1,5-AG低値は糖尿病のCVD発症や死亡リスク上昇に独立して関与

2015.12.14
 米国の前向きコホート研究において、短期間の血糖コントロールと食後高血糖の指標として知られる1,5-AGは、心血管疾患発症や総死亡のリスクと相関し、HbA1cや空腹時血糖で調整しても有意性が保たれたとの論文が、米国糖尿病学会の学会誌'Diabetes'の電子版に掲載された。食後高血糖が大血管症発症と死亡の独立した危険因子であることを示す新たなエビデンス。
【提供:日本化薬株式会社】

 本論文は、米国の4つの地域から1万5,000人以上を登録し、30年近くにわたり追跡し続けている住民対象前向きコホート研究'Atherosclerosis Risk in Communities Study'(ARIC-Study)を解析したもの。登録者は約3年ごとに臨床的検査を受け、本論文では1990~1992年に実施された登録後2度目の検査の結果をベースラインとして、心血管イベントと総死亡のリスクを検討した。論文のタイトルは「Association of 1,5-anhydroglucitol with cardiovascular disease and mortality」。

 解析対象は1万1,106名で、除外基準は、心血管疾患の既往、検査前の絶食時間が8時間未満だった者、白人または黒人以外の人種、重要データが欠落していた者。そのうち糖尿病患者(糖尿病と診断されていた者)は762名であった。追跡期間の中央値は21年以上で、発生したイベントは、冠動脈疾患が1,159件、脳梗塞が637件、心不全が1,553件、総死亡が3,120件だった。

 対象は、ベースライン時の糖尿病の有無(糖尿病と診断されたことがあるかないか)と1,5-AG 6μg/mL(6μg/mL未満は直近の200mg/dLを超える高血糖ピークを反映)を基準に4つのカテゴリーに分けた。非糖尿病で1,5-AG 6μg/mL以上を対照とし、冠動脈疾患、心不全、脳梗塞の発症及び総死亡との関連はコックス比例ハザードモデルを用いて評価した。

図 1,5-AG値と糖尿病有無による
  カテゴリーにおける多変量調整ハザード比
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図 1,5-AG値と糖尿病有無によるカテゴリーにおける多変量調整ハザード比
〔Diabetes;Published online before print, September 22, 2015より作図〕

 結果だが、まずベースライン時の1,5-AGをみると、糖尿病患者のほぼ半数にあたる49%が6μg/mL未満であった。一方、非糖尿病者(糖尿病と診断されていない)群の1,5-AG6μg/mL未満の割合は2%未満と、ごくわずかだった。

 次に、連続変数としての1,5-AG値と各イベントの多変量調整ハザード比との関連を検討した結果、1,5-AG 10μg/mL未満では1,5-AG値の減少はすべての心血管疾患発症及び死亡のリスク増加との関連性が認められた。一方、10μg/mL以上ではリスクとの関連性は認められなかった。

 さらに、前述の4つのカテゴリーにおける各イベントの多変量調整ハザード比を検討した結果、糖尿病で1,5-AG 6μg/mL未満群では、対照群に対し、評価したすべてのエンドポイントで有意なリスク上昇が認められた(ハザード比 [95%信頼区間]、冠動脈疾患: 3.85 [3.11-4.78], p for trend < 0.0001、心不全: 3.50 [2.93-4.17], p for trend < 0.0001、脳梗塞: 3.48 [2.66-4.55], p for trend < 0.0001、総死亡: 2.44 [2.11-2.83], p for trend < 0.0001)。調整因子にHbA1cや空腹時血糖を加えたモデルでは、冠動脈疾患、心不全、総死亡のリスクとの関連は弱くなったが有意性は残り、脳梗塞では有意な関連は認められなかった()。

* 年齢、性、人種、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、BMI、ウエスト/ヒップ比、収縮期血圧、降圧薬の有無、学歴、飲酒及び喫煙習慣、身体活動度、GFRにより調整

 著者らは、検討の限界として、1,5-AGをベースライン時のみの値で評価していること、脳梗塞に関して他のイベントに比してデータパワーが不足していたこと、未知の交絡因子を調整できていない可能性などを挙げている。糖尿病において、1,5-AGは高血糖の古典的バイオマーカーであるHbA1cや空腹時血糖値とは独立して心血管アウトカムや総死亡と関連し、合併症発症の予測に関与すると結論を述べている。

 実際、本検討において対象の糖尿病患者群(糖尿病と診断をされていた群)の半数が1,5-AG6μg/mL未満であったことから、実臨床においてもHbA1cで把握できていない残余リスクは少なくないことが推測される。

〈関連情報〉

原典論文(Diabetes;Published online before print, September 22, 2015, doi: 10.2337/db15-0607)
3分間ラーニング/1,5-AG(動画)
日本化薬株式会社/診断薬.net

1,5-AGとは:

 1,5-AGはグルコースと似た構造を持つ糖類の一種で、体内には主に食物から摂取され、ほとんど代謝されずに一定量がプールされています。1,5-AGは腎尿細管で99%以上再吸収されますが、血糖値が高くなり尿糖が出ると、1,5-AGの体内への再吸収がグルコースにより阻害されるため、1,5-AGは尿中へ排泄され、その結果、血液中の1,5-AG濃度は低くなります。採血時からさかのぼり過去数日から1週間の血糖変動を反映するとされ、参考基準範囲は14μg/mL以上です。HbA1cに比べ、食後などの短時間の高血糖を敏感に把握できる指標です。

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