低用量アスピリン療法は日本人の糖尿病患者には勧められない 心血管疾患一次予防の効果を確認できず JPAD2研究
2016.12.28
奈良県立医科大学の斎藤能彦教授らの研究グループは、11月にニューオリンズで開催された米国心臓学会議で、日本人の糖尿病患者の心血管疾患一次予防法としての低用量アスピリン療法の有効性を10年にわたり追跡調査したJPAD2研究を発表した。この研究では、低用量アスピリン療法は心血管疾患を予防する効果が認められず、むしろ消化管出血の危険性が増加することが示された。
低用量アスピリン療法による心血管疾患予防効果は認められない
糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患発症の重要な危険因子であり、その予防対策は重要な医療上の課題となっている。糖尿病患者の心血管疾患一次予防法として、従来から血糖や血圧、脂質などの危険因子の管理が重要とされており、薬物療法として低用量アスピリン療法が推奨されているが、最近ではアスピリン療法の効果に疑問がもたれている。 研究は、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授、国立循環器病研究センターの小川久雄理事長、兵庫医科大学の森本剛教授らの研究グループによるもので、医学誌「Circulation」に掲載された。 研究グループは2008年に、「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する研究報告(JPAD研究)を行った(JAMA. 2008; 300: 2134-2141)。 JPAD研究では4.4年の観察期間で、低用量アスピリン療法による心血管疾患予防効果は認められなかった。同様の報告が同時期に英国からも報告されたこともあり、糖尿病患者への心血管疾患一次予防法としての低用量アスピリン療法には疑問がもたれるようになった。しかし、JPAD研究には観察期間中にあらかじめ想定された心血管疾患の発症が認められなかったことなど、解決すべき問題点もあった。 そこで、斎藤教授らの研究グループは、JPAD研究に参加した2,539名の日本人2型糖尿病患者を対象に、JPAD研究終了後8年間(2002~2005年)の追跡調査(JPAD2研究)を行った。研究の目的は、より長期間にわたる追跡調査により、糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患予防効果を検証すること。低用量アスピリン療法群では消化管出血が増加
JPAD研究では、心血管疾患の既往のない2型糖尿病患者2,539名を、無作為に低用量アスピリン投与群、非投与群に割り付けた。JPAD研究は2008年4月に終了したが、その後も2015年7月まで追跡調査を行い、心血管疾患の発症、出血性疾患の発症について調査を継続した(JPAD2研究)。JPAD研究終了後の低用量アスピリン療法の継続要否については、対象患者の各主治医の判断に委ねられた。 2015年7月の追跡調査時点で観察期間は10.3年(中央値)となり、観察期間中に低用量アスピリン投与群では270名が低用量アスピリン療法を中断し、非投与群では109名が低用量アスピリン療法を開始した。低用量アスピリン療法の効果を検証するにあたり、これらの低用量アスピリン療法割付から逸脱した患者を除外した解析(Per-protocol解析)を行った。 心血管疾患の発症は、低用量アスピリン療法群151名(15.2%)、非投与群166名(14.2%)において認められた。心血管疾患の発症に及ぼす低用量アスピリン療法の効果を検証した解析では、低用量アスピリン療法による心血管疾患予防効果は認められなかった(ハザード比[HR] 1.14、95%信頼区間[CI] 0.91-1.42)。Low-Dose Aspirin for Primary Prevention of Cardiovascular Events in Patients with Type 2 Diabetes: 10-year Follow-up of a Randomized Controlled Trial(Circulation 2016年11月15日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]