「アスタキサンチン」がインスリン抵抗性を改善 骨格筋のミトコンドリア機能を高め糖尿病を改善することを発見

 肥満などで生じるインスリン抵抗性に対し、海産物に含まれるカロテノイド色素である「アスタキサンチン」が、骨格筋のAMPKを介して、ミトコンドリア機能の改善を促し、骨格筋を脂質代謝により適した遅筋(赤筋)に変化させることで、血糖値や脂質代謝異常が改善することを発見したと、富山大学が発表した。
アスタキサンチンが骨格筋の機能を改善
 研究は、富山大学大学院医学薬学研究部(医学)内科学講座1の戸邉一之教授、アラー・ナワズ研究員、西田康宏協力研究員(富士化学工業)らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載された。

 肥満ではインスリン抵抗性などエネルギー代謝異常を示すことが多い。肥満を改善する有効な手段として、過食を避ける、運動でエネルギーを消費する、基礎代謝を高めてエネルギーを燃やすなどの方法があるが、現代人の多忙な社会・生活環境では実践が困難であることが多い。

 一方、エビ、カニなどの甲殻類や鮭や鯛など魚類を含む水産物に多く含まれる色素である「アスタキサンチン」は強い抗酸化活性を有し、機能性食品にも応用されている。肥満モデルマウスを用いた過去の研究では、「アスタキサンチン」にインスリン抵抗性の改善作用があることが報告されており、抗酸化活性による組織の酸化ストレスによる機能障害からの保護作用だと考えられていた。

 今回の研究では、肥満モデルマウスでの血糖値の改善作用の多くが、骨格筋での糖取り込みの向上によるものだと判明した。「アスタキサンチン」を投与した肥満モデルマウスでは、脂肪酸の消費が亢進(呼吸商が低下)し、運動時の持久能が増強した。

 骨格筋での遺伝子発現を解析したところ、脂質代謝や骨格筋線維の遺伝子発現が変化しており、さらに詳細にみると、抗酸化活性を介したメカニズムというよりは、AMPKを介したミトコンドリア代謝系の亢進が関与していることが明らかになった。

 AMPKはAMP活性化プロテインキナーゼと呼ばれるタンパク質で、細胞内のエネルギーセンサーの役割を担っている。AMPKの活性化による代謝改善効果は、糖尿病治療薬として広く利用されているメトホルミンで知られているが、その主な作用組織は肝臓だ。また保険医薬品であり、一般的に予防目的では使用されていない。
アスタキサンチンにより骨格筋が遅筋化
 研究グループは、AMPKの活性化は有酸素運動による糖代謝改善のメカニズムと類似していることから、「アスタキサンチン」は骨格筋においてAMPKを介した運動模倣薬的な作用をしていると推察した。

 検討を行った結果、「アスタキサンチン」を摂取した肥満モデルマウスでは、後肢の腓腹筋において、ミトコンドリアによるエネルギー代謝に関わる表現型の遺伝子発現が亢進しており、筋線維もミトコンドリアが多く、持久力を持つ遅筋(赤筋)型の遺伝子発現パターンに変化していることが分かった。

 遅筋は白筋と比較し脂質代謝や耐糖能、筋持久力、ストレス耐性などにおいて高い優位性があり、持久的運動により誘導される。

 酸化ストレスにあまりさらされない条件にある非肥満マウスや骨培養骨格筋細胞(C2C12細胞)でも、「アスタキサンチン」は、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる遺伝子発現を亢進していた。

 研究グループはこれらから、「アスタキサンチン」が抗酸化活性によらない何らかの作用でミトコンドリア代謝改善作用を示していると考えた。

 さらに作用機序を探索したところ、ミトコンドリア関連の転写因子に関連する分子(サーチュイン、PGC-1α、PPAR-α、ERRα、γ)の遺伝子発現が亢進していた。なかでもPGC-1αの遺伝子発現では、運動によるAMPK活性化で発現が上昇するアイソフォームの遺伝子発現が亢進していた。

 そのため、AMPKが「アスタキサンチン」のミトコンドリア代謝亢進作用に関与すると考え、AMPKのサブユニットであるAMPKα1/2をsiRNAでノックダウンしたC2C12細胞を用いて評価したところ、AMPK活性化薬の1種であるAICAR(5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide)と同様に、添加により誘導されるPGC-1αアイソフォームの遺伝子発現誘導が低下した。
アスタキサンチンがミトコンドリア代謝を亢進
 このことから、「アスタキサンチン」の標的としてAMPKを介した経路を活性化することで、ミトコンドリア代謝が亢進していることが判明した。通常食マウスでも、ミトコンドリア関連遺伝子の発現亢進にともない、血管新生や骨格筋の遅筋線維の遺伝子発現も亢進しており、骨格筋が肥満時の脂質代謝により適した遅筋化することが示唆された。

 同時に肥満モデルマウスでは、脂肪組織での炎症性サイトカインに関連する遺伝子発現が減少しており、この作用は、脂肪組織での過酸化物質を示すTBARSが低下していたことから、酸化ストレスを脂肪組織では低下させることも作用機序の一端をになっていると考えられるという。

 一般的に抗酸化物質はメタボリックシンドロームのような酸化的環境下では有益な作用を示すと考えられるが、近年では、特定の抗酸化物質の過剰摂取により、日常的な運動トレーニングによる耐糖能改善作用を妨害することが報告されている。この作用は、骨格筋において活性酸素による生理的な正の作用であるAMPKの活性化を抗酸化物質が妨害するためだと考えられる。

 「アスタキサンチン」では、培養骨格筋細胞(C2C12細胞)において、活性酸素である過酸化水素によるAMPKの活性化(リン酸化)を、代表的な抗酸化剤であるN-アセチルシステインとは異なり阻害せず、肥満モデルマウスでもトレッドミルによる運動トレーニング後の糖負荷試験で、運動と相加的な作用を示した。
メタボや2型糖尿病の予防効果を期待
 これらの結果から、「アスタキサンチン」は単純な抗酸化物質としての作用だけではなく、それとは独立した特徴的な代謝改善作用を示すことが示唆された。

 「アスタキサンチン」の日常的な摂取により、骨格筋においてインスリン抵抗性を改善でき、メタボや2型糖尿病の発症・進展を予防する効果を期待できる。「アスタキサンチンのAMPKの活性化に関する分子作用機序は明らかでないため、その機序を解明し、作用機序に基づいた新規で安全な骨格筋AMPK活性薬の創薬につなげたい」と、研究グループは述べている。

富山大学医学部第一内科
Astaxanthin stimulates mitochondrial biogenesis in insulin resistant muscle via activation of AMPK pathway(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2020年1月31日)
[Terahata]

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