オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

64. 新たな糖尿病合併症ターゲット 
~認知症と心不全~

清水 一紀 先生(心臓病センター榊原病院 糖尿病内科)

清水 一紀 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 64(2020年5月1日号)

高齢者糖尿病の治療がかわる

 糖尿病合併症は、三大合併症といわれる網膜症、神経障害、腎症の細小血管障害および脳血管、冠動脈、下肢の動脈硬化性疾患ですが、様々な糖尿病治療薬の登場や糖尿病に対する取り組み、糖尿病のみならず医学全般のレベル向上もあり糖尿病患者の予後は改善してきました。その結果糖尿病患者は高齢化し、サルコペニア、フレイル、ポリファーマシーなどの問題がでてきており、糖尿病の診療は新たな局面を迎えています。多くの糖尿病患者が高齢化しているため、ここではあえて高齢者糖尿病と断らず解説します。
 今までは血糖値を下げることを中心に考えてきた糖尿病治療は、①低血糖を起こさない②栄養を低下させない③可能な限り少ない薬剤での血糖コントロールが求められるようになりました。そのため目標とする血糖指標も緩和され、サルコペニアを意識した食事摂取量に対する見直しも始まりました。

新たな糖尿病治療の目標

 そのような中、糖尿病患者の老後のQOLを低下させる疾患として認知症と心不全が注目されています。この2つの疾患は糖尿病に多く合併することが知られていますが、進行するまで症状に乏しく、いずれも診断がついた時にはすでに手遅れになっている代表的疾患の一つです。認知症も心不全も早期発見早期治療が大切ですが重要なことが2つあります。1つは、予備軍を含めたまだ診断されていない認知症や心不全患者の多くは、実は糖尿病外来に通院している点、第2に糖尿病と同様の生活習慣の改善で予防もしくは治療が可能であることです。認知症や心不全の専門家は重症患者を扱うため、治療は侵襲的なデバイス治療や薬物療法が主であり生活指導は困難です。このことから認知症や心不全の早期診断・早期治療は糖尿病外来で行う必要があります。

認知症のリスクの高い糖尿病患者の特徴

 糖尿病における認知症リスクは以下の点が知られています。①糖尿病未治療の患者 ②運動不足(疫学調査によると、週3回以上運動する人は、3回未満の人に比べ認知症発症リスクが38%減る) ③高脂血症 (飽和脂肪酸の摂取が多いと認知機能が低下しやすい) ④うつ病(約2倍認知症になりやすい) ⑤睡眠異常(睡眠時間5時間未満、9時間以上は、7時間と比べ認知症発症リスクが高くなる) ⑥高血糖、重症低血糖を起こした人 ⑦血糖変動が大きい人(認知機能低下や、脳の萎縮が起こりやすい) ⑧ビタミンB2、ビタミンAの摂取不足がある人 ⑨低栄養、フレイル。
 また糖尿病に合併する認知症は、大脳萎縮はあるものの海馬の委縮は軽度であるといわれており、単純に頭部MRIなどの画像検査だけでは早期診断しにくいことも多く、また自覚症状も乏しいため、家族からの情報が重要となります。

すでに進行している認知症に対するアプローチ

 臨床上重要なことは、漫然と服用しているベンゾジアゼピン系(BZD)薬剤の中止もしくは減量を試みることです。このまま飲み続けると認知症になる可能性があることを説明し、非BZD系薬剤に変更後改善が認められる例も少なくありません。それでも不眠を訴える患者に関しては専門医の受診を推奨します。また薬剤をできるだけ減量することも重要で、現在の状況で必要な薬剤か否か考慮する必要があります。いずれにしろ家族や患者本人と相談し、血糖目標や現状でのQOLを考えた治療計画に見直すことが大切です。

心不全に対するアプローチ

 急性心不全の診断治療は専門的治療が必要になります。しかし慢性心不全は一般医でも経験することの多い疾患ですが、慢性心不全の症状は多彩で自覚症状に乏しいため早期診断は困難です。そのため胸部X線、心電図、心エコー(TTE)、BNPなどの検査の時系列での変化をみていくことが診断には重要です。とくに糖尿病高齢女性では拡張不全(HFpEF)が多いことが知られており、収縮不全(HFrEF)とは病態が異なるため注意が肝要です。眼底検査を行うように、循環器専門医に定期的受診を勧めることが最も一般的だと思われますが、症例の選択には心雑音、肺ラ音、不整脈などで気づくこともありますので、日々の変化を見逃さないことがポイントです。

糖尿病チームもかわる

 認知症や心不全患者を見つけるためには今までの糖尿病診療に特化したチームではなく、新たなチームアプローチが必要です。すなわち認知症や心不全に強いコメディカルや家族および介護サービスを交えたアプローチ、さらには主治医も認知症や心不全の知識が必要となります。私は心臓病センターに勤務する糖尿病専門医として4年前から院内にD-CAST(Dementia care support team)を立ち上げ認知症の早期発見、認知症予防治療を行い術後のBPSD(行動・心理症状)が低下しました。また心不全チームとも一緒に診療を行い、心不全再入院率の減少など一定の成果が出てきています。
 これからは、このような糖尿病診療もそれぞれの地域の中で必要度が高まってくるのではないでしょうか。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス 目次

2020年10月20日
「テクノロジーが変える糖尿病診療」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(5)
2020年10月20日
「ガイドラインからみた糖尿病の食事療法における課題」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(4)
2020年10月20日
「日本糖尿病学会・日本循環器学会 合同ステートメントの背景」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(3)
2020年10月16日
「運動療法の現在と今後」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(2)
2020年10月16日
「多職種協働型チーム医療におけるCDEJの役割と展望」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(1)
2020年10月15日
糖尿病の初期段階での運動は「マイクロRNA」の発現増加と心機能の改善をもたらす 心疾患の進行を把握することが重要
2020年10月15日
米国防総省「脂質異常症ガイドライン」改訂版を公開
2020年10月14日
日本糖尿病学会賞「女性研究者賞」第2回受賞者が決定 2型糖尿病のヒトゲノム解析研究
2020年10月13日
高脂血症治療薬「ペマフィブラート」に糖尿病網膜症治療薬の可能性 選択的PPARαモジュレーターに網膜神経の保護効果を確認
2020年10月13日
【新型コロナ】なぜ高齢者が重症化しやすい? 感染しやすさはどの年齢も同じだが、病状の進みやすさは年齢によって異なる
糖尿病プラクティス