SGLT2阻害薬が糖尿病腎症の進行を抑えるメカニズムを解明 SPring-8を使い糸球体1万個への作用をミクロで解析

2018.10.18
 SGLT2阻害薬が糖尿病腎症の進行を抑えるメカニズムが、「SPring-8」の放射光を用いた実験ではじめて明らかになった。SGLT2阻害薬の腎保護効果は、尿細管を標的としているという。

「SPring-8」で糸球体の可視化を可能に

 糖尿病における糸球体の数と大きさを知ることは、糖尿病の治療と腎症の進行度を予測する上で重要だ。しかし、腎臓に100万個あるとされる糸球体の大きさは100ミクロン程(1ミクロンは1ミリメートルの1,000分の1)と小さいため、現在の画像検査では観察は不可能だ。生体検査によって組織を採取し、はじめて観察が可能となるが、採取できるのは糸球体10個程度が限界だ。

 そこで研究グループは、「SPring-8」の放射光を用いれば、糸球体の可視化が可能になると考えた。肥満2型糖尿病モデルマウスを用い、撮影方法・解析方法の開発を、九州大学、名古屋工業大学、高輝度光科学研究センターと共同で行った。

 「SPring-8」は、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の大型放射光施設。電子を加速・貯蔵するための加速器群と発生した放射光を利用するための実験施設などから構成される。2003年に宇宙開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の超微小粒子の分析を成功させ、広く知られるようになった。

SGLT2阻害薬が腎肥大を正常化 尿細管が標的に

 その結果、SGLT2阻害薬による糖尿病マウスの糸球体1万個への作用が明らかになった。糖尿病マウスでは正常マウスと比べると、糸球体は数は変わらないが、サイズが大きくなる。SGLT2阻害薬を投与すると、糸球体の数・大きさは変わらないが、糖尿病による腎肥大が正常化することが解明された。

 SGLT2阻害薬により大きく変わったのは尿細管の大きさだった。SGLT2阻害薬の腎保護効果は、尿細管を標的としていることが明らかとなった。全糸球体の体積は腎体積の1.5%未満なのに対し、尿細管は腎臓の90%以上を占める。

 SGLT2阻害薬には、腎臓内の糸球体への過剰な負担の軽減などの作用があるとされるが、SGLT2阻害薬の尿細管に対する作用がこうした効果につながると考えられる。
 「SPring-8」の放射光を用いたマイクロCTによる測定で、SGLT2阻害薬が腎臓を保護するメカニズムがはじめて明らかになった。糖尿病は全身の血管を障害する疾患。今回の研究は、全身の血管撮影と解析を可能とした点が画期的だ。

 2016年の透析導入患者における主要原疾患の第1位は糖尿病腎症で43.2%。この年、1万6,103人が糖尿病腎症が原因で人工透析を開始した。

 研究グループは、糖尿病との合併が多い脂肪肝、糖尿病患者の死亡原因第1位であるがんについても、その血管構造の変化、異常血管新生の研究を進めている。今後は、糖尿病とその合併症の病態をミクロ単位で明らかにすることで、糖尿病の病態の理解を進め、新しい治療法と診断法の開発を目指している。

 研究は、旭川医科大学内科学講座(病態代謝内科学分野)の滝山由美准教授、九州大学工学研究院の世良俊博准教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の中村匡徳教授、高輝度光科学研究センターの研究グループによるもの。詳細は、「Cell」と「Lancet」の共同オープンアクセス誌「EBioMedicine」に掲載された。

旭川医科大学 内科学講座病態代謝内科学分野
九州大学工学研究院
Impacts of Diabetes and an SGLT2 Inhibitor on the Glomerular Number and Volume in db/db Mice, as Estimated by Synchrotron Radiation Micro-CT at SPring-8(EBioMedicine 2018年10月12日)

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