糖尿病治療薬「インクレチン関連薬」が血糖値を改善させるメカニズムを解明 膵臓β細胞のシグナル変換が作用を決める 神戸大学
2020年11月20日
神戸大学が、糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬が血糖値を改善させるメカニズムを世界ではじめて突き止めたと発表した。
インクレチン関連薬は膵臓のインスリン分泌を促進するシグナルGqに作用する
研究は、神戸大学大学院医学研究科細胞生理学分野分子代謝医学部門の清野進特命教授、オケチ・オドゥオリ研究員ら、福島県立医科大学の下村健寿教授、オックスフォード大学のパトリック ロスマン教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Journal of Clinical Investigation」にオンラインで掲載された。
インクレチンは、食事摂取後に腸内分泌細胞から分泌され、膵臓のβ細胞を刺激することでインスリン分泌を促進するなどの働きをもつ消化管ホルモンの総称で、GLP-1とGIPが知られている。
2型糖尿病患者はインクレチンが十分に働いていないことが分かっており、これを改善するために用いられているのがインクレチン関連薬。インクレチンの血糖依存性インスリン分泌作用を利用して開発されており、現在、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬が使用されている。
インクレチン関連薬は世界中で使用され、日本国内でも現在7割近くの糖尿病患者に服用されているが、そのインクレチン関連薬が血糖値を改善させるメカニズムはこれまで不明だった。
研究グループは、膵臓β細胞で働くGタンパク質に着目し、正常なβ細胞と糖尿病患者のβ細胞でのインスリン分泌機構を調べた。Gタンパク質は細胞内のシグナル伝達物質で、Gs、Gq、Giなどが知られている。これまでに、正常なβ細胞ではGsと呼ばれる分子がインスリン分泌を促進するシグナルとして働いていることが知られていた。
研究グループは今回の研究で、糖尿病患者の膵臓ではβ細胞が電気的に興奮し続けるために、シグナルがGsからGqに変換されていること、また、インクレチン関連薬はこのGqに作用することで、より強力にインスリン分泌を促進して血糖値を改善していることを解明した。
「今回の研究成果は、糖尿病メカニズムを解明するために重要であるだけでなく、新しい治療薬の開発につながることも期待される意義の深い成果です」と、研究グループは述べている。

cAMP(サイクリックAMP):細胞内のシグナル伝達物質で、細胞外のシグナル分子により生成されるセカンドメッセンジャーのひとつ。
PKC(プロテインキナーゼC):タンパク質にリン酸を付加する酵素の一つで、細胞内の様々なシグナル伝達を制御する。
PKC(プロテインキナーゼC):タンパク質にリン酸を付加する酵素の一つで、細胞内の様々なシグナル伝達を制御する。
出典:神戸大学、2020年
(Journal of Clinical Investigation)
Gs/Gq signaling switch in β-cells defines incretin effectiveness in diabetes(Journal of Clinical Investigation 2020年11月16日)
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