オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

14. ADA/EASD 2型糖尿病のコンセンサス
ステートメント -日本ではどう考えるべきか-

河盛隆造 先生(順天堂大学医学部内科学教授)

河盛隆造 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 14(2007年10月1日号)

ADAとEASD合同のステートメント

 昨年末、ADA(米国糖尿病学会)とEASD(欧州糖尿病学会)が合同で、2型糖尿病の治療に対するコンセンサスステートメントを発表しました。その内容は臨床の現場とやや乖離した部分もあり、本邦のみならず欧米においても多少混乱がみられるようです。

 筆者は、このステートメントの著者などを含めた少人数の委員会で年初から数度、意見を交わす機会がありました。そこで、ステートメントの背景、国内事情の相違を踏まえ、問題を整理してみたいと思います。

ADA/EASDステートメントの要旨

ステップ1: 糖尿病診断と同時に食事・運動療法およびメトホルミンを開始
ステップ2: HbA 1 c7%に到達しなければ、①持続 型インスリン、②SU薬、③チアゾリ ジン薬、を追加投与する
ステップ3: HbA 1 c7%に到達しなければ、①では 強化インスリン療法に切り換え。 ②、③ではインスリン療法を追加

実状との差異に違和感も

 このステートメントを見て現在一般的に行われている治療と差異を感じ、違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。例えば、メトホルミンを第一選択薬として推奨しています。国内で多用されている α -グルコシダーゼ阻害薬( α -GI)や速効型インスリン分泌促進薬であるグリニド系薬剤などには触れていません。これらの相違の一部は、2型糖尿病患者の病態の捉え方にあるでしょう。

 欧米では「2型糖尿病=肥満があり、インスリン分泌は保たれているがインスリン抵抗性により高血糖になっている」という図式が定着しています。したがってインスリン抵抗性を軽減する、安価で、かつ副作用が少ないことを根拠に、メトホルミンが推奨されています。

 メトホルミンを用いた次のステップで、持続型インスリンやSU薬を推奨する背景には、インスリンは血糖改善効果が確実である点、SU薬は安価である点で、いずれもHbA 1 c降下作用を示したエビデンスが豊富に蓄積されていることが根拠になっているようです。でも何故インスリンやインスリン分泌促進薬がここで登場するのでしょうか? 極論すれば1日100単位ものインスリンが分泌されているがその量ではインスリン抵抗性のため不十分だ、あと100単位追加してみよう、という考えが根底にある、と捉えざるを得ません。さらに、その供給方式は24時間にわたって均一にインスリンを補充する、という考えで、食前・食後も考慮していません。さらに血糖変動を把握できないHbA 1 cだけで治療効果を評価するなど、きめこまやかさもみられません。

想定した利用対象は欧米の非専門医

 冒頭で述べたように、この内容に対し欧米の専門家も納得がいかないようで、国際ミーティングなどでは常に批判があります。そして、ステートメントの著者らが最終的に、「これは糖尿病が専門でない医師へ向けて発したものであり、専門家向けの内容ではない」と答えることでその場は落ち着く、ということを繰りかえしてきました。

 確かにそのような視点で改めて内容を見れば、「経口薬でコントロール不良であればインスリンを early additionする」ときちんと記載されており、これは、大半の患者さんを非専門医が診ている日本の現状と照らし合わせても、重要なメッセージとしてとらえるべきでしょう。またそのインスリンを持続型1日1回から、としていることも欧米の実情にあわせ最小限必要な治療を示したものと解釈できます。

日本ではどう考えるべきか

 とはいっても、このステートメントを日本で適用するには、多くの点で検討を要します。国内では高度な肥満や脂肪肝のために2型糖尿病となった患者さんが確かに増えていますが、一般的な2型糖尿病患者はたとえ肥満気味であってもインスリン分泌が低くなっていることが多く、実際に食後高血糖、血清インスリン値低値、であることが日常診療で把握されます。決してインスリン抵抗性は大きくない、内因性インスリン分泌を有効に利用していこう、という考えで α -グルコシダーゼ阻害薬が、チアゾリジンが、第一選択薬として広く用いられ、それぞれに有効性が証明されています。インスリン分泌パターン改善薬、すなわちグリニド系薬剤や、特にSU薬は単に安価だから使うのではなく、内因性インスリン分泌を促し、肝臓にインスリンを供給する適正な薬剤なのです。膵β細胞の保護や動脈硬化性疾患抑止には、空腹時の血糖値だけでなく食後血糖応答の制御も勘案して、本邦では、緻密な治療が実践されており、インスリン療法では実に20%が毎食前速効型頻回注射療法になっているのです。

 このステートメントはあくまで、欧米で糖尿病非専門医がたくさん診ている、インスリン抵抗性に基づく肥満糖尿病の患者さんを、欧米の医療環境下で治療するためのものです。わが国には世界に冠たる優れた保険診療制度の下で、患者さんお一人お一人の病態をきめ細かく把握し、最適の治療を緻密に実行する環境が整っているのですから、すべての医師が自信をもって日常診療に当たるべきでしょう。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス 目次

2016年06月13日
SGLT2阻害薬で握力が向上 高齢者のサルコペニア対策に効果?
2016年06月10日
第76回米国糖尿病学会(ADA2016)開催間近 注目のセッションは?
2016年06月10日
足病診療の実態報告 診療科により診断・治療法・予後が異なる可能性
2016年06月09日
関節リウマチ患者の糖質コルチコイド服用で糖尿病リスクが1.48倍に [HealthDay News]
2016年06月02日
インスリン、IGF-1両受容体欠損に伴う脂肪組織の変化 [HealthDay News]
2016年06月01日
日本食で健康長寿を延ばせる 日本から世界へ「スローカロリー」を発信
2016年06月01日
糖尿病の人でも加入できる より少額の定期保険 糖尿病保険ミニ
2016年06月01日
営業成績と社会人2年目の苦悩 インスリンとの歩き方
2016年05月31日
SAP導入で生活が激変! 1型糖尿病患者さんの手記を公開
2016年05月30日
新制度「下肢救済加算」をわかりやすく解説 フットケア情報ファイル