オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

11. アナログ製剤によるインスリン治療
-SMBGとの協調-

難波光義 先生(兵庫医科大学内科学糖尿病科教授)

難波光義 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 11(2007年1月1日号)

 1980年代に入って遺伝子組み替え技術によるヒトインスリンやペン型注射器が次々と発売されたことに加え、自己注射やSMBGが保険適用になったことで、インスリン療法を取り巻く環境はハード・ソフト両面で一段と向上しました。しかし未だに、患者さん、あるいは糖尿病が専門でない医療従事者からは引き続き「インスリン療法は敷居が高い治療法」としてみられています。「敷居が高い」とされる背景の一つには、患者さん・医師双方に低血糖の不安があり、加えて患者さんにとっては頻回に自己注射することへの心理的抵抗が大きいと考えられます。これを逆からみると、低血糖の心配が少なく、注射回数が少ない負担の軽いインスリン療法なら始めやすい、ということにもなります。

 糖尿病患者数が増加するなか、インスリン療法を適応とすべき患者さんが増え続けています。そして一方では、さまざまな臨床研究の結果から示される合併症抑止のための血糖管理水準がより厳しいものになってきています。このような状況下でインスリン療法は、専門医による"特殊な治療"から、多くの医師によって多くの患者さんに供給される一般的治療メニューの一つに組み込まれることが今、求められています。

アナログ製剤による早期インスリン導入とSMBG

 ヒトインスリン製剤は、健常者の内因性インスリンと同じ構造をもっていますが、皮下注射のため、門脈へ分泌される生理的インスリンとは自ずと生体への作用が異なります。注射後作用発現までにタイムラグがあり、速効型であっても食前30分の注射が必要ですし、食間の低血糖が起こり得ます。また、基礎分泌を補うためにインスリンを結晶化させた中間型も、作用のピークがあり、低血糖の原因となります。

 これらの欠点を改善するため、今世紀に入りヒトインスリンの構造を改変した超速効型および持効型のアナログ製剤が作られ、国内でもすでに使用可能になりました。超速効型は注射後速やかに作用が発現・消失するため食間の低血糖の不安が少なく、持効型も作用のピークがないため、特に夜間の低血糖の不安を減らせる利点があります。さらに超速効型には食直前に打つことができ30分間待たなくてよいこと、持効型には1日1回でよいという特徴があります。

 これらアナログ製剤の特徴を生かし、低血糖の不安からインスリン導入を避けてきた患者さんや医療者に、抵抗なくインスリン療法を受け入れてもらう下地が整いました。加えて、高齢などのために頻回注射の指導が難しい、あるいは「何度も注射するのはいやだ」といった理由でインスリン導入されていなかった患者さんには、持効型アナログ1日1回でそれなりのコントロールを目指せるという選択肢も増えました。

 近年、内因性インスリン分泌が保たれているうちにインスリン療法を開始すると、糖毒性が解除され膵β細胞の疲弊を防げるため、長期にわたってより良好なコントロールを維持できることが明らかとなってきました。また、症例によっては経口薬療法に戻せることもあることがわかってきています。

 早期インスリン導入に際してのもう一つのポイントは、インスリン療法中患者さんにのみ保険が適用されているSMBGを効果的に利用できることです。患者さんに、注射が思っているよりも簡単で痛みがない点を実感してもうだけでなく、血糖値を確実に改善できることをSMBGで理解してもらえれば、より積極的にインスリン療法に取り組むモチベーションが形成されます。

アナログ製剤への切り替えによるコントロール改善とSMBG

 アナログ製剤は、すでにヒトインスリン製剤で治療を行ってきた患者さんにも、低血糖の可能性が低くなった分、用量を増やして食後高血糖に対する積極的なコントロールをめざせる、あるいは補食の回数を減らせるなど、生活上の制約が減ることでQOLが向上する、といったメリットをもたらしてくれます。ただし、基礎分泌も枯渇しているより重症の場合は、注射間隔がひらくと高血糖やケトーシスが起こり得ます。また、食後の血糖管理が不十分になることもあります。その対策として、食事間隔が開いたときや食後3~4時間後のSMBGが有効です。

守りから攻めへ。インスリン療法ポジショニングの変化

 従来は経口薬二次無効例などに最終手段として用いる、どちらかというと"守り"の治療ととらえられてきたインスリン療法は、今日ではアナログ製剤の登場で、病態の改善を狙う"攻め"の治療として、より早期に開始するよう、そのポジショニングが変化してきました。近い将来には、高血糖の時にのみ内因性インスリン分泌を刺激するインクレチンであるGLP-1のアナログ製剤も、国内で使用できるようになる予定です。このように血糖制御関連ホルモンのアナログ化は、糖尿病治療に大きな変化をもたらしつつあります。

※アナログ製剤とは、遺伝子組み換え技術などにより、生体内で分泌されるホルモンと同じ作用をもちながら、薬物動態を改良した薬剤です。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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