ジャディアンスが心不全などによる入院リスクを25%減少 2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全患者が対象のP3試験

2020.09.17
 2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全患者を対象とした第3相臨床試験である「EMPEROR-Reduced」試験の結果が発表された。SGLT2阻害薬「ジャディアンス」(一般名:エンパグリフロジン)が、主要評価項目である心血管死または心不全による入院までの期間の相対リスクを有意に低下(25%減)させた。
 発表は日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーによるもので、2020年欧州心臓病学会(ESC)年次総会で報告され、試験の詳細は「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載された。

心不全による入院の初発または再発の相対リスクを有意に30%低下させ、腎機能の低下も有意に遅延

 EMPEROR-Reduced試験は、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者を対象とした第3相臨床試験で、標準治療にジャディアンス(10mg)を上乗せした場合の効果をプラセボと比較し評価した。患者数は3,730人、主要評価項目は判定された心血管死または心不全による入院の初回発現までの時間だった。

 主要評価項目の結果は、2型糖尿病合併の有無を問わず、サブグループ間で一貫していた。また、重要な副次評価項目の解析から、ジャディアンスは心不全による入院の初発および再発の相対リスクを30%低下させることが明らかになった。

 さらに、腎機能低下の指標であるeGFRの低下率は、プラセボ投与群に比べてジャディアンス投与群で緩やかだった。

 探索的解析によると、同試験の主要評価項目における絶対リスクの低下は、1件の心血管死または心不全による入院の予防に対して、16ヵ月間における治療必要数19人に相当した。また、ジャディアンス投与により、末期腎不全や重大な腎機能低下などからなる腎複合評価項目の相対リスクが50%低下することも明らかになった。

 同試験におけるこれらの有効性に関する結果は、10㎎の1日1回投与という、漸増を必要としない簡便な投与法で達成された。安全性プロファイルは、ジャディアンスを用いたこれまでの試験と同様であり、循環血液量減少、低血圧、体液量減少、腎不全、高カリウム血症、低血糖イベントなどの有害事象に関し、プラセボと比較して臨床的に意義のある差は認められなかった。

 「心不全は、深刻な衰弱性の心疾患であり、生活の質(QOL)が低下するだけでなく、繰り返し入院が必要となる進行性の疾患で、腎機能の低下をともないます。EMPEROR-Reduced試験の結果は、左室駆出率が低下した心不全患者にジャディアンスを投与することで、心不全による入院が減少し、腎機能の低下を遅らせることを示しています」と、米ベイラー大学医療センターの心血管科学研究者であり、EMPERORプログラムエグゼクティブコミッティの委員長を務めたMilton Packer氏は述べている。

 「ジャディアンスは、EMPA-REG OUTCOME試験にもとづき、心血管疾患の既往歴がある2型糖尿病患者において、心血管死および心不全による入院を減少させることが明らかになったはじめてのSGLT2阻害薬です。今回の結果は、ジャディアンスが心不全患者さんの心血管アウトカムを減少させ、腎障害の進行を遅らせることによって、何百万人もの人々の生活を変えうることを示唆しています」と、ベーリンガーインゲルハイムでは述べている。

 なお、日本におけるジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果、慢性心不全の適応は取得していない。

FDAがジャディアンスをファストトラック審査の対象に指定

 米国食品医薬品局(FDA)は、慢性心不全患者における心血管死および心不全による入院のリスク低下に関し、ジャディアンスをファストトラック審査の対象に指定した。この指定は、同試験とEMPEROR-Preserved試験から構成されるEMPERORプログラムが対象となる。

 またFDAは、慢性腎臓病の治療薬としても、ジャディアンスをファストトラック審査の対象に指定し、この病気に罹患している世界中の患者のための新たな治療オプションが早急に求められていることを示した。

 EMPEROR試験とEMPA-KIDNEY試験は、SGLT2阻害薬の中でも幅広く、包括的に心腎代謝疾患へのジャディアンスの影響を研究する、進行中のEMPOWERプログラムの一部。

 EMPERORPreserved試験では、これまでに承認された治療法のない左室駆出率が保持された心不全患者を対象に、心血管死または心不全による入院に対するジャディアンスの効果を評価する。同試験の結果は、2021年に発表される予定。

 また、進行中のEMPA-KIDNEY試験では、2型糖尿病合併の有無を問わない慢性腎臓病患者における腎臓病の進行および心血管死に対するジャディアンスの有効性を評価する。同試験の結果は、2022年に発表される予定。

 同プログラムには、2型糖尿病合併の有無を問わない急性心筋梗塞を発症した患者を対象とし、全死亡および心不全による入院に対する同剤の効果を評価するEMPACT-MI試験と、2型糖尿病合併の有無を問わない急性心不全で入院後に安定した患者を対象として、ジャディアンスの効果を評価するEMPULSE試験も含まれる。

ベーリンガープラス(日本ベーリンガーインゲルハイム)

日本イーライリリー

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料