糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第10回 SGLT2阻害薬(1)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 36(2013年4月1日号)

 今回は近い将来、新薬ラッシュとなりそうなSGLT2阻害薬についてです。私が駆け出しの医者の頃、「血糖がそれほど高くないうちに尿中にブドウ糖を捨てられたら」というアイデアを話した時は取り合ってもらえなかったのを思い出します。それが現実になろうとしている訳で、医学・薬学の進歩は感慨深いものがあります。

健常人の尿糖

 血中のブドウ糖は重要なエネルギー源であり、飢餓と闘ってきた人類にとっては、ブドウ糖を体外に捨てることは余程でないと考えられません。しかしブドウ糖はヒトの組織構成成分に不可逆的に結合しやすい、極めて危険な物質でもあります。ですから貴重なエネルギーでも、生体は高血糖を回避するために尿中に大切な栄養素を捨てるのです。年齢や体調によっても異なりますが、血清中のブドウ糖濃度が170~180mg/dLを超えるとブドウ糖を吸収しきれずに尿糖が見られるようになります(文献1)。

ブドウ糖の再吸収のメカニズムとSGLT

 腎糸球体で濾過された尿を原尿と言いますが、原尿のブドウ糖濃度は血漿中とほぼ同じです。近位尿細管上皮細胞の尿と接する部分のNa + /glucose co-transporter(SGLT)はブドウ糖を能動輸送し、血管側に存在するGlucose transporter(GLUT)は受動輸送でブドウ糖を血液中に戻す働きをします(文献2)。各々アイソフォームが存在します。SGLT2は近位尿細管の近位部に存在し、ある程度ブドウ糖濃度が上昇してから働き(ブドウ糖親和性が低い)、ブドウ糖の吸収能力は高い輸送 担体です。そしてSGLT1は遠位部に存在し、低いブドウ糖濃度でも働きますが吸収量は限られるという特徴を持ち、各々合理的な配置になっています。その結果SGLT2による再吸収は約90%で残りがSGLT1によると推定され、健常人では尿中のブドウ糖濃度はごく微量です。SGLT1は主として小腸に多く発現している輸送担体ですが、このように近位尿細管遠位部でも糖の吸収を担っています。

SGLT阻害薬について

 SGLT2阻害薬は、SGLT2によるブドウ糖の再吸収を抑制してしまおうという画期的な薬です(文献3)。特に糖尿病患者ではSGLT2とGLUT2の発現亢進とブドウ糖の再吸収量の増加が報告されているので、SGLT2阻害薬はその面でも有利に働くと考えられます(文献4)。  開発中のSGLT阻害薬として、欧米の先行順ではダパグリフロジン(ブリストルマイヤーズ/アストラゼネカ、国内P3、欧州承認、米国非承認・開発継続)、カナグリフロジン(田辺三菱、国内P3、米国承認勧告、欧州申請中)、イプラグリフロジン(アステラス製薬、国内P3、欧米遅れP2bで中止)、ルセオグリフロジン(大正製薬、国内P3)、トホグリフロジン(中外製薬、国内P3、海外P2b)、エンパグリフロジン(ベーリンガーインゲルハイム、国内海 外P3)、その他 PF-04971729(ファイザー)、LX4211(SGLT1/2阻害薬、レキシコン)も詳細は明らかにされていませんが、治験進行中です。

SGLT2阻害薬 開発状況 一覧へ

注意点

 副作用で誰もが心配するのは尿路生殖器感染症でしょう。治験時データでは懸念されたほど頻度は高くないのですが、次回にデータを紹介します。副次的な現象として降圧作用や、最大数kgの体重減少を認めることがあるとされていますが、服薬を中止すると間もなく半分程度までは戻るとされています。次回は、日本でも治験が進行しているカナグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、ダパグリフロジンを中心に、各々の薬剤の共通点と相違点を解説します。

参考文献

関連情報

筆者より -SGLT2阻害薬の適正使用について-

 これまでSGLT2阻害薬のシリーズで、「難しい薬なので、適応を考えて充分慎重に」と書いて来ました。SGLT2阻害薬はとても良く効く症例を経験する反面、発売後は脳梗塞など死亡例を含め重大な副作用が報告されています。これまでの情報では直接の因果関係ははっきりしないものが多いとされています。胃薬を服用して脳梗塞で死亡しても薬のせいとは言われませんが、この薬は利尿作用による脱水注意等々があるため、直接関係がなくても薬の副作用で死亡とされがちです。糖尿病患者でなくても、年齢とともに脳梗塞・心筋梗塞など死亡率が高くなるのが人間の宿命です。脳梗塞などが増加する高齢者や、動脈硬化が既に進行している方にも原則として投与を避けるのが無難です。また、副作用かと思ったら、すぐに服薬を中止する指導が必要と思います。(2014年11月)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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