オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

58. Diabetic kidney disease(DKD)は
本当に必要な用語なのか?

守屋 達美 先生(北里大学健康管理センター)

守屋 達美 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 58(2018年10月1日号)

1) Diabetic kidney disease(DKD)とは

 糖尿病患者に合併する腎障害のすべてが糖尿病性腎症(以下腎症)ではないことは明らかです。しかし、腎症の確実な診断は腎生検しかなく、それが糖尿病における腎障害の考え方を複雑にしています。近年、腎症を含めた糖尿病の病態が関与する腎合併症をDiabetic kidney disease(DKD)と総称することが提唱されました。欧米ではChronic kidney disease(CKD) due to diabetes or diabetic nephropathyとされ、日本名は、「糖尿病性腎臓病」と称します。糖尿病患者に伴うCKDのうち病理診断では確定していないが、糖尿病がその発症に関与していると考えられる症例をさします。古典的(典型的)な腎症を含めたもっと広い概念で、糖尿病でありつつ腎障害をもつ人たちを包括的に捉えようという用語です。

2) 糖尿病における腎障害の分類

 糖尿病における腎障害の分類には、①典型的腎症、そして②典型的腎症ではないDKDがあり、①②を総称してDKDと呼びます。さらに糖尿病患者には、③DKDではない腎障害も少なからず存在し、これをCKD with diabetesと呼びます。

3) 典型的腎症とは?

 長期にわたる高血糖により腎糸球体の細小血管に病変が生じます。臨床的には微量アルブミン尿の出現から顕性アルブミン尿となり、アルブミン尿の増加とともに腎機能低下が生じます。放置すると最終的には末期腎不全に陥ります。腎症病期分類でもその概念が踏襲されています。組織学的には糸球体基底膜の肥厚、メサンギウム領域の拡大、尿細管間質変化等を呈しますが、2型糖尿病では腎症の組織所見は多様性を示し、その組織障害パターンによって腎予後が異なることも指摘されています。

4) 腎症診断の問題点

 腎症の診断は、一定以上の糖尿病病悩期間、尿アルブミン排泄量の増加とそれに伴うGFRの低下、糖尿病網膜症の存在、他の腎疾患の兆候が無いこと、高度の血尿が存在しないこと、緩徐な進行など、臨床的に除外診断で行います。上記に示した診断項目にそぐわない場合に臨床的には腎生検を考慮します。しかし、多数存在する糖尿病患者のすべてに腎生検を行うのは、全く現実的ではありません。すなわち、腎症の確定診断は臨床的には極めて困難で、そのために良い意味では包括的な、悪い言い方をすれば「何でもかんでも放りこめる箱」のような概念としてDKDが生まれてきたと考えます。

5) なぜDKDという概念が生まれたか −腎合併症の多様化

 最近では糖尿病治療の向上により、尿蛋白が減少したり腎機能が保持される例も多くあります。さらに、患者の高齢化も相まって、以前のように初期の糸球体過剰濾過から微量アルブミン尿、顕性アルブミン尿を経てネフローゼ状態となり、腎機能が低下して末期腎不全に至るという、典型的な腎症の患者が少なくなってきたとされます。しかし、尿蛋白を伴わずに腎機能が低下していく症例を「典型的な腎症ではない」と即断するのは果たして正しいことなのかについては、もう少しデータを蓄積する必要があります。
 一方、今に始まったことではありませんが、近年は糖尿病、特に2型糖尿病患者における腎合併症が多様化しています。腎硬化症の新規人工透析導入の頻度は腎症に比べて低いですが、20年前に比べて2倍になっており、糖尿病患者においても注意すべき状況にあります。

6) DKDの捉え方

 新規透析導入患者の原因疾患の第1位は腎症といわれていますが、そのすべてが典型的腎症とは限りません(上記の②が一定数含まれているはずです)。さらに、腎症を含む慢性合併症に対する様々な大規模スタディー(欧米でも本邦でも。例:EMPAREG Renal Outcome)に腎障害として扱われている対象例もすべてが腎症とは限らないと考えられます。

7) DKDの問題点は余りにもたくさんある

 まず、正常〜微量アルブミン尿期で腎機能低下が認められる症例(典型的腎症ではないと考えられている症例)をどう考えるか、というのが重要です。
 腎症なのか? それとも他の腎疾患か?そして上記のような例の腎機能は悪化するのか? この点に関しては、次の点を考えて下さい。すなわち、その時点で低下しているだけなのか、それとも継続して低下していくのか、です。実はこの2つは大きな違いがあります。欧米においても本邦においても、正常〜微量アルブミン尿でeGFR低下例の予後に関しては充分に検討されていません。日本人2型糖尿病の7年間の観察では、正常アルブミン尿の腎機能低下例は、低下していない例に比し、腎複合イベントや心血管イベントなどの予後の差を認めなかったと報告されています。

8) DKDの原疾患は不明である

 DKDはCKDと同じく病名ではありません。このことに注意してください。それでは、DKDの原疾患は何でしょうか。典型的腎症はDKDの大部分を占めるでしょう。では、動脈硬化性腎疾患は? 慢性糸球体腎炎は? 脂質関連腎症は? 肥満関連腎症は? これらははたしてDKDでしょうか。この点に関しては今のところ誰も答えることができないのではないでしょうか。

9) おわりに −DKDという用語は本当に必要なのか?

 DKDには、その概念・定義・診断・治療などがあまりにも不明瞭な点が多くあります。DKDの概念はまだ混沌としており、今後変わっていく可能性が大きいです。DKDの原疾患も十分には同定されていません。非典型的な腎症と言われているものは実は典型的な腎症に治療的修飾が加わったものがほとんどかもしれません。
 以上のことから、糖尿病患者の腎機能(尿中アルブミン、GFR)の経過を綿密に観察し、きちんと鑑別診断を行うことこそ重要と考えます。安易に「この患者はDKDである」と短絡的に結論づけてはなりません。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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