オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

57. 糖尿病患者の就労支援 〜遠隔診療の必要性と可能性

浜野久美子 先生(関東労災病院 糖尿病内分泌内科)

浜野久美子 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 57(2018年7月1日号)

治療中断が患者さんを不幸にし、かつ、医療資源を枯渇させる

 昨年発表された「平成28年 国民健康・栄養調査」の結果では、糖尿病推計患者数が遂に1,000万人台へ増加したことが大きなニュースになりましたが、その陰でもう一つ看過できない数値がありました。それは、1,000万人の3分の1は未受療であり、受療者においても年間50万人以上が治療を中断してしまっているということです。

 一方、ACCORD等の大規模臨床試験から明らかになったこととして、糖尿病が重症化してから介入したのでは生命予後に直結する心血管イベントの抑制は難しく、血糖管理強化がかえっマイナスになりかねないことが挙げられています。それとともにUKPDS80やEDIC等から、糖尿病の発症後できるだけ早期(以前であれば"軽症"とされていた時期)から厳格な血糖管理を長に継続することで、細小血管症はもとより大血管症も抑制可能であることが証明されました。

 つまり、治療の先延ばしや中断は、糖尿病を効率よく治療して長寿を獲得し、高いQOLを維持するチャンスを患者さん自らが手放してしまっていることを意味します。実際、放置や通院中断の結果、重症化した合併症のために受診された患者さんの治療に難渋することは、糖尿病医療従事者であれば誰もが経験することでしょう。そのような患者さんに割くコストや時間によって、最も効率的である糖尿病初期治療に充てるべき医療資源の多くが削がれてしまっているのが、国内の糖尿病医療の現状ではないでしょうか。

患者さんの過半数が、仕事と治療の両立に困難を感じている

 では、なぜ放置や治療中断が起きてしまうのでしょうか。筆者が研究責任者を務めた労働者健康福祉機構(現:労働者健康安全機構)の「病院機能向上研究」で患者さんにアンケートを行ったところ、仕事と治療の両立に困難を感じている方が過半数に上り、4割の患者さんは通院のために有給休暇を取得しているという実態がわかりました。より具体的には、「待ち時間が長い」「予約が取りにくい」「夜間の診察も受け付けてほしい」「勤務中でも対応可能な治療法を検討してほしい」という声が挙げられました。

 また国立循環器病研究センターの調査から、55〜59歳の男性の治療状況が最も悪いというデータが報告されています。健康日本21推進フォーラムの調査では、糖尿病患者さんの半数はビジネス面でのハンデを感じているといいます。

 これらから、私たちは患者さんの治療中断の理由を安易に本人の病識不足に求めてしまいがちですが、必ずしもそうではないことがわかります。少なくとも現在就労中の患者さんの場合、仕事をしながら治療を続けられる環境が整っていないことが、治療継続の妨げになっているのです。

導入期の遠隔診療とアプリによる療養指導の試み

 筆者の所属施設は労災病院という位置づけ上、この問題を喫緊の課題として取り組みました。そこでまず、メール等で外来通院を代替するシステムとして「iDEM(internet diabetes education and management)」を構築し試験的運用を開始しました。自己指先穿刺採血キットの郵送による1カ月ごとの診察、処方箋発行、看護師や管理栄養士によるメールでの助言を続けたところ、開始前後の比較、および、対面診療を継続した対照群との比較でHbA1cに有意差はなく、治療満足度は有意に上昇するという結果が得られました。

 このような試行錯誤の甲斐もあってか、今春の診療報酬改定でオンライン診療✽が認可され、大きなニュースとして取り上げられました。私たちとしては、時代が追いついてきたとの感慨と、まだ風穴が開いた程度でこれからが本番との思いが交錯しています。

 そして現在、当施設では「治療就労両立支援モデル事業」を行っています。従来2週間かけていた教育入院を2泊3日に短縮し、療養に必要な知識はeラーニングを活用したり、Webサイト(糖尿病ネットワークなど)から得ていただくことを勧めています。スマートフォンのアプリケーションを用いて患者さんと多職種の医療者が情報共有をし遠隔医療により仕事と治療の両立が可能になると、治療脱落防止の手ごたえになりえることを実感しています。そしてこの取り組みは、就労者に限らず、例えば高齢患者さんや育児中の女性にもメリットがあるものと思います。

 糖尿病の治療は近年大幅に進歩し、早期であればRemission(寛解)も目指すことができる時代です。その恩恵をより多くの患者さんへ提供するため、患者さんの意識改革を求めるだけでなく、私たち医療者側にも遠隔医療の普及を含めたさまざまな工夫が求められています。その結実が患者さんの糖尿病の重症化を予防し、かつ医療資源の効率的な運用に結び付くのではないかと期待します。

*オンライン診療はリアルタイムでのコミュニケーションが可能な通信技術を用いて対面診療が原則です。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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