オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

8. 糖尿病と高血圧 -最近の考え方-

勝川史憲 先生(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター助教授)

勝川史憲 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 8(2006年4月1日号)

糖尿病における高血圧、高血圧における糖尿病

 糖尿病の患者さんが高血圧を併発する頻度は非糖尿病の人の約2倍であり、高血圧の患者さんが糖尿病を併発する頻度は非高血圧の人の2~3倍に上ります。両者はいずれも血管障害のリスクファクターで、併発した場合の死亡リスクは非糖尿病・非高血圧の人の6~7倍に達します。両疾患いずれも患者数が多いことから、併発の予防および併発後の治療の徹底が重要です。

 糖尿病において血糖コントロールが細小血管症に基づく合併症の抑止のために欠かせないことは、DCCTはじめ多くの臨床研究が証明しています。しかし近年ではUKPDSなどの報告から、糖尿病の合併症抑止には、血圧をコントロールすることが血糖コントロールと同様に大切であることもわかってきました。また、糖代謝異常の人にα-グルコシダーゼ阻害薬を使用すると、糖尿病への移行を抑制するとともに、高血圧の新規発症も有意に減ることを示したSTOP-NIDDMなど、両者の密接な関連を示す報告が増えています。

メタボリックシンドロームにおける糖尿病と高血圧

 糖尿病の患者さんに高血圧が生じる原因としては、高血糖そのものや腎機能障害による循環血液量の増加が古くから挙げられてきました。加えて、インスリン抵抗性による高血糖の代償としての高インスリン血症が、腎でのナトリウム再吸収増加、交感神経系の緊張、血管平滑筋の収縮などを招き血圧を上昇させることも、長く指摘されてきたことです。

 後者のインスリン抵抗性をベースとした血圧上昇メカニズムは、高血圧患者さんの糖尿病併発頻度が高いことの説明にもなります。糖尿病と高血圧双方の発症基盤として、インスリン抵抗性が主要なファクターを占めていて、例えば高血圧の患者さんではたとえ糖代謝異常がなくても4割にインスリン抵抗性があることを示すデータもあります。そして現在、そのインスリン抵抗性が関連する病態として、メタボリックシンドロームが注目されるようになってきました。

 メタボリックシンドロームは、肥満、とくに内臓脂肪の過剰蓄積によって生じる種々の代謝異常、サイトカインの分泌異常が重複し、動脈硬化の進行が著しく加速する病態です。このメタボリックシンドロームの発症とその関連疾患(合併症)である糖尿病(初期には耐糖能異常、とくに食後高血糖)や高血圧、高脂血症、それぞれの発症には、インスリン抵抗性とともにレニン-アンジオテンシン(RA)系の関与も指摘されています。

 RA系は従来は主にナトリウム代謝を介して循環血液量と血管抵抗性を調節し血圧を規定する系ととらえられてきましたが、最近では脳や心臓、脂肪組織などの臓器の機能を制御する役割も注目されてきています。メタボリックシンドロームにおいてはそれら各臓器でのRA系が活性化していて、遺伝的素因を背景とする疾患感受性とあいまって個々の疾患を発症させる可能性が考えられます。

治療法と降圧の目標

 メタボリックシンドロームによる糖尿病と高血圧の治療には、病態の上流にある内臓脂肪の過剰蓄積を解消することが重要であり、その方法は食事コントロールと運動療法が基本です。

 運動の降圧効果は、長時間または高い強度の運動をしても変わらないとされています。このため運動経験のない方には、当初は中等度の強度の運動(速足のウォーキング等)を毎日合計30分行うよう勧めます。しかし近年、肥満のコントロールを念頭においた場合は毎日60分、糖尿病患者が心血管病のリスクを減らすには週4時間以上は中等度の運動を行うよう推奨されています。したがって、長い期間をかけて こうしたレベルへと運動量を増やしていく必要があります。

 降圧目標については、臓器保護の観点からできるだけ低めにコントロールする'the lower,the better'の考え方が主流になっています。具体的には各種ガイドラインの示す130/80mmHgが目安となります。また近年、糖尿病の患者さんでは夜間の血圧が昼間に比べてあまり下がらない'non-dipper'の日内変動を示すことがわかってきました。より的確な降圧治療のために、家庭血圧のより積極的な活用が必要と言えるでしょう。

 降圧薬については前述のRA系を抑制するARB(またはACE-I)が選択されるケースが増えています。これらの薬剤はインスリン抵抗性を改善するので、血糖降下薬またはインスリンと併用する場合には、低血糖への配慮も必要です。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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