オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

32. インクレチンアナログ(注射製剤)の効果と使い方

岩本安彦 先生(東京女子医科大学常務理事)

岩本安彦 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 32(2012年4月1日号)

DPP-4阻害薬とGLP-1アナログの違い

 食後に消化管から分泌されるホルモン 「インクレチン」として、GLP-1やGIPがあり、 両者ともに血糖濃度依存性のインスリン分 泌 刺 激 作 用をもちます。 そ の 一方 で、 GLP-1には確かなグルカゴン分泌抑制作用 が認められるのに対して、GIPのグルカゴ ン分泌に対する作用は明らかでなく、また 体重増加作用があるなど、糖尿病治療に 応用する際に留意すべき差異もあります。

  ところでインクレチンは、 生体 内で DPP-4によって短時間で分解されてしまう ことから、創薬に際し、DPP-4活性を阻害 してインクレチン作用を高める方法と、糖 尿病治療により適しているGLP-1の構造を 修飾しDPP-4への耐性を付加する方法が なされてきました。そして現在それぞれ、 経口薬としてDPP-4阻害薬、注射薬として GLP-1アナログ(受容体作動薬)が、臨床 応用されています。

"質の良い"HbA1c低下

 両者ともに単剤では低血糖の不安が少 なく、食後の高血糖を抑え1日の血糖変動 幅を少なくするという特徴を有し、 "質の良 い"HbA1c低下が実現可能です。近年、 HbA1cの数値には現れにくい食後の一時 的な高血糖が、合併症の進展に関与して いるとの知見が蓄積されつつあり、インクレチン関連薬による血糖日内変動の平坦 化はHbA1cの数値の低下以上に合併症抑 止に益する可能性が推測されています。

 さらに、 GLP-1アナログはDPP-4阻害薬 より血糖降下作用が強く、HbA1cをさらに 0.5%程度押し下げ得るとの報告が多くみ られてきています。インクレチン分泌が少 なくDPP-4の阻害だけではその量を十分 に補うことができない状 態であっても、 GLP-1アナログであれば量を直接増やすこ とができるところから、その差が血糖改 善効果の一因であるという見方もなされて います。またDPP-4阻害薬と異なりGLP-1 は体重を増やさないことから、臨床応用 前から期待されていた体重抑制という点に ついても、臨床応用後、 GLP-1アナログの 使用で肥満者の体重を若干減少させると の報告もなされています。

使用上の注意点

 GLP-1アナログにはこのように、糖尿病 治療に有用な多面的メリットがある反面、 吐き気などの消化器症状の副作用がとくに 使用開始初期、比較的高頻度にみられる 点に注意が必要です。ただ、時間をかけ て段階的に増量するという使用法の原則 を遵守すれば消化器症状の発現は抑制さ れ、副作用のために継続不能となるケース はさほど多くありません。

 その他の使用上の注意として、糖尿病 医療スタッフにとっては既に旧聞に属する ことですが、同薬発売直後にインスリン依 存状態の患者さんに使われ、ケトアシドー シスから死に至った事例が報告されまし た。インクレチンはあくまでもインスリン分 泌を刺激するホルモンであって、インスリ ンとは異なりそれ自体は血糖降下作用を持 たないこと、従ってインスリン分泌能が高 度に低下したインスリン依存状態では無効 であることを、非専門スタッフに周知徹底 していく必要があるでしょう。

 報告された事例の再発防止策として、 GLP-1アナログ使用時に健保が適用される SMBGを適宜指導することが、より安全な治療の一助となり得ます。加えて、イン スンリン療法からGLP-1アナログへの切替 えは、当面、糖尿病専門医の判断による べきと考えられます。肥満体型で一見イン スリン抵抗性主体と思える患者さんでも、 実はインスリン依存状態に近いということ があるからです。

GLP-1アナログの今後

 さて、こうした注意点に配慮すれば、比 較的安全に使用できるGLP-1アナログです が、単剤での血糖降下作用はHbA1c 1? 1.5%程度にとどまり、日常臨床では他剤と の併用が考慮されるケースが少なくありま せん。現時点では保険上の縛りや日本人を 対象とした臨床データがまだ少なく、どの タイプの血糖降下薬との併用が良いのか判 断は難しいのですが、低血糖や体重増加 を惹起せずに"質の良い"HbA1c低下を目指 すという本薬の特徴をさらに生かすには、 食後高血糖改善薬であり、GIP分泌はむし ろ抑制するα-GIの併用も、併用が認可され れば、ひとつの候補となるでしょう。

 GLP-1アナログは膵β細胞保護作用、血 糖改善を介さない血管や臓器の保護作用 が動物実験等で確認されています。実臨 床におけるそれらの効果の評価には今しば らく時間がかかると思いますが、とくに2型 糖尿病については対症療法から原因療法 へとパラダイムシフトさせる可能性がある期 待の薬剤であることは間違いありません。 創薬技術の進歩により、週1回注射製剤も 登場してくることから、しばらくは目を離せ ない状況が続きます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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