オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

3. "軽症糖尿病"をどうするか

河盛隆造 先生(順天堂大学医学部内科学教授)

河盛隆造 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 3(2005年1月1日号)

軽症糖尿病が増えている

 昨今、糖尿病人口の増加に対する対策が社会的な課題となりつつあります。1997年と2002年の『糖尿病実態調査』を比較すると、糖尿病が強く疑われる人は690万人から740万人に増え(増加率7%)、糖尿病の可能性が否定できない人は680万人から880万人に(同29%)増えています。これから言えるのは軽い糖尿病の方がとても多いということです。「軽症糖尿病」の基準はありませんが、「糖尿病特有の合併症(細小血管障害)がない、空腹時血糖値があまり高くなくて食後高血糖のみ目立つ」、とここでは考えておきましょう。

軽症糖尿病の病態

 健康な人の場合は食事の摂取で体内に糖が流入するのと同時にインスリン追加分泌が始まり、肝臓の糖放出抑制・取り込み増加、末梢での糖取り込み増加によって血糖値の上昇は軽度で、かつ速やかに下降します。しかし肝臓のインスリン感受性が低下すると、食事摂取後の糖放出の速やかな抑制や取り込みの促進がなされず、食後は一過性に高血糖になります。もちろん日本では、この時期にでも定期検診やドックで糖尿病と診断されているのですが、説明が不十分だと患者さんは、「自分が糖尿病だ」という病識をもつことはほとんどなく、医療者側も治療の必要性を強くは認識しないケースがみられます。

何が問題なのか

 糖尿病の治療目的を、高血糖による細小血管障害による合併症を防ぐことに限定するのであれば、軽症糖尿病を「放置」しても、それを差し迫った問題としてことさら大きく取り上げる必要性はないかもしれません。しかし、食後高血糖によって刺激される遅延過剰型のインスリン追加分泌は、肥満を助長することになり、末梢組織でのインスリン抵抗性も亢進します。やがて膵臓が疲弊しインスリンの基礎分泌も低下して、顕性の糖尿病へと移行します。つまり軽症糖尿病の多くは、将来的に糖代謝異常が'軽症'のまま推移するのではなくて、'中等症'または'重症'の糖尿病へと進行する過程にあたるということです。

 また食後の過剰なインスリン分泌は、高血圧、高脂血症を惹起し大血管障害を進行させる、メタボリックシンドロームと呼ばれる病態を形成します。近年、心血管系イベントが発症する前の動脈硬化症の診断に、Bモードエコー法による頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の測定が用いられますが、境界型あるい軽症糖尿病の段階ですでに、動脈硬化が明らかに進行していることを、私どもは示してきています。糖尿病の治療目的は、予後を決定する脳梗塞、心筋梗塞の予防にあるのです。患者さんの予後を考えれば、軽症糖尿病の時点で積極的に治療すべきと言えます。

食後高血糖の抑制が第一

 軽症糖尿病から糖代謝異常がさらに悪化したり、動脈硬化が進行するのを防ぐには、まず最初の兆候である食後高血糖の是正が必要です。その具体的な方法として、食事療法や運動療法があり、すなわち、インスリンの働きを"再び"良好にすることが必要です。これらの方法による食後高血糖の是正が、境界型から糖尿病への移行率を低下させたり、動脈硬化性疾患の予防につながることが、すでにいくつかの介入試験で証明されています。

 しかし、生活療法を確実に実行しても、宿命的なインスリン分泌障害のため完璧な血糖コントロールができず、薬物療法が必要となることも少なくありません。薬物療法の場合もやはり食後高血糖を抑えるタイプがファーストチョイスとなります。

 食後高血糖の改善薬としては従来からα -グルコシダーゼ阻害薬が使われており、最近ではインスリン分泌パターン改善薬も用いられるようになりました。前者についてはすでに、耐糖能異常から糖尿病への移行を抑制することが介入試験によって明らかにされています。

 薬剤による「完璧な血糖応答」の維持が、インスリンの働きを回復させ、再び生活療法のみで十分、という状況をもたらしてくれることも多いのです。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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