オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

40. ここ10年の糖尿病医療と療養指導の進化と今後-創刊10年に寄せて-

池田義雄 先生(糖尿病治療研究会代表幹事)

池田義雄 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 40(2014年4月1日号)

 小誌『医療スタッフのための糖尿病情報BOX&Net.』は2004年7月に創刊し、まもなく10年目に入ります。この10年の間に糖尿病医療は大きく変化しました。

"糖尿病パンデミック"

 まず、糖尿病の増加にスポットを当てると、予備群を含めた患者数が約1.3倍となり、2012年の調査では両者あわせて2,050万人と推計され、国民5人に1人が該当するようになりました。"ぜいたく病"とされていた時代は過去の彼方へ遠ざかり、現在は誰もが糖尿病発病リスクと隣り合わせの時代と言えるでしょう。このような"糖尿病パンデミック"の抑制には医療従事者のみではなく、国民的な取り組みが必要とされています。

病態の多様化と個別化医療

 患者数の増加とともに、糖尿病の病態も多様化してきています。急増している2型糖尿病はもともと発病原因を特定できない雑多な背景をもつ疾患群と言えますが、最近はメタボリックシンドロームを基盤とする比較的若年の患者さんが増加する一方で、高齢化や罹病期間の長期化が進み、食事療法等においても画一的な治療・指導法を示すことが困難です。個々の患者さんの病態を見極めた個別化医療が今、ますます重要になってきています。

エビデンスの充実

 EBMがより重視されるようになったのも大きな変化です。この10年で糖尿病臨床に大きなインパクトを与えた大規模臨床試験の結果がいくつか報告されました。例えばACCORDでは心血管疾患リスクの高い糖尿病患者さんの高血糖を薬剤で無理に下げてもメリットはなく、逆にイベントが増えることが示され、同時期に報告されたVADTやADVANCEでも血糖管理強化によるイベント抑制効果は証明されませんでした。このような新たなエビデンスの蓄積を反映し、昨年、日本糖尿病学会がHbA1cの管理目安を個々の患者さんごとに判断し、場合によっては従来より管理をやや緩和する指針を示したことも記憶に新しいところです。

血糖降下薬の進歩

 血糖降下薬の進歩は目覚ましいものがあります。過去10年間に、超速効型や持続型溶解のインスリンアナログ製剤が登場しました。経口薬ではご存じのようにDPP-4阻害薬が糖尿病用薬市場を席巻せんばかりに急成長していますし、小誌発行の直後にはSGLT2阻害薬の発売が控えています。これら新薬の登場により、低血糖を極力回避しQOLに配慮しながら、より良好な血糖管理を実現できるようになりつつあります。

血糖モニタリングシステムの進歩

 新薬ラッシュと並ぶここ数年来の糖尿病領域のトピックの一つがCGMです。CGMが臨床応用されたことによって、HbA1cが良好な患者さんであっても血糖日内変動が極めて大きいことが少なくなく、患者さん本人も気付いていない"隠れ低血糖"が高頻度にみられること、それが血管イベントのトリガーとなっていることなどが示されています。

 前述のように、血糖管理による大血管障害の抑制効果は今のところエビデンスが不十分と言わざるを得ませんが、これは血糖の平均値と言えるHbA1cのみで治療を評価していることによる限界かもしれません。今後CGMで日内変動を評価し、食後血糖改善薬等を用いて血糖の平坦化をはかるという質の高い医療が実現されたとき、血糖管理のポテンシャルが再評価されるのではないかと期待します。もちろんCGMだけでなく、臨床応用から既に30年以上が経過したSMBG機器もいまだ着実な進化を重ねており、ユーザーフレンドリーな機種が登場して、ますます臨床に欠かせない存在になってきています。

療養指導における進歩

 実臨床においては、患者さんを中心とした医療スタッフ全員による療養指導が一層定着してきました。もとより糖尿病は実質的な治療の大半を患者さんやそのご家族が担う疾患ですから、この流れは今後も加速していくことでしょう。診療報酬の面でも、糖尿病合併症管理料、医療関係職種の役割分担と連携の評価、糖尿病透析予防指導管理料など、医師以外のスタッフとの関わりを算定条件とする項目が次々に新設されています。また、2008年にスタートした特定健診・保健指導の主要ターゲットは糖尿病の発症予防と言え、その成否は正にコメディカルスタッフの力にかかっています。

これからの10年

 これからの10年を考えると、有力な血糖降下薬の開発パイプラインはSGLT2阻害薬で一段落し、今後は合併症治療薬へと主軸が移っていくでしょう。また、EBMがより重視されることは間違いないですが、同時にEBMでは解決できない患者さんそれぞれの療養上の課題を現場で解決し得る"質の高い療養指導"のスキルが求められるのではないかと思います。新しい世代のコメディカルスタッフの皆さんに、その任を積極的に担っていってほしいと願います。

 末筆ではありますが、この10年間小誌をご愛読いただいた皆さまに、監修者を代表して感謝致しますとともに、今後ともご利用、ご活用のほど願い上げます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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