“血糖トレンド”をどう活用するか

血糖トレンドを活用した食事療法の可能性

國枝 加誉 先生とくだ内科クリニック 管理栄養士・健康食育シニアマスター
筆者について

はじめに

 本来、血糖変動は波のように動くもの。これまでは自分の意志で測定する「点」しか見えませんでした。筆者自身、17歳時の糖尿病発症を機に管理栄養士となり、インスリン強化療法と血糖自己測定(以下:SMBG)で 療養を続けています。指先穿刺の痛みは元より、一連の測定の流れにかかる手間や人目を気にしてSMBGがおっくうになることもありましたが、現在はFlash Glucose Monitoring(以下:FGM)とSMBGを適時活用し良好な血糖コントロールを保っています。
機器の進化で血糖変動はかなり把握しやすくなり、今後は血糖以外の指標もモニタリングして様々な臓器への長期にわたる影響を考慮し、サルコペニアや他疾患の予防を踏まえた元気に過ごせるための生活の知恵が求められます。本稿では血糖トレンドを活かした「これからの食事療法」について述べます。

前提として

 血糖ばかりに意識が向きがちですが、体温や便通(良い便が出せているか)、体組成は適正かなど、糖尿病療養では「血管を丈夫に保ち心身を健康に保つこと」を目的に、短期・中期・長期に分けた目標設定が必要と思われます(図1)。日々の食事や身体活動を上手く付き合い血糖を適正範囲に収めることは、短期目標として非常に重要です。

図1 糖尿病をコントロールする目的と短期・中期・長期目標(イメージ図)
図1

食事療法に必要な視点

 図2は様々な要因で血糖が変動することを示し、食事以外の要因も整えることの重要性を患者さんに伝えるためのスライドです。赤い丸は上昇要因、青い丸は抑制要因で、黄色は方法によって上昇と抑制どちらにも働くものです(例 飲酒は肝臓がアルコール分解を行う間、糖新生が抑制され血糖上昇が抑えられますが、飲酒内容によって血糖を上げます)。上昇要因を抑えるだけでなく抑制要因も増やすという双方向で、日々の生活習慣全体へのアプローチが必要です。

図2 血糖変動の要因(イメージ図)
図2

血糖管理によって細小血管障害を予防し、動脈硬化を防いで大血管障害を起こさないこと、さらには心の安定を保つことを目標に、糖尿病の食事療法では次の点に留意する必要があります。

  • 体格と身体活動に準じたエネルギー量を摂取する(過不足がないか)
    ▶ 炭水化物(糖質)・脂質・たんぱく質のエネルギー比率が適正
    ▶ 糖質は複合糖質を中心とし、単純糖質は過剰にならないこと(血糖の乱高下を防ぐ)
    ▶ たんぱく質や脂質の質を高める
  • 食物繊維、ビタミン、ミネラルを充足する
  • 体組成のうち特に筋肉量が減じないようにする
  • 孤食を防ぎ食事の場からストレスオフを目指す

血糖トレンド予測のポイント

 血糖トレンドの活用により期待できることは次の2つに大別できます。

  • 低血糖 夜間などの隠れ低血糖の発見、低血糖の予防、低血糖時の適切な対処
  • 高血糖 血糖変動を予測し高血糖を予防する

 血糖トレンドの活用で重要なことは、都度のグルコース値に一喜一憂せず今後の変動を予測すること、血糖トレンドを計測できる機器に表示される時間帯ごとの傾向など(図3)から、患者さん自身が解決すべき課題をより明確にすることだと考えます。秀逸なのがAGP(Ambulatory Glucose Profile)をはじめとした、血糖トレンドのレポート(図4)で、このレポートを医療者と共に分析し対策を練ることが重要です。患者さんにはスキャンと適時の血糖測定と、医療者に記録できない食事内容の写真や身体活動状況のメモを可能な範囲で持参いただくことで、より具体的なアドバイスが可能となります。
 ただし、FreeStyleリブレのグルコース値とSMBGの血糖値には、タイムラグや炎症反応など様々な理由で差異が出ることがあり、FreeStyleリブレは「波の把握とトレンド予測」に活用する機器であること、SMBGを並行実施し「自分の場合はこれくらい差異がある」と落ち着いて考えることを推奨しています。
ここでは恥ずかしながら筆者のFreeStyleリブレの結果を共有します(データを完璧に入力できていない点はご了承ください)。

図3 リーダーの表示と活用例
図3

 

①日内パターン:夜間低血糖や血糖の乱高下がないか
②時間帯ごとの平均値:比較的、高血糖の時間帯を見つけやすい
③目標範囲内の時間:高血糖と低血糖のどちらを優先すべきか
④低グルコースイベント:頻発する時間帯から攻略していく

 

図4 レポートと分析の一例
図4 図4 図4

①日内パターン(AGP):血糖トレンドの曲線から、日内のバラツキが確認できる。
②週別サマリー:日別に平均グルコース値、インスリン投与量、カーボ摂取量を表示。カーボカウントを行う方に適している。

血糖トレンドに影響をあたえる食事の要因を掴む

 食事は生命を維持し元気に過ごすために欠かせないものです。日々の血糖変動に最も影響を与える「糖質」の質と量への配慮は非常に有効ですが、1日全体の食事内容と血糖変動、場合によって前日の体調や活動量も加味して評価する必要があります。FGMでの矢印は以下の要因を考慮すると予測しやすくなります。

上昇要因

現代では食事に時間をかけず必然的に血糖上昇を招く食環境の方が増えています。上昇要因に少しずつ気をつけるだけでも安定した血糖変動を得られます。

1. 糖質の質と量

消化吸収の早い単純糖質が多いと、血糖はロケットスタートのように上昇します。複合糖質でも消化が早いと食後にぐんと上がるもすぐに下がり食前のみの血糖測定で食後高血糖が見過ごされがちです。消化吸収の早い糖質は血糖抑制効果のある食品と一緒にゆっくり食べるか食事の最後にし、特に単純糖質は一度に大量に摂らない工夫が必要です。
(参考)血糖値の上がりやすさを示すGI値(Glycemic Index)より、各食品の常用量が加味されたGL値(Glycemic Load)の活用が現実的です。

2. 見えにくい単純糖質

外食や加工食品で多用される、たれ・ソース類やインスタント食品では、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖など)が含まれることがあります。加工食品は栄養成分表示や原材料を見て、外食や中食はトライアンドエラーで傾向を掴みましょう。

3. 脂質とたんぱく質

血糖値を急速に上げませんが、消化吸収に時間がかかり次の食前までに血糖値が下がらない場合もあります。この特性を活かし、次の食事まで間隔が長くなりそうな時や眠前補食で、脂質やたんぱく質を適度に取り入れることも有効です。しかし過度な脂質・たんぱく質は胃腸での消化に負担をかける可能性があり、摂りすぎは注意が必要です。

4. 食事のタイミングと間隔

朝は昼や夕方に比べてインスリンが効きにくく、また欠食や仕事の影響で食事間隔が開き空腹時間が長くなると食後血糖が跳ね上がりやすくなります。

抑制要因

血糖の抑制要因を増やすことは動脈硬化性疾患の予防にも繋がります。

1. 食物繊維

現代では圧倒的に不足しています。水溶性食物繊維は摂取後にゲル化して糖質を包み込み、小腸での糖吸収を穏やかにします。不溶性食物繊維は咀嚼を要する食物に多く含まれゆっくり食べにつながるため、間接的に血糖上昇を抑えてくれます。

2. 食べ方と咀嚼

野菜から食べるベジファーストでは、水溶性食物繊維の多いネバネバ系の野菜や海藻を最初に食べると良いでしょう。さらに不溶性食物繊維を増やし、おちょぼ口で食べる、食器を置いてゆっくり噛むなどでも咀嚼回数は相対的に増えます。食べ方にも配慮して普段から胃腸が元気に働くようにし、消化不良や吸収遅延を防ぎ血糖変動も安定しやすくなります。

3. その他

インスリンの自己分泌のある患者さんの場合、青魚が腸管でのインクレチン分泌を促進してインスリンが追加分泌され血糖を抑制できるとも言われています。
(参照)http://dm-rg.net/contents/guidance/039.html

具体的なシーン別対策

① 外食でのカレー・パスタ

糖質と脂質が多いため血糖は高めで下がりにくくなります。脂質が過剰な場合は血糖上昇のピークが後ろにずれ、インスリンが先に効いて低血糖になる可能性もあります。
対策:食前に海藻サラダ、具沢山の野菜スープをとる、ご飯や麺の量を事前に確認し調整してもらう(外食では原価計算で主食量はほぼ決まっています)

② すぐに全メニューが出ない宴会メニュー

野菜・きのこ・海藻類をできるだけ早い段階で胃に入れ、糖質を含むおかず(揚げ物の衣、甘い味付け)と主食系(ご飯、パスタなど)は量を調節するか、提供タイミングに合わせてインスリン注射を調整しましょう。

③ 低血糖の補食

低血糖はできる限り起きないことが望まれます。「低血糖予防のための補食」と、血糖を正常範囲に戻す「応急処置」を混同している患者さんを時々お見かけします。予防時には複合糖質と少々の脂質、低血糖発生時にはブドウ糖(またはブドウ糖を多く含む食品)で対処することが重要です。

食事以外での工夫

  • 超速効型インスリン 主治医の了承のもとで打つタイミングを早める
  • 食後の身体活動 特に食後1〜2時間は座りっぱなしにならない

食事における血糖の変動要因には消化吸収と代謝のメカニズムが大きく関わります。患者さんがその理解を深めながら血糖トレンドを把握することで、学びと体験のサイクルが早まり、小さな工夫を積み重ねることで食事に対する疑問や不安が少しでも減るはずです。
人の生活も食事内容も千差万別、薬剤や機器の進歩に感謝しつつ、患者さんがご自身の傾向を客観的に把握して専門家と共に対策を練り、人生の質を高められることを心から願います。

著者プロフィール

國枝 加誉 先生

國枝 加誉(くにえだ かよ)先生

とくだ内科クリニック ▶
管理栄養士・健康食育シニアマスター・一汁一菜研究家

大阪市出身、同志社女子大学卒業。自身が17歳でやせの2型糖尿病を発症、食健康の重要性を体感し管理栄養士の道へ。「生活習慣病の発症と重症化」双方の予防に重点を起き、医療機関での栄養相談、講演・セミナー、執筆、栄養士の教育などに従事。一汁一菜を軸とした日々楽しく美味しく実践できる『食健康の知恵』を伝え、ひとりひとりの健康の実現を目指して活動中。2018年11月よりとくだ内科クリニックにて栄養相談・療養相談を担当している。

血糖トレンドの情報ファイル
2019年08月21日
「10月8日は、糖をはかる日」講演会2019 参加者募集開始!
2019年08月21日
「10月8日は、糖をはかる日」2019年写真コンテスト作品募集開始!
2019年08月20日
金沢大学がAIを活用した糖尿病性腎症重症化予防の共同研究を開始 日本人に最適な予防法を開発
2019年08月13日
メトホルミンの禁忌は重度の腎機能障害患者(eGFR30未満)のみに 厚労省が安全性情報
2019年08月09日
「吸入インスリン」の第2相および第3相試験の結果を発表 MCIあるは軽度のアルツハイマー病の患者が対象 AAIC 2019
2019年08月08日
DPP-4阻害薬「スイニー」にLDLコレステロール低下作用 スタチン服用中のハイリスク2型糖尿病患者で
2019年08月08日
FDAが初の経鼻グルカゴン製剤を承認 重症低血糖治療の新たな選択肢
2019年08月02日
糖尿病合併症の検査の実施率に全国で格差 糖尿病腎症の検査の実施率は最高31.6%、最低10.8% 国立国際医療研究センター
2019年08月02日
糖尿病性腎症の予後因子としてタンパク尿の重要性を解明 腎生検にもとづく長期・大規模コホート研究「糖尿病性腎症レジストリー」
2019年08月01日
「SGLT2阻害薬」はケトアシドーシスに注意 「患者への説明も含めた十分な対策が必要」と呼びかけ 日本糖尿病学会