきたいことを述べてみます。

(2015年03月02日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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