私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

55. 糖尿病検診と予防

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

1. 糖尿病ときめる基準

 糖尿病と診断するには根拠が必要である。糖尿病の特徴が高血糖とわかってからは、WHO(世界保健機構)は食後2時間血糖130mg/dL以上(1965年)を糖尿病とみなすことにした。1979年4月米国のNational Diab. Data GroupがNIH(National Institutes of Health)で会議を開き糖尿病の診断に関する基準をきめた。空腹時140mg/dL以上なら糖尿病、75gブドウ糖負荷試験では2時間値200mg/dL以上が糖尿病、140mg/dL以下は非糖尿病、140-199mg/dLの場合はIGT(耐糖能障害)と判定することにし1979年に公表した。これを受けてWHOもほぼ同様の基準を発表、日本糖尿病学会では診断基準検討委員会を設けて検討し、ほぼこれと同様な基準をつくり、数年後には全く同じものに直して現在にいたっている。

2. アルマアタ宣言

 わが国の厚生省は強兵を目的として1932年に設立された。敗戦により戦争をしない国になったので、国民の福祉、健康を守る機関として事業を行ってきた。その主要なものを挙げたのが表1である。
表1  わが国の健康対策関連事項の年表
1951脳卒中が死因の1位になる
1956成人病予防対策協議会が設置され成人病が行政用語として用いられる
1958第1次悪性新生物実態調査実施(以下 1960、1962、1979、1989に実施)
1961成人病基礎調査実施
1971成人病基礎調査実施
1978第1次国民健康づくり運動発足
1980循環器疾患基礎調査実施
1981がんが死因の1位になる
1982老人保健法に基づく(老人)保健事業第1次5か年計画
1983対がん10か年総合戦略決定
1985健康づくりのための食生活指針(厚生省)
1985がんを防ぐための12か条(国立がんセンター)
1987(老人)保健事業第2次5か年計画
1988第2次国民健康づくり対策
1990循環器疾患基礎調査実施
1992(老人)保健事業第3次8か年計画
1992循環器疾病有病状況調査実施
1994がん克服新10か年戦略開始
1996生活習慣病の概念導入を公衆衛生審議会意見具申
1997生活習慣病対策(公衆衛生審議会)
1997糖尿病実態調査実施(第1回)
1999健康日本21の検討
2002糖尿病実態調査実施(第2回)
 1974年カナダの保健大臣ラロンドは公衆衛生の方針を疾病予防から健康増進に転換した。これが契機となって以下のような運動が展開されたといわれている。WHOの会議が1978年カザフ共和国のアルマアタで開かれたときマーラー事務長は、医療の重点を高度医療中心からprimary health careに転換することを提唱し、これはアルマアタ宣言として採択された。
 その骨子は(1)健康は基本的な人間の権利である、(2)健康は南北関係、地域、社会階層などによって格差があってはならない、(3)全ての人は個人または集団として、自分たちの保健サービスの企画と実践に参加しなければならない、(4)PHCは自助と自決を基本として地域社会の行える範囲で実施し、全ての人達がその恩恵にあずかるサービスである。(5)平和を前提とすれば、21世紀までには満足すべき健康水準への到達は可能である。
 このように、途上国を視野に入れたものであるが、先進国でも次のような活動が展開された。
 1979年米国厚生省のマクギニスは個人の生活習慣の改善による健康を目標としたHealthy People政策を打ちだし、この運動は1980年代にヨーロッパではHealth for All 2000として展開された。アメリカでは第2期の目標を2000年におきHealthy People 2000として具体的な300の目標を設定し、さらに第3期を2010年に目標を設定している。わが国では従来の成人病という用語が、加齢により避けられないものととられるので、「健康日本21」を打ちだし、成人病をやめて生活習慣病という用語を用いることにした。このようにして目標値も細かに設定された。

3. グリコアルブミンやHbA1cで検診できないか

 1970年代にグリコヘモグロビンが臨床の指標として用いられるようになりHbA1cとして記されるようになった。それでは検査に2時間が必要なGTTの代わりにHbA1cを使えないかという研究が盛んに行われた。またグリコヘモグロビンと同様に蛋白質の糖化をみる方法としてアルブミンを用いる方法が開発され広く行われる状況になった。HbA1cよりも短時間で大量の検体を処理でき、また一般生化学検査と同様に扱えるという利便性があり普及している。
 そこでブドウ糖が血液の蛋白に結合する度合から糖尿病をスクリーニングすることを検討した。政管健保の一泊人間ドックを行っている3病院が共同でGTT時のHbA1cとグリコアルブミンをルシカGA-L(第一化学、旭化成)で測定し対比してみた。参加いただいた970名のGTTの成績は表2のようであり、またグリコアルブミン、HbA1cで拾いあげる率などを比較したのが表3である。

表2 1泊人間ドック 75gGTT成績(n=970)
空腹時血糖値75gGTT 2時間値(mg/dL)
正常(<140)IGT(140-199)糖尿病(≧200)
正常(<110)604  182  17  
IFG(110-125)47  58  21  
糖尿病(≧126)4  11  26  
IFG:Impaired fasting glucose
IGT:Impaired glucose tolerance 耐糖能障害

表3 空腹時血糖、グリコアルブミン、HbA1cおよび組合せによる耐糖能障害の検出感度
検出方法
(糖尿病として拾い上げる方法)
GTT 正常GTT 耐糖能障害GTT 糖尿病
NFG
(604)
IFG
(47)

(655)
NFG
(182)
IFG
(58)

(251)
NFG
(17)
IFG
(21)
糖尿病
(26)

(64)
空腹時血糖≧11004751058690212647
グリコアルブミン≧14.5%175171965424867172643
HbA1c≧5.5%812110653329212172643
空腹時血糖≧110
またはグリコアルブミン≧14.5%
1754722654581237212664
空腹時血糖≧110
またはHbA1c≧5.5%
8147132535812212212664
NFG:normal fasting glucose 正常空腹時血糖
人間ドック 21(6) 11-13、2007

 この970名の集団には75gGTTで2時間値が200mg/dL以上で糖尿病と判定される方は64名おられる。しかしGTTを行わずに空腹時血糖値110mg/dL以上あれば糖尿病、グリコアルブミンが14.5%以上、あるいはHbA1c5.5%以上ならば糖尿病と判定するという基準で判定すると表3に示すようになる。もしこれで糖尿病とスクリーニングできれば2時間もかかる75gGTTをやらなくともよいので非常に検診が簡単になるわけである。
 しかし表3をみるとGTT2時間値200mg/dL以上の方でもグリコアルブミンやHbA1cでは必ずしも全例を拾いあげることができないことがあきらかになった。またGTTで糖尿病と判定されない正常や耐糖能障害の方でもグリコアルブミンやHbA1cで拾いあげられる方が少なくないことがわかった。すなわち、ある程度重症の方はどの方法ではも拾いあげられるが、軽症の方は必ずしも一致しないことがわかった(人間ドック 21巻、11-13頁、2007年)。しかし、食事などに影響されないことから厚生省はHbA1cで調査を行った。

4. HbA1cによる糖尿病の実態調査

 1997年厚生省は国民栄養調査のおりに協力できる人たちから採血しHbA1cで糖尿病か否かを判定する方法で糖尿病の実態調査を行った。
 HbA1cのカット・オフ値は我々のものよりも0.6%も高いところに設定し、HbA1c≧6.1%の人は糖尿病が強く疑われる人として、HbA1c 5.0~6.0%の人は糖尿病の可能性を否定できない人と判定した。そして調査結果から
糖尿病が強く疑われる人  690万人
糖尿病の可能性を否定できない人  680万人
と推定された。そこで、糖尿病を減らすために毎日男女ともに1,000歩歩数を増やすことにより糖尿病を2010年までに7.5%減少させることができると予測された。
 2002年に同一の方法で第2回目の実態調査を行ったところ
糖尿病が強く疑われる人  740万人
糖尿病の可能性を否定できない人  880万人
と前回より多くなっているのがみられた。
 現在はメタボリック症候群(MSと略)が注目されている。糖尿病に高血圧が併発することは1930年代より記載され併発の有無により型別された。わが国では健診が広く行われ、高血圧、高脂血症、血糖の上昇などが併発してみられる人が多いことが、1980年代に気付かれていた。そして米国のGM Reaven教授の指摘によりそれが急に注目され、2005年わが国ではMSと呼称されることになり、内臓肥満が重視され、腹囲の測定が判定に必要とされている。

5. 糖尿病の予防

 世界的に糖尿病と肥満が増加している。食糧不足は一部の国に限られているのは幸いなことである。しかし今後、車の普及により運動不足がより蔓延するとこれらはさらに増え、冠動脈疾患や脳血管障害の増加が懸念される。努めて体を動かすことを世界規模で展開すべきである。

(2015年10月14日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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