オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

65. 糖尿病の食事療法:新しいエビデンスからの構築を目指して

阪本 要一 先生(東京慈恵会医科大学客員教授)

阪本 要一 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 65(2020年7月1日号)

糖尿病と食事療法

 2型糖尿病の治療は食事療法、運動療法が基本です。食事療法は適正なエネルギー摂取量で肥満を解消し、栄養バランスに配慮した食事をすることで高血糖のみではなくさまざまな病態を是正することを目的としています。2019年10月に改訂版の「糖尿病診療ガイドライン2019」が発行されましたが、食事療法についてはより柔軟できめ細やかな内容になったと思います(文献1)。

標準体重

 糖尿病においては肥満、特に内臓脂肪型肥満の是正が必要ですが、そのために従来BMI22となる体重を「標準体重」とし、そこから摂取すべきエネルギー量を計算し患者に示してきました。近年の世界各地のBMIと死亡率の関係を検討した研究では、 BMI20~25が最も死亡率が低いとされ、さらに70歳以上ではそのBMIの幅がより広くなること(文献2)が示されています。一方、BMIが20~25の範囲にあったとしてもインスリン抵抗性のあるケースもあります。
 「糖尿病診療ガイドライン2019」では「総死亡が最も低いBMIは年齢によって異なる」として年齢区分が追加され、表記も標準体重から目標体重に変更になりました。目標体重のBMIは、65歳未満で22、65歳から74歳、および75歳以上で22~25とし、さらに75歳以上はさまざまな評価を踏まえ、「適宜判断する」と注釈に追記されています。
 臨床の現場では、目標体重は一応の目安となりますが、全ての症例で一律にそれを目指すことは妥当ではないと考えられます。特にBMIが30を超える肥満例では、目標体重と実体重との乖離が大きく、実効性が期待できないという問題があります。また、高齢者ではフレイル予防を念頭に置いて設定する必要があります。

エネルギー摂取量(文献3)

 糖尿病臨床では、指示エネルギー量を計算する際、標準体重に25~30kcal/kgを乗算する方法が一般的でした。しかし、この数字のエビデンスは採用されて半世紀以上経った今も明らかになっていません。さらには、糖尿病患者の基礎代謝は健常者と差がないか、数%程度高いとする報告が多く集まっています(文献4)。
 一方、二重標識水法※は最も正確にエネルギー消費量を測定できる方法とされています。これまで日本人糖尿病患者を対象とした検討が不足していましたが、近年、体重あたりのエネルギー消費量は35kcal/kg前後で、従来の25~30kcal/kgよりも多く、糖尿病と非糖尿病で差がないことが報告されています。
 過少なエネルギー処方は、食事療法を長期に維持する上で障害となりえ、特に高齢者においてはフレイル予防の面からも問題です。そこで「糖尿病診療ガイドライン2019」では、総エネルギー摂取量(kcal/日)を「目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)」で求めるよう改定されました。前述の年齢別BMIに基づく目標体重と、デスクワークの多い現代人の身体活動量を踏まえ新しく定義されたエネルギー係数(座位中心だが通勤・家事、軽い労作を含む場合は「普通の労作」30~35kcal/kgに該当)を用いることで、極端に過少なエネルギー処方を回避しようというものです。

栄養バランス

 食事療法はエネルギー摂取量の適正化と、高血糖のみではなく合併症抑制の視点からも、三大栄養素をバランスよく摂ることが推奨されています。具体的な指導は「食品交換表」を用いて行いますが、摂取カロリー(指示エネルギー)から摂取すべき1日の指示単位(1単位80kcal)を出し、表1~6(栄養素と食品の種類によって分類)のどの表から何単位を摂るかを決めます(文献5)。
 栄養素の比率の目安例は示されていますが、それは健常人の平均摂取量に基づいており、十分なエビデンスがある状況ではありません。現在はある程度幅をもたせ、炭水化物では、60、55、50%とした配分例が掲載されており、合併症や肥満度などを考慮しつつ選択していきます。また極端な炭水化物制限は有効性、安全性の面から、十分な検討がなされているとは考えられず、推奨できるものではないとされています。

食事療法の継続のために

 食事療法は病態と患者の食の嗜好や生活に応じて、医療者と患者がともに考え、食を楽しむ形で継続していくことが重要です。それには医療者が患者の生活全体に配慮し、患者の気持ちを理解しながら進めていくべきでしょう。そして新しいエビデンスを構築していくことが、今後の糖尿病医療の進歩のために不可欠だと考えられます。

※二重標識水法: 安定同位体である重水素水と酸素-18を混合した二重標識水を摂取し、尿中の安定同位体比の変化から消費エネルギー量を算出する。

参考文献

  • 1)日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン 2019: 31-55, 南江堂, 2019.
  • 2) Edqvist J, et al.:1Diabetes Care 2018, 41: 485-493.
  • 3) 宇都宮一典:日本内科学会誌 2019, 108: 2561-2566.
  • 4)勝川史憲:肥満研究2019, 25: 4-5.
  • 5) 日本糖尿病学会編:食品交換表第7版:文光堂, 2013.

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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