糖尿病デバイス革命

1. 皮下埋め込み型光学式CGM「Eversense」

村田 敬 先生独立行政法人 国立病院機構 京都医療センター糖尿病センター
筆者について

 近年、糖尿病の検査や治療に用いる医療機器は急速な進歩を遂げつつあり、今後、糖尿病の治療が激変していく可能性がある。
 そこで本連載では、海外での学会等で展示・発表されたものを中心に、最新の糖尿病デバイスにつき情報提供していく。

 今回、紹介するのは米国Sensonic社が開発した皮下埋め込み型光学式CGM(continuous glucose monitoring:持続血糖測定器)であるEversenseである(文献1)。これまでに実用化されてきたCGMのほとんどは、グルコース(ブドウ糖)を分解する酵素を電極に固定した酵素電極を皮膚の表面から刺して皮下組織の間質液のグルコース濃度を測定し、その結果をおおよその血糖値に換算して表示するものである。一方、このEversenseは長さ16mm、直径3mmの小さなカプセル状のセンサーを皮下に埋め込み、電波により間質液のグルコース濃度測定結果を体の表面に装着したトランスミッターへ送信する (文献2)。

Eversenseの実物
Eversenseの実物。横に置かれたボールペンと比べてみると、右下の埋め込み式センサーはかなり小さい。また、トランスミッターに血糖値を表示する画面はない

 このCGMがこれまでの機種と大きく異なるのは、酵素電極ではなく、グルコースと反応してシグナルを発する蛍光物質を使用している光学式CGMである点である。すなわち、間質液中のグルコース濃度が上昇すると、それに応じて蛍光物質から発せられるシグナルの強度が高まり、それを検出器で測定することにより間質液中のグルコース濃度を測定する仕組みになっている。

Eversense 光学的センサーの仕組み
光学的センサーの仕組み。間質液中のグルコースがセンサー表面の蛍光物質と反応してシグナルが発生する

 この埋め込み式センサーは90日間にわたって使用可能で、簡単な手技で皮下に埋め込み、または、摘出することができる。埋め込み式センサーへの電力供給はセンサーの直上に装着したトランスミッターから非接触式充電で行なわれる。トランスミッターが測定結果をスマートフォン等に送信することで、おおよその血糖値を読み取ることができる。

Eversense センサーの埋め込み手技
センサーの埋め込み手技。専用の器具を使って皮下に小さなポケットを形成し、そこにセンサーを埋め込む

Eversense センサーとトランスミッターの電波通信
センサーとトランスミッターの電波通信。センサーへの電力供給も非接触方式で行なわれる

 CGMの精度指標であるMARD(mean absolute relative difference: 誤差率の絶対値の平均値)は、欧州で行なわれたPRECISE試験において11.1%(血糖値75md/dL以上)、米国で行なわれたPRECISE II試験において8.8%(血糖値40-400mg/dL)であったと報告されている(文献2, 3)。なお、従来から使用されている SMBG(Self-monitoring of blood glucose: 血糖自己測定)の代替としてCGM単体でインスリン投与量を決定するためにはMARDが10%未満である必要があるとコンピューターシュミレーション(in silico experiment)の結果から予測されている(文献4)。もしPRECISE II試験で得られた精度の再現性が立証されれば、将来的にEversense CGM単体での使用が認可される可能性があるかもしれない。なお、報道によるとEversenseは1日2回の較正を行なう必要があるようである(文献5)。

 本稿執筆時点で、Eversenseは欧州の一部の国で発売されており、また米国では研究目的限定承認の扱いとなっているが、日本国内では未承認・未発売である。Eversenseの製造元であるSensonic社はRoche社と販売提携を結んでおり、今後、グローバルな製品展開が見込まれるかもしれない(文献6-7)。

 埋め込み型CGMの利点としては、なんといってもCGMセンサーが脱落しない点であろう。従来の酵素電極を用いたCGMセンサーは汗や運動が原因で固定テープが剥がれる、あるいは電極が脱落してしまう問題があった。一方、Eversenseは90日ごとに埋め込みと摘出を医療機関で行なう必要があるものの、逆に自分でCGMセンサーを装着するのが嫌な患者さんには向いているかもしれない。また、空港等での保安検査やCT・MRIなど、放射線や電磁波に曝露される際の扱いがどうなるのかも、気になる。

Eversense トランスミッターの装着イメージ
トランスミッターの装着イメージ。トランスミッターは埋め込んだセンサーの直上に装着する必要がある

Eversense センサーの摘出手技
センサーの摘出手技。皮膚に小切開を入れて、センサーを引っ張りだす

 かつて米国で発売されていた腕時計型CGMのGlucoWatchは、皮膚表面から電流を流しておおよその血糖値を測定する仕組みを有していたが、精度が悪い上、皮膚トラブルが多発したため、市場から消えていった(文献8-11)。一方、最新版のEversense XL Systemは最長で180日間の使用が可能となった(文献12)。このユニークな光学式CGMは、糖尿病臨床の現場に定着していくのだろうか? 今後の動向から目が離せない。

(写真はすべて2017年2月にパリで開催された第10回ATTDにて筆者が撮影)

  • ※本稿は、医療従事者の生涯教育に資するために執筆されたものであるため、日本国内では未承認の医療機器、未承認の医薬品、または未承認の使用方法に関する情報が含まれている場合があります。このため、医療機器および医薬品の実際の使用にあたっては、添付文書を熟読の上、日本国内で承認された条件に従って使用してください。
  • ※本稿には、コラムニストの個人的見解が含まれています。
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参考文献

1)
Eversense(Senseonics)
2)
Kropff Js, Choudhary P, Neupane S, Barnard K, Bain SC, Kapitza C, Forst T, Link M, Dehennis A, DeVries JH. Accuracy and Longevity of an Implantable Continuous Glucose Sensor in the PRECISE Study: A 180-Day, Prospective, Multicenter, Pivotal Trial. Diabetes Care 2016 Nov; dc161525. PubMed Diabetes Care
3)
Senseonics. Senseonics Reports Topline Accuracy Results from U.S. Pivotal Study of Eversense CGM System.
4)
Kovatchev BP, Patek SD, Ortiz EA. Assessing sensor accuracy for non-adjunct use of continuous glucose monitoring. Diabetes Technol Ther. 2015;17:177-186. PubMed PMC DTT
5)
第77回米国糖尿病学会 取材チーム. 第77回 米国糖尿病学会 長期埋め込み型CGM装置は1型および2型糖尿病の血糖変動性の検討に有用.
6)
Denise Neves Gameiro. Roche debuts new MedTech for needle-free management of Diabetes.
7)
Senseonics. Senseonics Expands Distribution Agreement with Roche.
8)
Laura Isaacs. What happened to the GlucoWatch Biographer? Diabetes Monitor.
9)
Chase HP, Roberts MD, Wightman C, Klingensmith G, Garg SK, Van Wyhe M, Desai S, Harper W, Lopatin M, Bartkowiak M, Tamada J, Eastman RC. Use of the GlucoWatch biographer in children with type 1 diabetes. Pediatrics 2003;111(4 Pt 1):790-4. PubMed Pediatrics
10)
Chase HP, Beck R, Tamborlane W, Buckingham B, Mauras N, Tsalikian E, Wysocki T, Weinzimer S, Kollman C, Ruedy K, Xing D. A randomized multicenter trial comparing the GlucoWatch Biographer with standard glucose monitoring in children with type 1 diabetes. Diabetes Care. 2005;28(5):1101-6. PubMed Diabetes Care
11)
Diabetes Research in Children Network (DirecNet) Study Group. Youth and parent satisfaction with clinical use of the GlucoWatch G2 Biographer in the management of pediatric type 1 diabetes. Diabetes Care 2005;28:1929-35. PubMed PMC Diabetes Care
12)
Senseonics. Senseonics Announces CE Mark Approval for Eversense® XL CGM System.
2016年06月13日
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