糖尿病の地域連携は拡大している 全国の成功例を紹介

2014.06.02
第57回日本糖尿病学会年次学術集

 シンポジウム「地域連携の夢と実践」が第57回日本糖尿病学会年次学術集で開催され、糖尿病の病診連携の展望が語られた。診療所、地域の中核病院、大都市の中核病院という切り口で、島根・松江、岐阜、新潟・魚沼、大阪・高槻、福岡・小郡・大刀洗、愛媛・八幡浜、埼玉の実例が発表された。

 厚生労働省から2007年に出された「糖尿病の医療体制構築に係わる指針」は医療の機能と時間の流れで作成されており、血糖コントロール改善や教育入院などを目的とする集中的な専門医療、急性合併症に対する治療、透析のような慢性合併症に専門的治療のそれぞれの役割を複数の病院で分担し、平常の診療は診療所で行う仕組みになっている。

 現在、各地域の実情に合わせて、さまざまな連携が行われているが、その多くは、1、2ヵ所の中核病院(専門医)と、周辺の診療所(主として非専門医)の連携だ。

 糖尿病専門医の数は5,000人未満で十分ではなく、専門外来は飽和状態にあり、病診連携が重要となる。特に、糖尿病を専門としない医師と専門病院との連携がますます必要となる。

専門医と非専門医が協力する循環型の糖尿病診療

 糖尿病の病診連携で求められているのは、専門医と非専門医との協力による「循環型」または「双方向型」の糖尿病診療で、かかりつけ医と専門病院との間の紹介・逆紹介を介した双方向性の診療システムが重要となる。

 各地で地域共通連携パスの運用を開始され、病診連携が実際に運用されることで、病診連携に参加する医療機関や紹介される患者数が増えている。その一方で、浮き彫りとなっている問題点は、病院から診療所への紹介、いわゆる逆紹介の件数も紹介件数がなかなか増えないことだ。

 松江赤十字病院は、島根県東部の拠点病院で、松江地域及び周辺郡部(隠岐・雲南)約30万人を医療圏としている。2001年以降、地域での病診連携に力を注いでいる。

 同病院は、紹介した患者が戻らないことによる診療所の病院への不信感を払拭するために、血糖コントロール良好患者を積極的に逆紹介しているという。

 悪化の懸念と逆紹介の受入易さを考慮して循環型とし、2006年には累積逆紹介患者数は1000人を越え、同年に県内を8地区に分け、それぞれの地域に糖尿病対策会議が設立された。

 同県での糖尿病対策は、医師会(開業医)、中核病院、行政(役場、保健所)三者の協力で行うことが基本で、松江地域、隠岐地域(2011年から雲南地域)の病院専門医委員として各地域での糖尿病対策事業に携わっている。

 岐阜県西濃地域では2001年に循環型の地域連携診療を開始し、2010年から特定健診の糖尿病ハイリスク群にブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施し介入に結びつける保健と医療の連携システムを構築した。

 具体的には、糖尿病連携手帳を活用し、登録医療機関は93、登録患者は712人(経口薬78%、インスリン13%、GLP1作動薬5%)に上っている。半年毎の当院の地域パス外来への受診率は97%。20%が受診時に栄養指導や透析予防指導を受けている。

 大垣市民病院の受診時HbA1cは平均6.7%で、インクレチン薬の登場で悪化率は低下しているという。

医師以外の医療スタッフの役割も大きい

 連携医療で一般にイメージされる「軽症例はかかりつけ医、重症例は病院」というパターンは必ずしも当てはまらない。軽微の高血糖であっても、はじめて糖尿病と診断された患者への教育・指導は、その患者の経過・予後を決定づける可能性がある。連携は医師の間だけにとどまるのではなく、医療スタッフの連携も職種を超えて拡がるべきとしている。

 インスリン導入や合併症予防のための指導には知識とスキルが求められるが、医師だけでは地域連携医療は成り立たない。これらの指導業務を担う主体は、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)をはじめとするコメディカルスタッフだ。

 糖尿病療養では、他の疾患以上にスタッフ同士の連携が重要となる。スムーズな連携ができているほど、患者の治療の質の満足度も高くなる。

 新潟県魚沼地域では、高齢化率が30%を超え、人口あたり医師数が全国平均の5割強しかおらず、常勤の糖尿病専門医がいない。医療機関の連携は必須だが、それだけは合併症のハイリスク者である未治療患者や治療中断者を救うことには限界がある。

 魚沼地域糖尿病対策推進会議は、住民への講演会や医師・看護師・薬剤師・栄養士などの多職種合同研修会を行っており、2009年からはすべての医療者がHbA1c8%以上の方を放置せずそれぞれの立場で介入することを目指し、「医療者プロジェクト8」を立ち上げた。

 2010年からは、厚生労働科学研究事業「糖尿病の重症化・合併症予防に資する地域連携の多角的評価の研究」に参加し、糖尿病コントロール状況はHbA1c8.0%以上の比率は2010年の8%から2012年の5%に、5.8%未満は26%から39%に改善した。

 薬剤使用状況は低血糖リスクを減らしDPP-4阻害薬の適正使用を啓発することで、SU剤使用患者は50.6%から31.4%と減少、DPP-4阻害薬の使用者は1.4%から39.7%と増加した。

連携パスは患者にとってもメリットが多い

 大阪府の高槻市医師会では、医師会主導型の多施設共同地域連携パスを2007年から稼働させ、地域完結型の糖尿病診療の構築を目指している。診療所から173人、病院から893人、計1066人がパスの導入となった。

 連携パスを作成しただけで連携がうまくわけではない。実際には顔と顔が見えるface to faceの関係をつくることが重要で、パスは連携を適切に機能させるためのツールに過ぎない。お互いの信頼関係を高めることが何よりも重要となる。

 高槻市は医師会の加入診療所数が多く、勉強会などへの参加率も高いという。こうした研鑽の場で診療所医師と勤務医が顔を合わせることで、両者が盛んに交流する土壌が築かれてきた。

 病診連携という言葉が広く浸透する以前から、病院と診療所との交流があり、患者さんを紹介、逆紹介する関係が成り立っていた。加えて、2007年には医師会の中に地域連携パスの準備委員会を立ち上げ、その下に脳卒中、大腿骨近位部骨折、急性心筋梗塞、糖尿病について、疾病ごとの小委員会を設け、それぞれの地域連携パス作成をスタートさせた。

 患者にメリットがなければ、連携パスはなりたたないので、患者により良い医療を提供することが必要となる。患者に説明し、納得を得るというかなり高いハードルがあるが、連携がうまく行けば三者にとってメリットは大きい。

 埼玉県は全国で最も人口対の医師数が少ないだけでなく、急速な高齢化も進行している。従来は大学病院からの派遣に依存し医師を確保していたが、新臨床研修制度が施行された頃から、医師不足は深刻な問題となった。特に糖尿病専門医の不足は深刻だ。

 これらの課題の解決へ向けた検討の為、2006年度、東埼玉総合病院は「地域糖尿病センター」を設置し、糖尿病地域医療再生へ向けた手探りの取り組みが始まった。

 2007年度には、循環型地域連携パスを用いた連携診療「二人主治医制」の稼働を開始した。現在、安定した糖尿病患者を中心に、診療所51施設により、糖尿病患者550人を循環型連携パスにより連携診療を行っている。

 2012年7月からは、地域医療ITネットワークシステム「とねっと」が稼働開始となった。地域の119医療機関と双方向の情報共有を行っている。既に、電子版糖尿病連携パスの稼働も開始した。2013年時点で1万4,000人を越える地域住民がとねっとに加入登録している。

データベース活用で病診連携を効率化

 実地医家が期待するのは、▽管理栄養士により食事指導、▽インスリン療法の導入、▽糖尿病合併症のチェック、▽緊急時(低血糖・高血糖・合併症悪化など)の入院治療など。

 一方で、病院では▽頻回の外来診療が苦手、▽診察の待ち時間が長い、▽1回あたりの診療時間が限られている、▽慢性疾患の患者を多く抱えるのは経済的に不利、といった課題を抱えている。

 糖尿病の病診連携は、他の疾患の連携パス、例えば脳梗塞や大腿骨頸部骨折などとは同じではない。一方通行になるのではなく、拠点の病院と診療所が連携し、年に1度ほど病院で合併症のチェックを受けるという、「緩やかな連携」が重要となる。

 そのために,糖尿病診療に必要な項目を診療所や他診療科の医師やコメディカルスタッフに分かりやすく,かつ持ち運びに便利なようにコンパクトにまとめる必要がある。将来は電子データベースを活用することで効率化がはかられる可能性がある。

 病診連携を拡大するために、連携の当事者以外の第三者がかかりつけ医への紹介を促し、振り分けてつなげるシステムの役割を行政が担う必要もあると結んだ。

第57回日本糖尿病学会年次学術集会

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