糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第20回 インスリン製剤 (3)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 46(2015年10月1日号)

ヒトインスリン製剤の誕生までの道のり

 前回はNPHインスリン(中間型インスリン)まで紹介しましたが、この頃のインスリンはヒトインスリンと比べ、ウシで3個、ブタで1個アミノ酸が異なり、注射部位のアレルギー反応やインスリン抗体の産生などに問題がありました。ヒトインスリンは合成出来ないので、1979年苦し紛れにブタインスリンB鎖C末端のアラニンをスレオニンに酵素転換してヒトインスリンの半合成技術に成功し、アレルギーの問題はかなり改善しました。しかし一人の糖尿病患者さんが使用するインスリンを供給するには年間70頭余りものブタが必要で、供給不足は時間の問題でした。

速効型インスリンの問題

 これを解決したのが遺伝子工学です。遺伝子組換え技術を用いた最初の医薬品として、プラスミドを大腸菌に組み込ませ、大量培養しその後インスリンを精製するという方法が1981年に開発され、1983年に「ヒューマリンⓇ」が発売されました。またノボ ノルディスク社は1987年に酵母菌を用いたヒトインスリン合成に成功し、「ノボリンⓇ」として発売しました。
 しかしこの速効型(レギュラー:R)インスリンを臨床現場で使用してみるとわかるように、実は速効型ではなかったのです! インスリンの性質をご存じでしょうか。インスリンは6量体を形成して安定する性質があります。これを皮下に注射しても吸収されず、ゆっくりと分解されて2量体または単量体になってから初めて毛細血管の中に入って行きます。従って食後の血糖上昇抑制には間に合わないのです。しかし、食後高血糖を改善できないと、心血管イベント発症に重大な影響を与える(文献1)ことがわかっていますので、この問題を解決する必要がありました。

"インスリンに合わせた生活"からの解放

 そして、それを解決に導いたのがインスリンのアミノ構造の一部を別のアミノ酸基で置換したインスリンアナログ製剤です。イーライリリー社は1996年に超速効型アナログインスリン・リスプロ(ヒューマログⓇ)を世界に先駆けて発売。ノボ社も1999年にインスリン・アスパルト(ノボラピッドⓇ)、また2004年にサノフィ社からインスリン・グルリジン(アピドラⓇ)が発売されました。忙しい人は速効型のように注射後に食事を30分も待っていられませんし、食事が運ばれてくるのが遅れれば低血糖になってしまいます。それが超速効型の登場で、食事の直前、場合によっては食直後なら何とか間に合うようになりました。

バイオシミラーとは?

 さてインスリン製剤の発展とは話題が異なりますが、このたび世界で初めて、インスリン製剤「グラルギン(ランタスⓇ)」のバイオシミラーが日本イーライリリー社から発売されました。糖尿病分野でこの言葉は耳新しいため解説しておきましょう(文献2)。バイオ医薬品は、インスリン、ホルモン製剤、サイトカイン、モノクローナル抗体などのタンパク質の製剤です。バイオ医薬品は一般に価格が高く、製造技術を持つ製薬メーカーは限られています。そして、バイオ医薬品のジェネリックをバイオシミラーと呼び、より安価に同様の治療が受けられるメリットがあります。もともと製造のプロセスでいろいろな影響を受けるため、先発品と全く同一ではありませんので(文献3)、WHO(世界保健機構)ではバイオシミラーを「既に認可を取得したバイオ医薬品に対して品質、安全性、有効性の面で、類似しているバイオ医薬品」と定義しています。患者さんの経済的負担軽減が期待されます(文献4)。

参考文献

  • 1)N Engl J Med 364:829-841, 2011
  • 2)DeVries JH et al. (Review) :Diabetes, Obesity and Metab:1-7,2014
  • 3)L Heinemann:Expert Opin Biol There 1009-1016,2012
  • 4)山前浩一郎ら:Progress in Medicine 34:1793-1803,2014

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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