オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

42. SGLT2阻害薬の位置づけと
具体的な使われ方

森 豊 先生(東京慈恵会医科大学附属第三病院
糖尿病・代謝・内分泌内科 教授)

森 豊 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 42(2014年10月1日号)

 SGLT2阻害薬の発売から約半年がたちました。尿糖を増やして血糖を下げるという作用機序の新規性ゆえに、当初、効果的な使い方や安全性に不明点が多々ありましたが、徐々に糖尿病治療におけるポジショニングが明らかになってきています。

肥満、若年の患者さんがよい適応

 糖尿病治療の目的は、インスリン作用不全に伴う種々の代謝異常によって生じる合併症を抑止することにあります。そこで従来、インスリン分泌能や感受性に働きかけて血糖を制御する薬剤が使われてきました。しかしSGLT2阻害薬は、インスリン分泌能や感受性に、直接的には影響を与えることなく(影響を受けることもなく)、血糖降下作用を発揮する点が特徴です。

 血糖降下以外にも尿糖排泄によるエネルギー漏出の代償として内臓脂肪が燃焼されて体重が減少します。それに伴い脂肪肝やインスリン抵抗性が是正され、血圧や血清脂質、尿酸といったメタボリックファクターの全般的改善にも益することが報告されています。そうした作用によってSGLT2阻害薬は血管保護的に働くと考えられ、長期的には合併症に対して血糖管理から独立した効果もあると考えられます。これらを考慮すると同薬の積極的適応として、肥満・メタボを基盤にした比較的若年の糖尿病患者さんが挙げられます。

痩身、高齢、インスリン分泌能・腎機能の低下例には要注意

 反対に注意が必要なのはどんな患者さんかを作用機序から考えてみましょう。

 まず、尿糖排泄によるエネルギー漏出は肥満者には有益であるものの、体内にエネルギーの貯蓄が少ない、やせている患者さんでは問題になります。低栄養状態や蛋白の異化亢進による筋肉の減少が起こるためです。また尿糖が増えることから浸透圧利尿が起こり、脱水傾向を招きます。その影響で血栓が形成されやすくなります。こうした問題は高齢者においてより重要な注意点と言えます。

 さらに、高血糖の主要原因がインスリン分泌能の低下と考えられる患者さんでは、SGLT2阻害薬が利用可能な糖をさらに減らすことから、ケトーシス、ケトアシドーシスが惹起されやすくなります。このほか、SGLT2阻害薬の作用部位は腎臓であることから、腎機能が低下している場合はその作用自体が弱くなることが知られています。

特徴を生かすための併用薬

 ところで、SGLT2阻害薬はインスリン作用を介さずに効果を発揮するので、他の経口血糖降下薬との併用により上乗せ効果を得やすいことも特徴です。同薬の血糖降下特性をCGMで検討したところ、同薬は1日の血糖値を全体に下げることが確認されました。その一方、食直後の血糖上昇を抑える効果は少ないようです。作用機序からは高血糖の時ほど尿糖排泄が増えて食後高血糖を是正するのではと思えますが、実際には腸管からの糖吸収速度に尿細管での糖排泄速度が追いついていないものと考えられます。

 このような傾向を把握したうえで、低血糖を起こしにくいという同薬のもう一つのメリットを生かしつつ治療を強化するには、血糖変動抑制効果のあるDPP-4阻害薬やグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬が、理想的なパートナーとなりそうです。

療養指導での注意点

 SGLT2阻害薬は新規性が高く、副作用の傾向も既存薬と異なるため、患者さんの療養指導においても従来とは異なる注意点がいくつかあります。

副作用対策

 尿糖が増えることで、尿路感染症や性器感染症にかかりやすくなります。患者さんには、「尿意をがまんしない」「陰部を清潔に保つ」「排尿痛や尿の濁りなどがあればすぐに受診する」ことを伝えましょう。女性はこのような症状を訴えないこともあるので、受診のたびに医療スタッフ側から尋ねましょう。

 その他、治験中にはみられなかった副作用として、全身性皮疹・紅斑の副作用が報告されています。

脱水への備え(特に高齢者)

 前述のように脱水には要注意です。特に高齢者は体内の水分が少なく、口渇を感じにくくなっていることがあるので、夏場などは喉が渇く前にこまめに水分をとることを勧めましょう。

シックデイには休薬

 シッデイには発熱や食欲低下により脱水が助長され、ケトーシスも亢進しやすくなるので休薬し、早めに受診するように伝えておきましょう。

自己判断での糖質摂取制限の禁止

 同薬による糖利用の減少に糖質摂取制限が加わるとケトーシスになりやすくなります。患者さんが医師や医療スタッフに相談せず糖質摂取制限を始めるケースもあるので、その危険性を事前に十分伝えておく必要があります。

食事・運動療法の継続

 同薬の服用により体重がやや減少します。それによって食事・運動療法がおろそかになっては治療の意味が半減してしまいます。食事・運動療法が治療の基本であることを、重ねて指導してください。

・SGLT(Sodium Glucose Transporter):ナトリウム・グルコース共役輸送体と呼ばれるタンパク質の一種
・CGM(Continuous Glucose Monitoring):持続血糖モニタリング

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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