糖尿病診療の目

求められる血糖コントロール値とは?
― HbA1c 7.0%維持の重要性 ―

松葉 育郎 先生(松葉医院 院長)

筆者について

変動する血糖値

 2型糖尿病の治療において誰もがまず気になるのは、「自分の血糖値をいくつにすれば良いか?」という問いでしょう。ところが、血糖値は食事などで大きく変化しています。そこで、朝起きて食事をする前、いわゆる空腹時血糖値はいくつなのか? 食後の血糖値はどの位高くなるのか? といったところから見ていくことになりますが、食後の血糖値だけでなく空腹時血糖値も一様に高くなっているようなケースもあります。1日の中で変化し、日によっても変化が見られます。血糖値は、他人との比較もなかなか難しい検査値と言えます。患者さんからも、「食事をして、いちばん血糖が高くなるのはいつですか?」「どうして、自分の血糖は上がるのですか?」というような素朴な質問をよくいただきます。

 一方、血糖値の大まかな変動を反映するのが、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)です。HbA1cは、過去1~2カ月の血糖の平均値を反映する臨床検査値で、病状理解・管理に最も役に立つ「糖尿病コントロール指標」です。空腹時血糖値、食後血糖値とともに知っておかなければいけません。

糖尿病合併症予防のための目標「HbA1c 7.0%」

 2013年5月、日本糖尿病学会は、熊本で開催した学術集会において、新たな治療目標の評価基準を発表しました(参考:血糖コントロール目標を改訂 合併症予防のための基準はHbA1c7.0%未満 )。新しい目標値は、これまで5段階としていた血糖コントロール目標値をHbA1c値の「6.0%」「7.0%」「8.0%」の3段階に変更し、「6」「7」「8」とわかりやすく簡便化しています。なかでも最も重要な目標値を「糖尿病合併症予防のための目標値7%」としています。

 この「熊本宣言2013」は、「糖尿病になった方が健康で幸福な寿命を全うするためには、早期から良好な血糖値を維持することが重要」として、HbA1cを7.0%未満に保つことの大切さを強調しています。つまり、まず患者さんに求められるHbA1cの目標は7.0%と明確な目標が示されたのです。

 HbA1cが7.0%未満については「合併症予防のための目標」であるとし、これに対応する血糖値としては空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満を目安としています。その根拠のひとつが日本人の2型糖尿病患者を対象とした臨床研究「熊本スタディ」です。「熊本スタディ」では、HbA1cが6.9%未満であれば細小血管合併症の出現する可能性が少ないことが挙げられています。

(参考:熊本スタディ(糖尿病ネットワーク)

血糖正常化を目指す際の目標「HbA1c 6.0%」

 また、HbA1c 6.0%未満を「血糖正常化を目指す目標」とし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または、薬物療法を行っていても低血糖などの副作用がなく達成可能な場合の目標とされました。

治療強化が困難な際の目標「HbA1c 8.0%」

 その一方で、患者の治療に対する意識、低血糖などの危険性、罹病期間、平均余命などを勘案し、治療目標をより厳格にすべきか、あるいは、より穏やかにするのかを判断し、患者さん中心の医療を目指すことの重要性が再認識され始めています。

 実際、高齢者で認知機能低下例ではHbA1c 8.0%以上で経過している患者さんも少なくなく、従来の基準では「不可」という厳しい判断になっていました。「不可」というのは否定的ではないかという声も聞かれたこともあり、8.0%未満については「治療強化が困難な際の目標」とされました。低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しいなどの場合における、当初に目指すべき現実的な目標とされたのです。ただし、決して8.0%になれば良いというものではないことを強調しておきます。

目指すべきHbA1cの値は?

 一人ひとりの目指すべきHbA1cの値は、「治療目標は①年齢、②罹病期間、③臓器障害、④低血糖の危険性、⑤サポート体制などを考慮して個別に設定する」ことになり、患者さんと主治医の同意のもと、患者さんごとの背景に合わせた目標値が掲げられることになりました。患者さんサイドにスタンスを置いた目標の設定になったと言えるでしょう。

日本人の血糖コントロールの状況は?

 目指すべき血糖コントロールの指標、HbA1cの値は6.0%、7.0%、8.0%とわかったところで、実際に現在の日本ではどのような状況になっているのかを考えてみましょう。

 糖尿病データマネジメント研究会(Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group;JDDM)」は、糖尿病専門医で構成されている研究会で、それぞれの施設の患者のデータをソフト「CoDiC」で入力し、日本における糖尿病治療の現状を毎年、集計しています。そのデータから、HbA1cの現状を調べてみましょう(参考:糖尿病データマネジメント研究会)。

約半数の患者さんがHbA1c 7.0%未満を達成

 2型糖尿病患者さんのHbA1c年次推移は、2001年の7.46%から2013年の7.00%へ低下傾向にあります。つまり2013年には約半分(57.3%)の患者さんは7%未満になっているという、希望がもてる結果が出ています。しかし、見方を変えれば、まだ半分しか達成できていないという意見もあります。

(参考:各年度の平均HbA1c推移(糖尿病データマネジメント研究会)

治療が強化されるに伴いHbA1c 7.0%達成率は低下している

 さらに細かく見ていくと、2013年(調査患者数57,000人)には、HbA1c 7.0%未満の患者さんの割合は、食事療法単独群では80.2%、経口糖尿病薬内服群では61.8%へ下がり、経口糖尿病薬とインスリン併用群では30.1%へとさらに低下してしまいます。

HbA1c 8.0%以上の患者さんは治療が強化されるに伴い増加している

 一方、HbA1c 8.0%以上の患者さんの割合は、食事療法単独群では4.9%、経口糖尿病薬内服群では8.3%へ上がり、経口糖尿病薬とインスリン併用群では30.5%へと増加しています。糖尿病の薬を飲み始め、さらにインスリン注射をするなど治療が経過していくと、なかなか7%未満に維持していくことは難しいということになります。

生活習慣を是正しないとHbA1c 7.0%未満を長期的に維持できない

 罹病期間が長くなるとHbA1cのコントロールには薬が必要になってきますが、薬だけでは十分にHbA1cを7%未満まで下げられないという現状が浮き彫りになります。

 一般的には、病気を治療する場合、薬を飲めば改善し、さらに強力な薬(インスリン)が出されると、より病状が良くなるもの、と患者さんは期待しているはずです。しかしながら、糖尿病という「体質」ともいえる病気では、必ずしもこの常識が当てはまらないことをしっかり理解し、説明しておくべきです。

 薬を飲み始めたら、好きに食べていいと勘違いする、過度に薬へ期待してしまう。逆に、医師に薬を飲み始めるのを勧められても、嫌がったり、インスリン注射の開始を拒否し続ける患者さんが多くいらっしゃいます。糖尿病の薬の効果の限界と飲み始めのタイミングの大切さを、患者さんに十分に理解してもらう必要があります。

 2型糖尿病は生活習慣病の代表であり、この生活習慣の是正なくしては、薬の効果に加え、長期的なHbA1cの7.0%未満の達成と維持は成し遂げられないことを強調しておきます。

合併症抑制のためには、
HbA1c 7.0%未満の維持と変動を抑えることが重要

 日内変動のような短期的な血糖変動が、糖尿病の重症者や高齢患者の死亡リスクを高めることは既に知られていますが、長期的な血糖変動と死亡についてHbA1cの変動が全死亡と関連することもわかってきました。さらに、HbA1cの変動が大きい患者は、変動が小さい患者に比べて頻繁に高血糖状態にさらされている可能性があり、そのことが心血管疾患の発症に関係している可能性があります。

 治療ではあくまでもHbA1c 7.0%を目指していき、その上で長期的なHbA1cの変動も少なくすることが求められているのです(文献3)。

患者さん自身が、絶えず変化する血糖の動きを知るために
できることは何でしょうか?

 私たち医療者は患者さんに対し、前述したような求められるHbA1c、血糖の値を明確に示すことで、「自分の血糖値をいくつにすれば良いか?」という質問に対する答えを用意することができます。

 一方、患者さんからは、「自分の血糖値をいくつにすれば良いかはわかりましたが、病院に来て検査をしないと血糖値はわからないんですよね。血糖のばらつきを小さくしろと言いますが、どうやって確認するんですか? 血糖は自分では測れないんですか?」と次の当然とも言える質問に戸惑うことでしょう。月に1回、大病院では3カ月に1回という外来通院の頻度で血糖の検査をしても、全体を見ていくHbA1cだけでは、食後血糖、血糖変動の正常化の評価は難しい。検査としては、1.5AG、グリコアルブミンなどを適宜組み合わせ、保険診療の中で見ていくしかありません。

 患者さん自身が、食事・運動療法などをしながら、自己判断していくためにできることに、どのようなことがあるのでしょうか? 次回は、患者さん自身が自らの血糖の動きを捉える手段を紹介し、また、当院での「糖尿病食を楽しむ会」での試みである「食べて、体を動かし、血糖はどうなる―血糖を測ってみよう―」での実例を述べ、答えを探してみたいと思います。

参考資料

  • 1)日本糖尿病学会編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013、南光堂、2013
  • 2)日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2014-2015、文光堂、2014
  • 3)糖尿病治療は、「平均」から「変動」の時代へ:DITN, No. 408, 2012

(2015年01月28日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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