糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第17回 インスリン製剤(1)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 43(2015年1月1日号)

 今回から、インスリン製剤(以下略:インスリン)を取り上げます。もし我々の体の中でインスリンが枯渇したとしたら、高血糖により1週間で命が危険にさらされます。いまでは当たり前となったインスリン療法ですが、先人の長い苦労の賜物であることを忘れてはなりません。まずは、その歴史を振り返ります。

インスリン発見前夜まで

 インスリンの歴史は、競争と栄光の歴史です。1889年、ドイツのオスカル・ミンコフスキー(文献1)は膵切除術をした犬の尿にハエが寄ってくることに気づき分析をしたところ、 多くの糖が含まれていることを明らかにしました。この犬は糖尿病を発症していたのです!これが膵臓と糖尿病との深い関係の発見となりました。1901年には、米国の病理学者ユージン・オピーによりランゲルハンス島との関連が証明されました。その後多くの研究が行われ、ルーマニアの科学者ニコラス・パウレスコのように膵抽出物で血糖値を低下させ、インスリンの発見と言って良いほどの研究を1920年に行っています。これはカナダグループに先駆けたものであったことが知られています。(文献2)

インスリンの発見とノーベル賞受賞(文献3)

 この時代、1型糖尿病は死の病でした。カナダの整形外科医フレデリック・バンティングは"血糖を下げるホルモン"を発見しようと「膵管結紮犬を実験動物とする」アイデアを温めていました。1921年、バンティングは母校トロント大学のマクラウド教授から夏休みに研究室を自由に使う許可を得て、助手として手伝った医学生チャールズ・ベストと2人で膵管結紮犬の膵臓からの抽出物で犬の血糖値を下げることに成功したのでした。この発見で1923年には早くもノーベル賞を受賞しています。
 バンティングがパウレスコの論文を知っていて意図的に無視したのかは謎とされていますが、インスリンの発見、臨床試験、企業による生産体制、このスピードが先に記載したパウレスコでなく、カナダのグループがインスリン発見者と確定された要因であるのは間違いありません。

初めての臨床使用

 世界で初めてインスリンがヒトに投与されたのは1922年、発見からわずか6カ月後でした。高血糖からやせ細り、余命幾ばくもない14歳のレナード・トンプソン少年です。しかし精製が未熟なはずのインスリンで、アレルギー反応も無くこんなに上手く行くものなのか、私は昔から疑問を持っていました。今回調べてみると「注射の翌日、少年の腕はひどいアレルギー反応で腫れあがり中断。手伝いに来たバートラム・コリップの努力で精製し、2週間後の再投与で腫れずに高血糖改善」という記載があり納得しました(文献4)。いずれにせよ、やせ細り死を待つ子供達が、インスリンにより丸々と健康的な体に戻る変化を、当時の写真で見ることができます。

インスリン使用は感謝の気持ちを持って

 世界でインスリンの大きな生産工場があるのは米国、デンマーク、ドイツ、フランス、 中国、ブラジルとのことです。日本では戦争により海外からの輸入が困難になった1938年、清水製薬がマグロやカツオさらにはクジラからインスリンを抽出してイスジリン「シミズ」として実用化したという歴史があります。しかし残念ながら現時点では、多数の特許で守られているインスリン製剤を日本が独自に生産するのは困難です。有事の際は、日本で約100万人も使用されているとされるインスリン輸入がストップするのではないか、このままで良いのだろうかと私は以前から危機感を持っています。
 このシリーズの関連資料を読み進めるなかで強く感じたのは、私たち医療従事者、そして恩恵を受けている患者さんはインスリン製剤を決して粗末にしてはいけない、「感謝の気持ち」を持って使用するべきであるということでした。

参考文献

  • 1) Diabetes Metab Res Rev 2012; 28: 293-304
  • 2) Diabetes Research and Clinical Practice 93S(2011)S2-S8
  • 3)「インスリンの発見」p3-18(著:マイケル・ブリス、朝日新聞社刊)
  • 4)「ミラクル」p212-227(著:シア・クーパー他、日経メディカル開発刊)

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※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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