高脂血症治療薬「ペマフィブラート」に糖尿病網膜症治療薬の可能性 選択的PPARαモジュレーターに網膜神経の保護効果を確認

 慶應義塾大学の研究グループが、抗高脂血症薬である「ペマフィブラート」(商品名:パルモディア)が、糖尿病のモデルマウスで、網膜神経の機能保護効果を示すことを確認したと発表した。
「ペマフィブラート」が網膜神経の保護効果を示す
 慶應義塾大学の研究グループが、抗高脂血症薬の選択的ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)モジュレーターである「ペマフィブラート」(商品名:パルモディア)が、糖尿病のモデルマウスで、網膜神経の機能保護効果を示すことを確認したと発表した。

 研究グループはさらに、「ペマフィブラート」は線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の血中濃度を高めることで、網膜のシナプトフィジンの発現を維持し、網膜神経の機能保護効果があることを見出した。

 今回の研究成果は2019年に同研究室が報告した「ペマフィブラート」の網膜での抗血管新生作用に加え新たな知見であり、さらに発展させることで、糖尿病網膜症を原因とする失明を防ぐ治療薬となることが期待される。

 研究は、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、栗原俊英専任講師、富田洋平訪問研究員、李德鎬氏らの研究グループが、興和と共同で行ったもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」オンライン版に掲載された。
FGF21に血糖・中性脂肪の低下、膵β細胞の機能維持、脂肪肝の改善の効果
 抗高脂血症薬「ペマフィブラート」は、肝臓などで発現している核内受容体のPPARαを活性化する薬剤で、血清のトリグリセリド低下作用と、HDLコレステロールの上昇作用をもち、フェノフィブラート系薬剤でみられる副作用の発現を軽減させ、腎疾患のある患者やスタチンとの併用などの使用制限が少ない薬剤を目指して開発された。

 FGF21は、分泌タンパクであるFGFファミリーのひとつで、全身投与すると血糖・中性脂肪の低下作用、膵β細胞の機能の維持、肥満と脂肪肝の改善の効果が得られると報告されている。また、マウスの網膜で、抗血管新生作用、神経保護効果、血管透過性亢進の抑制など、さまざまな効果が報告されている。

 また、シナプトフィジンは、p38-1とも呼ばれるシナプス小胞膜タンパク質で、アルツハイマー型認知症や、パーキンソン病の患者の脳で発現が低下する。研究グループは過去に、糖尿病モデルマウスの網膜でシナプトフィジンが有意に低下していることを報告しており、網膜神経機能への関与が示唆されている。

ペマフィブラートはFGF21を介して網膜のシナプトフィジンを維持し、
神経機能保護作用を示す。

糖尿病マウスに対してペマフィブラートを投与したところ、
網膜でのシナプトフィジンタンパクの発現が亢進した(p<0.05)。

出典:慶應義塾大学医学部眼科学教室、2020年
血中でのFGF21の発現制御を介して網膜に作用
 糖尿病網膜症は、網膜光凝固術や硝子体手術といった治療が確立し、一定期間では完全矯正視力の改善・維持が得られるようになっているが、高額な医療費、合併症、視力改善困難な症例など多くの課題がある。

 海外の大規模臨床試験では、脂質代謝改善薬であるフェノフィブラートが糖尿病網膜症の進行を抑制したという結果が得られ注目された。その作用メカニズムは、PPARαの活性化にあるとされていたが、糖尿病網膜症に対する治療効果のメカニズムについては統一された見解はない。

 そこで研究グループは、網膜に神経障害をもつ糖尿病モデルマウスを用いて、「ペマフィブラート」投与の網膜神経への保護効果とそのメカニズムについて検討した。

 その結果、(1)「ペマフィブラート」が糖尿病モデルマウスで、網膜神経の機能保護作用を示すこと、(2)「ペマフィブラート」が血中でのFGF21の発現制御を介して網膜に作用していること、(3)「ペマフィブラート」が網膜でのシナプトフィジン発現を維持していることを見出した。
血中FGF21濃度を上昇させることで網膜に間接的に作用する可能性
 糖尿病性網膜症は、網膜機能を測定するための電気生理学的検査(網膜電図)で、早期より律動様小波(OP)に異常が見られることで知られている。糖尿病誘導後のマウスに対して「ペマフィブラート」を投与したところ、基剤投与に比べ、網膜電図で低下したOP波が回復することを確認した。

 OP波は網膜の内層に存在する神経細胞の機能をあらわしているとみられる。OP波が改善したことで、「ペマフィブラート」が神経網膜の保護作用を有する可能性が示唆された。

 研究グループは以前の報告で、「ペマフィブラート」がFGF21の血中濃度が亢進することを報告している。また、長期作用型のFGF21がマウス糖尿病モデルで神経網膜保護効果があることが報告されている。

 今回の研究では、「ペマフィブラート」の投与により、血中のFGF21濃度が上昇することを確認したが、網膜でのFGF21の発現には変化がなく、「ペマフィブラート」は血中FGF21濃度を上昇させることで網膜に間接的に作用する可能性を見出した。

網膜電図にてペマフィブラート投与により、
基剤投与に比べ低下していた律動様小(OP)波が回復した(p<0.05)。

糖尿病マウスに対してペマフィブラートを投与したところ、
FGF21の血中濃度が上昇した(p<0.05)。

出典:慶應義塾大学医学部眼科学教室、2020年

慶應義塾大学医学部眼科学教室
Pemafibrate Protects Against Retinal Dysfunction in a Murine Model of Diabetic Retinopathy(International Journal of Molecular Sciences 2020年7月30日)

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[Terahata]

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編集部注:
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