糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第30回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(4)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 56(2018年4月1日号)

はじめに

 前回は【A群】「血糖変動幅を減少させる薬剤」を高齢者に使用する際の注意点でしたが、今回は【B群】「空腹時血糖が下がり1日の平均血糖を改善する薬剤」のSU薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬を取り上げます。この中でSU薬は低血糖の元凶とされ「SU薬の時代は終わった」とある講演で聞きましたが本当にそうでしょうか? 当院では少量のSU薬をやめると、驚くほど血糖値が悪くなる治療歴の長い高齢糖尿病患者さんがいます。また高齢で経済的に厳しい方は予想以上にいらっしゃり、安価で有効例も多いSU薬は無視できません。「少量のSU薬は基礎インスリン」との感覚で使用 するのが良いと思います。SU薬を安全に使いこなすのは糖尿病診療をする実地医家の腕の見せ所でしょう。

【B群】空腹時血糖を下げ1日の平均血糖を改善する薬
①SU薬:(文献1)
 高齢者へのリスクはSU薬により大きく異なります。腎機能低下例では長く作用し、血中アルブミン低下症例も要注意です。各SU薬のうち最も強力で低血糖の起きやすいグリベンクラミド(ダオニールⓇ、オイグルコンⓇ)を使用している先生は少ないと思います。グリメピリド(アマリールⓇ)はよく用いられますが、案外強力なため0.5mg〜1mg/日を基本と心がけ、低血糖を十分確認しながら使用することが大切です。
 当院では高齢者のSU薬には低血糖を来しにくい、グリクラジド(グリミクロンⓇHA20mg錠)を朝1回、必要あれば朝夕で使用します。DPP-4阻害薬などとの併用で、低血糖が心配な場合、初期は半量の10mgからの開始がお勧めです。夜中の低血糖は気づきにくいので、高齢者では夜中には薬効を消失させるか、弱く持続させるかを判断し安全第一で使うのがコツです。
②ビグアナイド薬(BG薬):(文献2)
 「乳酸アシドーシスリスク」の呪縛から抜けられず、全く処方しない医師もいます。しかしCochrane reviewでは、乳酸アシドーシスは極めてまれで、海外のガイドラインでは高齢者でもメトホルミン使用が認められています。また、日本でも腎機能とメトホルミン使用に関する記述が詳しく紹介されています(文献3)。
 2018年1月に出たばかりのADAガイドラインでは、アテローム性動脈硬化性心疾患の有無で、併用薬の推奨が異なります。今回もビグアナイドを第一選択薬として推奨するという点では変わりはありませんでした(文献4)。また日本糖尿病学会の「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」では、eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合に禁忌、30〜45mL/分/1.73m2の場合には慎重投与としています。
 ビグアナイド薬は、シックデイには減量や中止ですが、高齢者では徹底は無理と想定し、当院では75歳以上と腎機能障害例では750mg/日以上は使用しないように心がけています。なおサルコペニアでは骨格筋量の減少からeGFRが実際より良く出る例があります。効果が強いブホルミン塩酸塩(ジベトスⓇ)は、高齢者には禁忌とお考えください。
③チアゾリジン薬(ピオグリタゾン):(文献5)
 以前より使用頻度は低減しましたが、他剤との併用によく用いられます。主としてインスリン分泌力の残る抵抗性の高い内臓脂肪型肥満の症例に使用することが多いと思われますが、ピオグリタゾン(アクトスⓇ)はBMIの如何にかかわらず血糖値が下がります。本剤は体重増加傾向が知られていますが、空腹による過食が一因のSU薬の場合と異なり、ナトリウム再吸収増加による体液貯留が一因子で、増加が止まらない症例は経験しません。足の浮腫で夜靴がきつくなる方もいるため、当院では高齢女性では15mg/日までとしています。
 もう一つ高齢者の「心不全」症例には使用しないことです。ハイリスク症例での血管イベントの減少が期待されるものの、慢性心不全症例が隠れており、自覚症状・浮腫、またBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:基準値18.4pg/mL以下)が100pg/mL以上などの高値になっていないか測定が必要な例もあります。
 なお海外の臨床試験で女性において骨折の発現増が報告されており(文献6)、骨粗鬆症例では好ましくないと考えます。膀胱がん増加リスクは日本バッシングとも感じるあれだけの論争の後、ほぼ心配ないとされました。しかし膀胱がんの既往症例では使用しないことになっているので、尿潜血陽性症例では避けるのが賢明です。

おわりに

 これらの薬剤を高齢者で安全に使用するポイントは①HbA1cが10%もあるからといってSU薬の高用量から使用するのは誤り。②HbA1cが高くても低血糖は起こる可能性がある。③空腹時血糖が一度正常近くまで下がるとインスリン抵抗性が急速に改善し血糖コントロールが見違えて良くなる。④その時、薬物量減量のタイミングを外すと強い低血糖も。
 「一度血糖が良くなると薬剤減量」との基礎知識の患者教育も極めて重要と考えます。SMBGができる方なら申し分ありません。

参考文献

  • 1) 加藤光敏 糖尿病リソースガイド スルホニル尿素(SU)薬(第11- 13回)
  • 2) 加藤光敏 糖尿病リソースガイド ビグアナイド薬(第2, 3回)
  • 3) 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017(南江堂):P62-65
  • 4) Diabetes Care 41(Suppl 1)S73-S85. 2018
  • 5) 加藤光敏 糖尿病リソースガイド チアゾリジン薬(第5回)
  • 6) 糖尿病治療ガイド2016-2017(文光堂):P50

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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