低血糖への対策 個別化された医療をめざして血糖コントロール
2014.05.28
第57回日本糖尿病学会年次学術集会
糖尿病治療の目標のひとつは「糖尿病であっても健康人と変わらない日常生活の質を保ち、健康人と変わらない寿命を確保すること」。HbA1cを下げれば糖尿病合併症の発症リスクが低下することが、さまざまな介入研究で確かめられている。一方で、米国のACCORD試験などで、「HbA1c低下を達成できたが、低血糖が増えて、結果として総死亡が増加した」という結果が示され、低血糖への対策はあらためて注目されている。第57回日本糖尿病学会年次学術集会で、重症低血糖の実態と克服に向けた対策が議論された。
糖尿病治療の目標のひとつは「糖尿病であっても健康人と変わらない日常生活の質を保ち、健康人と変わらない寿命を確保すること」。HbA1cを下げれば糖尿病合併症の発症リスクが低下することが、さまざまな介入研究で確かめられている。一方で、米国のACCORD試験などで、「HbA1c低下を達成できたが、低血糖が増えて、結果として総死亡が増加した」という結果が示され、低血糖への対策はあらためて注目されている。第57回日本糖尿病学会年次学術集会で、重症低血糖の実態と克服に向けた対策が議論された。
高齢者における低血糖
網膜症、腎症、神経障害(細小血管症)や、心筋梗塞、脳卒中(大血管症)などの「合併症」は、生命予後や生活の質(QOL)を脅かす要因となる。1型糖尿病、2型糖尿病を問わず、良好な血糖コントロールは糖尿病合併症の発症進展を抑制する。しかし、より厳格な血糖コントロールを求めれば求めるほど低血糖リスクは高くなる。低血糖を起こさない個別化された糖尿病医療が必要とされている。 重症低血糖とは一般的に「血糖値が50mg/dL以下で意識障害をきたし、受診・治療に第三者の援助を必要とする低血糖」とされる。低血糖による障害は血糖値改善後しばらくして意識が改善する可逆的なものと、血糖値改善後も意識障害が残る不可逆的なものに大きく2つに分けられる。救急外来に搬送される低血糖症の多くは前者だが、後者の中には意識障害が遷延し深刻な後遺症を残す症例もあるという。 岩倉敏夫氏(神戸市立医療センター中央市民病院糖尿病内分泌内科)は、2008年から2010年までの3年間に搬送された患者のうち、糖尿病治療薬による重症低血糖と診断した2型糖尿病患者135人の特徴と背景を調査分析した。 その結果、重症低血糖のリスクファクターとして、(1)スルホニル尿素(SU)薬かインスリンを使用、(2)高齢者(平均年齢74歳)、(3)HbA1c低値、(4)腎機能低下などが挙げられるという。特にHbA1cが低値にコントロールされており、SU薬を処方されている患者では注意を要するという。 低血糖に対策するための教育・指導として、特に高齢者にSU薬やインスリンを使用する場合には、患者および家族に低血糖の危険性を伝えて対処法を確認しておくことが重要となる。実際に搬送されてくる重症低血糖患者の多くは低血糖の知識・経験がなく、糖尿病治療薬を内服していることさえも知らない場合も少なくない。重症低血糖は心血管病の危険因子となる
2型糖尿病患者における「重症低血糖」は心血管病リスクと関連することが、後藤温氏(国立国際医療研究センター糖尿病研究部)らの、6研究・90万人以上を対象とした研究で明らかになった。国立国際医療研究センター糖尿病研究部の研究チームは、合計90万3,510人の患者を対象とした6件の研究を、メタアナリシスとバイアス分析で検討した。 その結果、重症低血糖と心血管病リスクの上昇とは関連しており、低血糖を起こすことなく、厳格なコントロールを達成することが、死亡率を減らし、心血管イベントを抑制する上で重要であることが示唆された。 主な結果は次の通り。(1)重症低血糖は0.6~5.8%の頻度で発生していた。(2)メタアナリシスの結果、重症低血糖の心血管病リスクは2.05倍(95% 信頼区間1.74-2.42)だった。全6件の研究において、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連していた。(3)バイアス分析では、併存する重篤疾患が重症低血糖と心血管病リスクの双方にきわめて強く関連していない限り、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連することが示された。 辻本哲郎氏(国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科)は、1型糖尿病患者(T1DM)と2型糖尿病患者(T2DM)における、重症低血糖時の臨床所見やその違いについて解説した。重症低血糖を呈したT1DMとT2DMはどちらも心血管疾患、致死的不整脈、死につながりうる危機的状態を呈していたが、異なる臨床所見も多いという。 緊急外来に救急車で搬送された重症低血糖と診断された1型糖尿病患者と2型糖尿病患者の414例の来院時の血糖値の中央値はT1DM 32mg/dL、T2DM 31mg/dLで有意差は認められなかったが、HbA1cは8.3%と6.6%で、2型糖尿病患者のHbA1cは低値だった。 また、T1DM患者に比較すると、T2DM患者では年齢が有意に高く、既存の高血圧や心房細胞、心血管疾患の既往が多く認められた。腎機能もT2DM患者の方が有意に低下していた。T2DMにおいては重症低血糖時に重症高血圧(180/120mmHg以上)を38.8%に認め、治療とともに速やかに血圧は低下していた。しかし、T1DMにおいて重症高血圧は19.8%であり治療前後で血圧の有意な変化は認めなかった。 南和氏(草加市立病院救急科)は、救急救命士による血糖測定やブドウ糖投与の教育プログラムを開発について紹介した。今春、救急救命士が行う救急救命処置の範囲が拡大され、血糖値の測定とブドウ糖溶液の投与が行えるようになった。埼玉県内の救命士約300名に対し、プログラムに基づき講義・シナリオシミュレーション・筆記/実技試験による講習会を実施したところ、結果は予想を上回る好成績で、糖尿病に対する関心の高さが示されたという。救命士による血糖測定が実現すれば、適切な病院選定や迅速な血糖補正に役立つ可能性がある。低血糖を起こさない個別化された医療
楠宜樹氏(兵庫医科大学内科学糖尿病・内分泌・代謝科)は、「2型糖尿病治療では低血糖を起こしにくいインクレチン関連薬の登場によって、治療内容は変化してきている」と指摘した。DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬を使用した症例では、インスリン治療中の2型糖尿病例では、DPP-4阻害薬を併用することで、使用インスリン量を減少し、低血糖頻度を減少させることができたという。また、インスリン治療では低血糖を起こしやすい症例では、GLP-1受容体作動薬へ切り替えることで夜間や日中の低血糖を回避することが可能となる。 1型糖尿病症例においても、単剤使用では低血糖を起こしにくいα-グルコシダーゼ阻害薬の併用した症例で、血糖の日内変動の改善とともに低血糖頻度の減少がみられた。また、持続血糖モニター(CGM)を施行すると、夜間や日中の無自覚性低血糖が発見されることがある。このような症例に頻回注射療法から持続皮下インスリン注入(CSII)へ変更することで低血糖の改善を含めてより安定した血糖コントロールを得られたという。 黒田暁生氏(徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター)は、自己血糖測定器に求められる精度は75mg/dL未満では±15mg/dL以内であり、測定血糖値はある程度の誤差を含む。血糖測定器の誤差範囲を考慮すれば血糖値が79mg/dLを示していても、真の値は70mg/dL未満の可能性は否定できないことを指摘した。そのため血糖値が80mg/dL未満になれば、症状がなくても積極的に捕食すた方が良いという。一方で、ブドウ糖1gで血糖値が5mg/dL上昇するため、過剰な糖質摂取のために逆に高血糖をきたす場合があるので注意が必要となる。 また、自動車運転中の糖尿病患者が重症低血糖のために交通事故を起こすのを避けるために、米国糖尿病協会の4つのガイドラインを紹介した。(1)血糖測定器具と低血糖対策の食べ物を常に携帯する。(2)血糖値が70-90mg/dLでは予防的な炭水化物を摂らずに運転すべきではない。運転前に血糖測定を行い、長距離運転の際には血糖測定を行う。(3)低血糖症状があれば速やかに車を停めて血糖値を測定して低血糖の対策をする。(4)低血糖から回復しても30-60分経つまで運転しない。
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[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]