産官学連携で糖尿病性腎症に対策 AIでリスク要因を分析し保健事業に発展 大分県

 大分県が推進している事業で、国保データベース(KDB)の解析から、糖尿病性腎症の新規発症に関連ある因子として、HbA1cや血清クレアチニンなど10項目が明らかになった。NECの人工知能(AI)技術を用いて、仙台白百合女子大学と共同で分析した。
大分県のKDBデータを活用し糖尿病性腎症の予測分析
 大分県は、県民の健康保持および医療の効率的な提供の推進を目的に、2018年に大分県医療費適正化計画(第三期)を策定し医療費適正化の取組みを推進している。あわせて第2期データヘルス計画を策定し取組みを進めている。

 同県は2019年に、健康寿命の延伸と医療費の適正化に向け、市町村国保の特定健診、医療レセプト、介護データなどの連結による分析を行い、分析結果にもとづく効果的な保健事業の実施につなげることを目的に、「産・官・学連携保健・医療・介護保険等データ活用による医療費分析事業」を実施した。

 同事業では、仙台白百合女子大学に分析および助言などを依頼し、また同大学と共同分析研究を実施しているNECの人工知能(AI)技術を用いて分析を行った。

 国保データベース(KDB)の集計表をもとに、AI技術により、糖尿病性腎症の新規発症につながるリスク要因など、糖尿病にかかる因子予測を分析した。

 KDBシステムは、「特定健診・特定保健指導」「医療(後期高齢者医療含む)」「介護保険」などの情報を活用し、保険者の効率的かつ効果的な保健事業の実施を支援するシステム。

 大分県の1人当たり医療費は全国的にも高い水準にあり、県民の健康寿命延伸と健康増進が重要な課題となっている。とりわけ県医療費の約3割を占める生活習慣病、なかでも人工透析の約4割を占める糖尿病性腎症の早期発見・支援、重症化の予防が急務となっている。
HbA1cや血清クレアチニンなど10の因子を同定
 事業の一環で、仙台白百合女子大学・鈴木寿則准教授のレセプトや健診データの分析に係わる知見と、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つである「異種混合学習技術」を活用し、2型糖尿病患者の重症化につながる因子分析を行った。

 具体的には、人工透析により多額の医療費や定期的・継続的な通院が必要となる糖尿病性腎症について、大分県の3年分のKDBから抽出されたデータをもとに、AIによる発症影響因子の分析を行った。

 複数の市町村にまたがるKDBを活用し、健診データと医療レセプトデータを連結した分析はこれまで困難なものとされていたが、2018年度から保険者となった大分県の主導により県内の17市町村からKDBデータが提供され、NECと仙台白百合女子大学が共同で分析した。

 大分県内の2型糖尿病に罹患し、かつ糖尿病性腎症を発症していない約3,000人を対象に、KDBの健診データ、医療レセプトデータを連結し、AIが分析した結果、年齢やBMI、血圧などの62の因子から、糖尿病性腎症の新規発症に関連ある因子として、HbA1cや血清クレアチニンなど10の因子を絞り込んだ。
出現回数の多い上位10項目が明らかに
 これらの因子について、新規発症者と非発症者との間での有意差を確認したところ、新規発症者において有意な傾向が認められた。

 作成した10個の予測モデルに出現した回数の多い上位10項目(説明変数)を2型糖尿病性腎症の新規発症に関連のある因子は以下の通り。
 関連のある因子について、新規発症者のグループと非発症者のグループ間の差による有意差検定を行った結果、新規発症者において、▼HbA1cが高い、▼血清クレアチニンが高い、▼糖尿病用剤の年間月数が多い、▼服薬血糖ありの割合が高い、▼LDLコレステロールが低い、▼単独タンパク尿のある割合が高い、▼血管拡張剤の年間月数が少ない――といった有意な傾向があった。

 「HbA1c」は早期腎症の発症・進展を抑制するための血糖コントロールの目標値として用いられており、目標値は7.0%未満。「血清クレアチニン」は老廃物の一種で、腎機能の低下にともない血中濃度が高くなる。「糖尿病用剤」、「服薬血糖」の服薬の回数が多いほど糖尿病が進行していると考えられる。また、「タンパク尿」は腎不全に関連している。「血管拡張剤」については高血圧に関連しており、高血圧は慢性腎臓病の原因となり、既存の慢性腎臓病を悪化させる。
対象者を絞り込めば効果的な個別指導につなげられる
 大分県では、これらの因子にもとづき対象者を絞り込み、各保険者の効果的な個別指導につなげることで、保健指導の高度化と医療費の適正化を図る。NECは、仙台白百合女子大学と連携し、引き続き保健・医療・介護分野におけるデータ利活用を進め、自治体における健康増進と医療の効率的な提供を推進していく。

 「今回の分析により、既存の知見と整合性のある因子を見つけることができた。この因子を用いて対象者を絞り保健指導を行うことで、2型糖尿病患者の重症化を効率的に抑制できる可能性がある」と、研究者は述べている。

大分県「産・官・学連携保健・医療・介護保険等データ活用による医療費分析事業」
大分県医療費適正化計画
[Terahata]

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編集部注:
  • 海外での研究を扱ったニュース記事には、国内での承認内容とは異なる薬剤の成績が含まれています。
  • 2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わすようになりました。過去の記事は、この変更に未対応の部分があります。ご留意ください。
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