オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

7. 他疾患ガイドラインの中の糖尿病

浅野 喬 先生(福岡大学健康管理センター所長)

浅野 喬 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 7(2006年1月1日号)

 近年、さまざまな疾患領域ごとに診療ガイドラインがまとめられつつあり、良質な医療サービスを提供するための一助として活用されるようになってきました。糖尿病については、2004年に『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』が公表され、治療のスタンダードが示されています。

 さて、糖尿病は今日、強く疑われる者の数が740万人、予備群を含めると1,620万人と推定され、今や'common disease'の典型例として捉えられています。このため糖尿病以外の疾患で治療を受ける方の中に、糖代謝異常が現れたり、放置されていた糖尿病が発見されるなどの例は決して少なくありません。またこの反面、糖尿病治療中に他疾患を発病し、その治療に重きを置かざるを得ないこともあります。このようなことから、必ずしも糖尿病を専門とはしない医師が、糖尿病を含めて診療に当たるケースが増えています。そこで、他の主な疾患ガイドラインで糖尿病がどのように位置付けられているかを知ることは有用であろうと考え、ここに整理してみることに致します。

高血圧治療ガイドライン(2004)

 ガイドラインでは高血圧患者における心血管病発病リスクを「低リスク」「中等度リスク」「高リスク」の3段階に層別化しています。そして糖尿病があれば、軽症高血圧(140~159/90~99mmHg)でも高リスクと位置付けて、管理目標に130/80mmHg未満を掲げています。

 糖尿病がある場合の治療手順は、血圧が130/80mmHg以上で生活療法を3~6カ月続けても効果不十分なときに降圧薬療法を開始、とくに140/90mmHg以上の場合は生活療法と同時に降圧薬療法を開始するとしています。そして第一次薬としては、ARB、ACE阻害薬、長時間作用型Ca拮抗薬が挙げられています。

 留意事項として、糖尿病性神経障害合併患者の血圧測定では起立性低血圧に留意し、適宜に臥位および立位で測定する必要性に触れています。また薬物療法に関しては、利尿薬やβ遮断薬はインスリン感受性の低下や中性脂肪の上昇、β遮断薬ではさらに低血糖症状を自覚しにくくすること、またα遮断薬では神経障害がある場合の起立性低血圧に注意を促しています。

動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002)

 冠動脈疾患の有無や冠危険因子の数により患者を六つのカテゴリーに分け、それぞれに脂質管理の目標を設定しています。糖尿病がある場合の管理目標は、冠動脈疾患既往患者に次いで二番目に厳しい目標が示されています。具体的には、LDL-C120mg/dL未満、TC 200mg/dL未満、TG 150mg/dL未満、HDL-C40mg/dL以上が求められています。

 冠危険因子として数えるものとして高血圧や喫煙、家族歴などとともに糖尿病が挙げられているのは当然ですが、この糖尿病には「耐糖能異常も含む」という点に留意が必要です。糖代謝異常の管理は日本糖尿病学会のガイドラインに従い、食事や運動などの生活療法を基本とします。

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(2002)

 尿酸値7mg/dL以上を高尿酸血症とし、痛風発作や痛風結石がある場合、あるいは尿酸値9mg/dL以上の場合を薬物導入の基準としています。ただし糖尿病の併発例では、関節炎のない無症候性高尿酸血症でも腎機能に少なからず影響を与える可能性があり、薬物導入の目安は他の合併症(腎障害、尿路結石、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患など)があるケースと同じく8mg/dLとなっています。

 管理目標については、6mg/dLを維持することが望ましいとしています。なお、耐糖能異常が悪化し糖尿病型になり腎からの尿酸排泄が亢進して尿酸値が低下した場合は、尿中尿酸濃度が過度に上昇するので尿アルカリ化剤の単独使用も好ましいとの記述も見られます。

脳卒中治療ガイドライン(2004)

 脳卒中の危険因子の一つとして糖尿病を取り上げ、血糖のコントロール、および血圧の厳格なコントロールを推奨しています。推奨グレードは前者がC1(行うことを考慮しても良いが十分な科学的根拠がない)、後者がA(行うよう強く勧められる)です。超急性期における高血糖や低血糖の是正はグレードB(行うよう勧められる)、再発予防における糖尿病コントロールはグレードC1としています。

肥満症治療ガイドライン

 近々発行が予定されているガイドラインでは、耐糖能異常や糖尿病のリスクファクターとして肥満を位置付けるとともに、特に耐糖能異常で肥満を伴うと高率に糖尿病に移行しやすく(非肥満の 1.2~1.9倍)、その背景として日本人のインスリン分泌は欧米人より低いことなどを解説し、とりまとめています。治療上のポイントとしては、3~6カ月ごとに代謝状態と動脈硬化性疾患合併の有無を評価することや、肥満(とくに内臓脂肪の過剰蓄積)の解消、メタボリックシンドロームの改善を挙げています。

 以上、他疾患のガイドラインでは糖尿病や耐糖能異常がある場合、総じてその疾患の管理により厳格な目標を掲げているケースが多いと言えます。ただし血糖管理については、科学的根拠が不十分なために、現時点では推奨グレードが必ずしも高いとは言えないものもあり、今後におけるevidenceの蓄積が待たれます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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