オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

6. 糖尿病・糖尿病予備軍と
メタボリックシンドローム

金澤康徳 先生(自治医科大学名誉教授)

金澤康徳 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 6(2005年10月1日号)

メタボリックシンドローム診断の意味

病気として診断するほどではない軽症の高脂血症や高血圧、耐糖能異常などが集積することで、動脈硬化性疾患の発症率が格段に高くなる病態については以前から、シンドロームΧ、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群などいくつかの概念が提唱されていました。そして近年、WHOや米国NCEP(National CholesterolEducation Program)が、メタボリックシンドロームという疾患名でこれを定義しました。さらに、この病態の基本は内臓脂肪の蓄積であり、それが種々の代謝異常を惹起すると理解されました。長年単なるエネルギーの貯蔵庫と考えられていた脂肪細胞がアディポサイトカインと総称される生理活性物質を分泌していて、内臓脂肪蓄積によるその分泌異常が直接的にも動脈硬化を進行させることが明確にされたのです。

このような背景から、今年4月に国内の関連8学会の診断基準検討委員会、およびIDF(International Diabetes Federation)から、内臓脂肪の蓄積(腹部肥満)を中心に置いたメタボリックシンドロームの新たな診断基準が相次いで発表されました。

診断基準ができて何が変わったか

 国内で設定されたメタボリックシンドローム診断基準は、臍の高さで測定されたウエスト周囲径が男性85cm以上、女性90cm以上で、さらに、

  1. 中性脂肪150mg以上かHDL-C40mg未満、
  2. 収縮期血圧130mmHg以上か拡張期血圧85mmHg以上、
  3. 空腹時血糖110mg/dL

以上の三つのうち、二項目以上が該当する場合に診断します。病態の基盤である内臓脂肪蓄積を把握するために、これまでは諸々の検査数値に比べて顧みられることの少なかったウエスト周囲径の計測を診断の前提としている点がポイントです。

 メタボリックシンドロームという疾患の診断基準が明確になったことにより、従来は病気の範疇に入らず見過されていた'半健康'の人たちにも、積極的な医療介入が求められるようになりました。糖尿病との関連においては、境界型と判定される耐糖能異常、特にIGTがこれに含まれます。

メタボリックシンドロームの中のIGT

 IGTは2型糖尿病発病の前段階と以前から考えられていましたが同時に、動脈硬化のリスクファクターと特徴づけられてきました。この後者はまさにメタボリックシンドロームとしての側面であると言えます。内臓脂肪蓄積は血糖、中性脂肪、血圧の軽度の上昇を招き、アディポサイトカインの分泌異常とともに動脈硬化を進行させるのです。糖尿病の診断基準を満たさないまま経過観察が続き、結果として治療開始が遅れて心血管疾患の発症を許してしまうような状態を、今後はメタボリックシンドロームとしてフォローアップし、動脈硬化予防という観点で管理する必要があります。

 一方、メタボリックシンドロームは加齢とともに、あきらかな高脂血症や高血圧、糖尿病へ移行するケースが少なくありません。この病態でメインの役割を演ずるのはインスリン抵抗性であり、糖代謝の悪化が主役をなす例も多いことから、メタボリックシンドロームと診断したら、まず前糖尿病状態「糖尿病予備軍」として捉え、インスリン抵抗性のコントロールを中心とする方向で糖尿病発症予防を進めることも重要と言えるでしょう。

どのように治療していくか

 診断基準ができて疾患としてのメタボリックシンドロームの治療体制がスタートしましたが、今後の課題として、患者さんをどうスクリーニングし治療に結び付けるかという問題があります。糖尿病と診断された人でさえその約半数程度しか医療管理下にない状況から考慮すると、健診や他疾患での受診時などにおけるウエスト周囲径計測を徹底し、対象者を確実に捉えて治療介入していく方策が必要です。

 加えて治療を実際にどうするかも今後明確にされるべき課題です。もちろん、病態の基盤である内臓脂肪の蓄積を運動や食事というライフスタイルの改善で解消することが基本であることが前提です。薬剤を用いる場合には、インスリン抵抗性改善を目的にBG薬やチアゾリジン薬を使うのか、RA系降圧薬か、食後高血糖を抑制するα-GIなどを症例により選択します。この際膨大な患者数への対応を可能にする、治療の費用対効果にも十分に考慮した検討が必要でしょう。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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