“血糖トレンド”をどう活用するか

FreeStyleリブレの情報を活かした
糖尿病患者の療養指導

吉田 陽 先生陣内(じんのうち)病院 薬剤部 主任、治験室 主任
筆者について

1.FreeStyleリブレによる血糖トレンドのイメージとデータの活用

 Flash Glucose Monitoring(以下:FGM)であるFreeStyleリブレが保険適用になって、1年が経ちます。FreeStyleリブレは1枚のセンサーで14日間、皮下組織のブドウ糖濃度から予測される血糖値を表示することができます。保険は血糖自己測定(SMBG)の補助装置としての認可となったため、施設ごとで運用方法が少し異なりますが、インスリンまたはGLP-1受容体作動薬による在宅自己注射をしている2型糖尿病の患者さんで、FreeStyleリブレセンサーは概ね月に1枚(SMBGを1日2回)か、インスリン自己注射をしている1型糖尿病の患者さんで、月に2枚(SMBGを1日4回)となっているかと考えられます。※SMBG、FGMについては、こちらの記事をご参照ください。

 先に述べたようにFreeStyleリブレは皮下組織内ブドウ糖濃度を測定しているため、SMBGとの測定値の差などの注意点はありますが、やはり最大のメリットは、一度装着すると血液採取を伴う血糖測定による補正が不要で、いつでもどこでも血糖値や血糖トレンド(血糖値の動き)を見ることができる点です。私は、FreeStyleリブレは車のスピードメーターのようなものだと考えています。もしスピードメーターのない車に乗っていても、走行スピードの速い、遅いについては感覚的に分かると思いますが、今、時速何キロで走行しているかという正確な数値は分かりません。血糖値もその感覚に似ており、低血糖や非常に高い血糖値は違和感などで感知できますが、血糖値が100〜200mg/dL、患者さんによっては300mg/dLを超えるまでは、血糖値を実際に測ってみないとその時の値を予測することは極めて困難です。また、どんなものを食べたら血糖値が急激に上がるか、またはゆっくり上がるについても、変動を見てみないと分かりません。実際に血糖値の動きを決める要因は、血中のインスリン量とインスリンの効きの良さ、それと胃腸の消化速度です。この3つの要因が絡んでくるので、例え同じパンを食べたとしても、血糖値の上がり方は人それぞれ異なります。

 インスリン自己注射中の患者さんに対する療養指導では、低血糖が問題となっている場合は、低血糖の原因となる責任インスリンを探し出す必要があります。強化インスリン療法では基礎インスリンか追加インスリンのいずれが責任インスリンなのか、また混合型インスリン製剤を使用している患者さんにおいては、混合型インスリンにおける、追加インスリンの割合が低血糖に影響していないかを確認しなければいけません。BOT(Basal supported Oral Therapy)と呼ばれる、基礎インスリンと経口血糖降下薬を併用している治療方法でも、基礎インスリンによる低血糖なのか、内服薬によるものかを考えます。以下、実際の症例を示します。

2.症例

症例1:基礎インスリン投与量の調整が困難であった1型糖尿病の患者さん

 この症例は、70代女性で罹病年数が28年と長く、血糖変動が大きい1型糖尿病患者さんです。FreeStyleリブレを使用するまではSMBGの値を確認しながら、インスリン量の調整や食事療法を行っていましたが、なかなか思うようにコントロールができませんでした。この患者さんはインスリンの効きが良く、少量の基礎インスリンでも低血糖になることがあるため、基礎インスリンを1日1回ではなく2回に分けて投与していました。

 実際に最初にFreeStyleリブレを装着したのが図1になります。日内変動パターンと血糖値70mg/dL以下のグラフから、夜間帯に低血糖が多く起きていることや、朝食前の7時頃には暁現象や低血糖のリバウンド現象が原因と考えられる血糖上昇など、SMBGでは捉えられなかった血糖トレンドをキャッチできました。さらにAGP(Ambulatory Glucose Profile)で表される血糖トレンドのグラフを確認しながら基礎インスリンを減らし、調整を行った結果、図2のように半年後には、HbA1cは同程度ながらも低血糖がかなり減少し、血糖変動幅も縮小できていることが分かります。患者さん自身も「低血糖の回数も減ったし、高血糖の回数も減った。基礎インスリンを半分くらいにしたのに不思議なんだけど、安心して生活できる」と喜んでいました。

図1 最初のFreeStyleリブレ装着のデータ

治療内容:基礎インスリン(4,0,3) 追加インスリン(9,6,6) 実測値HbA1c 8.4%

図1
図2 半年後のデータ

治療内容:基礎インスリン(2,0,0) 追加インスリン(9,6,5) 実測値HbA1c 8.5%

図2

症例2: 低血糖後の補食が血糖トレンドに悪影響する2型糖尿病の患者さん

 外来の指導中によく遭遇するのが、低血糖と補食の問題です。AGPや日内変動パターンを活用してインスリンなどの治療薬を検討した後に、日々の血糖トレンドを確認することで、低血糖時の患者の捕食も考察することができます。図3の症例2は、強化インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者さんです。

 血糖値が50mg/dLを下回るような低血糖の場合、患者さんは一旦補食した後もなかなか血糖値が上がらないことに焦りを感じ、更にチョコレートやパンなどを過剰に摂取していました。結局、最初に摂取した補食と、追加の補食により2時間くらいかけて血糖値が上昇し続けてしまっています。

 血糖値のコントロールは、良くしようとすればするほど低血糖がつきまとってくるので非常にもどかしいのですが、私はこの過食を解消する対策として、患者さん自身に自分の血糖トレンドを理解して貰うことが重要であると考えています。患者さん個々の生活スタイルによって、血糖値が下がりやすい時間帯は様々です。強化インスリン療法を行っている患者さんでも、食後1〜2時間の血糖値が下がりやすい方もいれば、食前が下がりやすい方もいます。ある程度パターンがあるが、不規則に低血糖が起こる場合は、インスリン量や内服薬の量ではなく食事や運動の影響が大きいことがあるため、医療従事者の指導だけでは低血糖を防げません。そこで低血糖になりやすい時間に、FreeStyleリブレでまめにスキャンすることを指導します。そして血糖値が100mg/dLを下回ったときに、血糖トレンドがまだ下降傾向であれば、単純糖質を補食して貰います。そうすることで低血糖領域に入る前に血糖値が下げ止まり、過剰な補食を予防することができます。自宅や職場でSMBGを行い、FreeStyleリブレの測定値とあまり差がないことが確認できていれば、外出先でもFreeStyleリブレの値は大きく外れないと考えられます。

図3 低血糖時の過剰補食による血糖値の上昇
図3

3.さいごに

 インスリン製剤やSU薬、グリニド薬などを使い、良好な血糖コンロールを目指すと高確率でどこかで低血糖が起こってきます。怖いのは低血糖に対する慣れです。その慣れが救急搬送や交通事故などにつながってしまうこともあるので、自分の血糖トレンドを把握することが大切です。FreeStyleリブレは、誰でも簡単に、いつでもどこでも血糖トレンドを確認できるため、低血糖を予防する上で非常に重要なツールであると考えています。

著者プロフィール

吉田 陽先生

吉田 陽(よしだ あきら)先生

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医療法人社団 陣内会 陣内病院 薬剤部

2005年 熊本大学薬学部、2007年 同大学院卒業後、陣内病院薬剤部に勤務。2016年に薬剤部主任、2017年から治験室主任を兼任する。また薬剤部勤務の傍ら、2011年に熊本大学医学教育部の社会人大学院に入学し、2016年 医学博士取得。
工学部の大学生であった20歳の時に1型糖尿病を発症。その後、薬学部へ進路変更を行い、糖尿病専門病院に就職。専門病院でCGMなどの最新の医療機器に触れる機会に恵まれ、自身の体験も踏まえ日々の療養指導にその知識を活かしている。

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