オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

53. 糖尿病患者の死因の第1位はがん!

岩瀬正典 先生(社会医療法人財団 白十字病院 糖尿病センター/ 臨床研究センター 副院長・センター長 九州大学共同研究員 )

岩瀬正典 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 53(2017年7月1日号)

糖尿病患者の死因について

 昨年、日本糖尿病学会「糖尿病の死因に関する委員会」より2001年から2010年の10年間の4万5千人超の死因調査について発表がありました。糖尿病学会では1971~1980年、1981~1990年、1991~2000年と過去3回、同様な調査を行っていますので、糖尿病患者の死因の時代的変遷を知ることができます。今回の調査では、死亡年齢は、男性71歳、女性75歳で、1971~1980年までの、男性63歳、女性65歳に比べて糖尿病患者の寿命は随分と延びました。しかし、一般日本人の平均寿命と比べると、まだ男性で8歳、女性で 11歳短命でした。

 特記すべきは、血管障害(腎不全を含む)による死亡割合が、1971~1980年までの41.5%から14.9%まで減少し、さらに、一般日本人の死亡割合の18.8%よりも低かったことです。特に虚血性心疾患による死亡は4.8%に過ぎませんでした。1997年のWHOの報告では糖尿病患者の死因の40%は虚血性心疾患とされています。虚血性心疾患の発症率が、日本人は欧米の1/2~1/3とされていますので、日本人糖尿病患者で虚血性心疾患による死亡が少ないのは、発症率の差以外に 治療内容にも差があるかもしれません。最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が 海外の大規模臨床試験で血管障害死を有意に減少させたことが報告されていますので、今後、これらの薬剤がより多く処方されるようになれば、我が国の血管障害死はさらに減少する可能性があります。

 一方、死因が増加したのは、がんと感染症による死亡です。がんによる死亡は1991~ 2000年の調査から血管障害死を抜いて死因の第1位になり、1971~1980年の25.3%から38.3%に増加し、一般日本人の29.5%よりも高率でした。また、感染症死も、がんと同様に年々増加しており、1971~1980年より2倍近く増加しています。その7割が肺炎で、高齢糖尿病患者の増加に伴う肺炎の増加と推測されます。特に我が国では認知症を死因として記載する習慣がないため、認知症の終末期としての肺炎を死因として記載している可能性があります。そうであれば、肺炎の増加ではなく、糖尿病の新たな合併症として注目されていますアルツハイマー型認知症の増加を反映した結果と考えられます。

福岡県糖尿病患者データベース研究 (Fukuoka Diabetes Registry, FDR)

 上記の全国調査は各調査期間中に死亡した糖尿病患者のアンケート調査に基づいていますので、ある程度のバイアスが生じる可能性があります。FDRでは、2008~2011年にかけて福岡県内の日本糖尿病学会認定の研修病院と認定専門医の診療所16施設の外来通院中の患者5,131人を登録し(男性2,868 人、女性2,263人、平均年齢65歳、平均罹病期間16年、平均BMI23.7、1型糖尿病4%、 平均 HbA1c7.5%、インスリン治療32%)、5 年間追跡調査しました(追跡率97%、生存確認は99.5%)。経過中320人が死亡し、死因はがん36%、血管障害24%、感染症19%で、全国調査と同じく、がんが死因の第1位でした。がんの部位は、多い順に男性で、肺、肝臓、膵臓、女性は、膵臓、大腸、胃でした。肺がんによる死亡第1位は一般日本人と同じですが、糖尿病患者では膵臓や肝臓のがんによる死亡が多くみられます。

男性で一番多いがんは前立腺

 日本糖尿病学会と日本癌学会の専門家による「糖尿病と癌に関する合同委員会」は日本人における疫学調査を総括し、糖尿病の相対がんリスクは、全がんが1.19倍、部位別には肝臓がん1.97倍、膵臓がん1.85倍、大腸がん1.40倍と有意に増加することを発表しています。FDRでは新規のがんは457人に発症し、男性では前立腺が一番多く、大腸、胃、肺の順で、女性では大腸が一番多く、胃、乳房、肺の順でした。

 前立腺がんは米国移住の日本人2世、3世で増加するという有名な疫学調査があり、動物性脂肪の摂取増加、肥満、生活の欧米化が前立腺がんの増加と関連するとされています。しかし、海外の疫学調査で前立腺がんは糖尿病患者では非糖尿病者より低頻度とする報告が多く、我が国でも糖尿病患者には前立腺がんは少ないという誤解があります。しかし、人口の高齢化とPSA (prostate specific antigen)検診の普及に伴い、前立腺がんが急増しています。国立がん研究センターがん情報サービスのがん予測によれば、2015年に前立腺がんは胃がんを抜いて第一になると予測されています。前立腺がんは低悪性度のタイプが多いとはいえ、がん死因の第6位ですので、注意が必要です。

糖尿病とがんの話題

 「糖尿病と癌に関する合同委員会報告」によれば、血糖コントロールとがん発症の間に関連を認める質の高いエビデンスは観察研究、介入試験ともありません。糖尿病治療薬とがん発症について、インスリングラルギンと乳がん、ピオグリタゾンと膀胱がん、インクレチン関連薬と膵がんなどが報告されましたが、関連を否定する報告が出されています。また、メトホルミンのがん抑制効果についても一致した見解は得られていません。

 一方、画期的な抗がん作用を示す免疫チェックポイント阻害薬の抗ヒトPD-1モノクローナル抗体ニボルマブ(オプジーボ R)は、免疫反応活性化に伴う有害事象として、劇症1型糖尿病を含む1型糖尿病の発症が報告されています。同薬は適用拡大されつつあり、今後、発症リスクや病態についての解明が待たれます。

糖尿病患者の診療にあたって

 治療薬と発がんとの関連を解明することは重要でありますが、一般的ながんの危険因子、男性、喫煙、感染(ピロリ菌、肝炎ウイ ルスなど)、飲酒にも注意が必要です。特に喫煙は、がん死第一位の肺がんの原因となり、FDRでも喫煙者は非喫煙者より1.7倍多くがんの発症がみられました。しかし、糖尿病患者の喫煙率は今だ高く、FDRでも、喫煙率は男性28%、女性7%でした。禁煙後進国の我が国でも、政府は2020年の東京オリンピックを目指して、屋内全面禁煙を法制化する動きがあり、その実現に期待したいと思います。

 心血管病による死亡が多い欧米と異なり、日本人糖尿病患者の死因の第一位は、非糖尿病者と同じくがんです。現在、糖尿病男性 患者で最も多いがんは前立腺がんで、泌尿器科との密な連携が必要です。また、男女とも頻度が高い大腸がんや生存率の低いがん (膵臓、肺、肝臓など)の早期発見と早期治療を念頭に置いた糖尿病診療が必要であることは言うまでもありません。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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