日本糖尿病学会が「糖尿病診療ガイドライン2019」を刊行 糖尿病の臨床現場での活用をより意識

 日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」策定に関する委員会は、「糖尿病診療ガイドライン2019」を刊行した。
 「糖尿病診療ガイドライン」は、エビデンスにもとづく合理的かつ効率的で均質な糖尿病診療の推進を目的として2004年に初版が発行され、その後は3年ごとに発行されており、今回の改訂は第6版に相当する。

 2019年版の章立ては2016年版と同じで、CQ(Clinical Question)・Q(Question)方式が継続されているが、各CQ・Qごとに細かくその文言が吟味され、必要に応じて見直しや追加のCQ・Qが設定された。これは、糖尿病の臨床現場での活用をより意識したものだ。
3年間の糖尿病医療の進歩を反映
 日本の糖尿病を取り巻く環境は大きく変化しており、高齢者糖尿病の増加や、糖尿病とその併発症に関する診療に関しては、新規作用機序の糖尿病治療薬の承認や、こうした治療薬を用いた心血管疾患に関する安全性や抑制効果を実証する臨床試験が次々に報告されている。

 またCGM(Continuous Glucose Monitoring)やSAP(Sensor Augmented Pump)といった新たな診療機器の開発も進んでいる。小児および成人1型糖尿病ならびに成人2型糖尿病患者において、リアルタイムCGMは血糖コントロール改善において有効であるとする報告がある。また、1型糖尿病ならびに2型糖尿病患者で、FGM(Flash Glucose Monitoring)は低血糖時間の短縮において有効であるとする報告がある。

 さらに、日本における大規模臨床試験であるJ-DOIT 1〜3、JDCP study、J-DREAMSを成果も紹介している。とくにJ-DOIT 3では、現在のガイドラインよりも厳格な介入で現状より脳血管障害、腎症、網膜症を減少させられる可能性が示唆された。

 また3年間に、脂質管理や血圧管理に関して日本動脈硬化学会や日本高血圧学会から新しいガイドラインが発表されている。同ガイドラインにはこれらの診療の進歩、新知見の集積、新規エビデンスが盛り込まれている。日本腎臓病学会、日本歯周病学会、日本透析医学会、日本糖尿病眼学会、日本糖尿病・妊娠学会、日本肥満学会との連携もはかられている。
食事療法では「個別化」と「柔軟な対応」を重視
 食事療法に関しては、従来の標準体重の代わりに「目標体重」という概念が取り入れられ、より個々の症例に対応可能な柔軟な食事療法が示された。目標とする体重や摂取すべきエネルギー量は、年齢や病態、身体活動量などによって異なり、「個別化」が必要とされた。

 栄養素摂取比率についても、「設定する明確なエビデンスはない」として、「患者が持つ多彩な条件に基づいて、個別化を図る必要がある」とした。「炭水化物を50〜60%エネルギー、タンパク質20%エネルギー以下を目安とし、のこりを脂質とする」を一定の目安としながら、「食事療法を長く継続するためには、個々の食習慣を尊重しながら、柔軟な対応をしなければならない」と指摘している。

 糖尿病における炭水化物の至適摂取量についても、身体活動量やインスリン作用の良否によって異なり、一意に目標量を設定することは困難だとして、「柔軟な対応をしてもよい」とされた。ただし、総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限することによって減量を図ることは、その効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンスが不足しており、現時点では勧められないとした。

一般社団法人 日本糖尿病学会
  糖尿病診療ガイドライン2019

糖尿病診療ガイドライン2019
ステートメント・推奨グレード(一部抜粋)

[3. 食事療法]

CQ3-1糖尿病の管理に食事療法は有効か?
●糖尿病の管理には、食事療法を中心とする生活習慣の是正が有効である。[推奨グレードA]

CQ3-2食事療法の実践にあたっての管理栄養士による指導は有効か?
●食事療法の実践にあたって、管理栄養士による指導が有効である。[推奨グレードA]

[4. 運動療法]

CQ4-1糖尿病の管理に運動療法は有効か?
●2型糖尿病患者に対する有酸素運動やレジスタンス運動、あるいはその組み合わせによる運動療法は、血糖コントロールや、心血管疾患のリスクファクターを改善させる。2型糖尿病患者に対する有酸素運動とレジスタンス運動は、ともに単独で血糖コントロールに有効であり、併用によりさらに効果が高まる。[推奨グレードA]

[6. インスリンによる治療]

CQ6-5 1型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の抑止に有効か?
●インスリン頻回注射法またはCSIIと、血糖自己測定を併用したいわゆる強化インスリン療法は、1型糖尿病において、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)の予防、進行抑制に有効である。[推奨グレードA]

CQ6-6 1型糖尿病に対する強化インスリン療法は大血管症の抑止に有効か?
●インスリン頻回注射法と血糖自己測定を併用したいわゆる強化インスリン療法は、1型糖尿病において、大血管症(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の進行抑制にも有効である。[推奨グレードA]

CQ6-8 2型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の抑止に有効か?
●2型糖尿病の細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)の予防・進行抑制には強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールが有用である。[推奨グレードA]

[7. 糖尿病自己管理教育と療養支援]

CQ7-1組織化された糖尿病自己管理教育と療養支援は糖尿病治療に有効か?
●組織化された糖尿病自己管理教育と療養支援は糖尿病治療に有効である。[推奨グレードA]

CQ7-3血糖自己測定(SMBG)は糖尿病治療に有効か?
●血糖自己測定(SMBG)は1型糖尿病およびインスリン治療中の2型糖尿病の血糖コントロールに有効である。[推奨グレードA]

CQ7-6心理的・行動科学的アプローチは糖尿病治療に有効か?
●心理的・行動科学的アプローチは糖尿病治療に有効である。[推奨グレードA]

[8. 糖尿病網膜症]

CQ8-1定期的な眼科受診によって糖尿病網膜症の発症・進行を阻止できるか?
●定期的な眼科受診は糖尿病網膜症の発症・進行を阻止するうえで有効である。[推奨グレードA]

CQ8-2糖尿病網膜症に血糖コントロールは有効か?
●血糖のコントロールは、1型糖尿病、2型糖尿病患者における糖尿病網膜症の発症・進行を抑止するうえで有効である。[推奨グレードA]

CQ8-3糖尿病網膜症に血圧コントロールは有効か?
●2型糖尿病患者における血圧コントロールは糖尿病網膜症の発症・進行を抑止するうえで有効である。[推奨グレードA]

CQ8-6眼科的治療によって網膜症の進行を阻止できるか?
●網膜光凝固術などの眼科的治療は網膜症の進行を阻止するうえで有効である。[推奨グレードA]

[9. 糖尿病(性)腎症]

CQ9-1尿中アルブミン測定は糖尿病(性)腎症の早期診断に有用か?
●尿中アルブミン測定は糖尿病(性)腎症の早期診断に有用である。[推奨グレードA]

CQ9-3糖尿病(性)腎症に血糖コントロールは有効か?
●血糖コントロールは糖尿病(性)腎症の発症ならびに早期腎症の進行抑制に有効である。[推奨グレードA]

CQ9-4糖尿病(性)腎症に血圧コントロールは有効か?
●血圧コントロールは糖尿病(性)腎症の発症・進行抑制に有効である。[推奨グレードA]

CQ9-6糖尿病(性)腎症における血圧コントロールの第一選択薬としてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は推奨されるか?
●糖尿病(性)腎症における血圧コントロールの第一選択薬として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が推奨される。[推奨グレードA]

[10. 糖尿病(性)神経障害]

CQ10-4糖尿病(性)神経障害に血糖コントロールは有効か?
●厳格な血糖コントロールにより、糖尿病(性)神経障害の発症・進行を抑制することができる。[推奨グレードA]

[11. 糖尿病(性)足病変]

CQ11-2足の定期観察は足病変の予防に有効か?
●足病変の予防に足の定期観察のみが有効であることを示すエビデンスは乏しいが、それを含むフットケアシステムの臨床導入以後に下肢切断の減少が観察されており、また、病変の早期発見、フットケア実施のためには足の観察が必須であり、足病変予防に有効と考えられる。[推奨グレードA][コンセンサス]

CQ11-4血糖コントロールは足病変の発症や切断予防に有効か?
●血糖コントロールは足病変の発症や切断予防に有効である。また、足病変のリスク因子である神経障害の予防のためにも有効である。[推奨グレードA]

CQ11-5ハイリスク患者に対するフットケアは足潰瘍の予防や救肢に有効か?
●ハイリスク患者に対するフットケアは足潰瘍の予防や救肢に有効である。[推奨グレードA]

[12. 糖尿病(性)大血管症]

CQ12-3生活習慣の改善と肥満の是正は糖尿病(性)大血管症に有効か?
●耐糖能障害、高血圧症、脂質異常症、肥満症、慢性腎臓病などの疾病や運動不足、食塩摂取過剰、喫煙などの生活習慣が心血管イベントのリスクファクターである。糖尿病患者における生活習慣の改善と肥満の是正は心血管イベントのリスクファクターを改善するため推奨される。[推奨グレードA]

CQ12-4糖尿病(性)大血管症に血糖コントロールは有効か?
●糖尿病発症早期からの厳格な血糖コントロールは、糖尿病(性)大血管症の発症抑制に有効である。[推奨グレードA]

CQ12-5糖尿病(性)大血管症に血圧コントロールは有効か?
●血圧コントロールは、糖尿病(性)大血管症の発症抑制に有効である。[推奨グレードA]

CQ12-6糖尿病(性)大血管症に脂質コントロールは有効か?
●脂質コントロールは、糖尿病(性)大血管症の一次予防・二次予防に有効である。[推奨グレードA]

CQ12-7糖尿病(性)大血管症に抗血小板薬は有効か?
●抗血小板薬の投与は、糖尿病(性)大血管症の二次予防に有効である。[推奨グレードA]

[13. 糖尿病と歯周病]

CQ13-5歯周治療は血糖コントロールの改善に有効か?
●2型糖尿病では歯周治療により血糖が改善する可能性があり、推奨される。[推奨グレードA]

[16. 糖尿病に合併した脂質異常症]

CQ16-4糖尿病患者の脂質異常症に食事療法は有効か?
●糖尿病患者の脂質異常症に対する食事療法は有効である。[推奨グレードA] ●多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)の摂取が推奨される。[推奨グレードA]

CQ16-5糖尿病患者の脂質異常症に運動療法は有効か?
●糖尿病患者の脂質異常症に対して運動療法は有効である。[推奨グレードA]

CQ16-6糖尿病患者の脂質異常症に対するスタチン系薬剤による治療は、心血管疾患(CVD)発症率や生命予後の改善に有効か?
●スタチン系薬剤の投与は、脂質異常症を合併した糖尿病患者の心血管疾患(CVD)発症を抑制し、生命予後を改善する。[推奨グレードA]

●糖尿病患者の高LDL-C血症に対してスタチン系薬剤を第一選択とする。[推奨グレードA]

[17. 妊婦の糖代謝異常]

CQ17-1妊娠前、妊娠中の血糖コントロールは妊婦や児の予後を改善するか?
●妊娠前および妊娠初期の血糖コントロール不良により児の併発症、流産などの頻度が増加するが、妊娠前から厳格な血糖コントロールを行うことでこれらのリスクは減少する。[推奨グレードA]

●妊娠中の血糖コントロール不良により周産期母児併発症のリスクが増大するが、妊娠中に厳格な血糖コントロールを継続することで、これらのリスクは減少する。[推奨グレードA]

[21. 2型糖尿病の発症予防]

CQ21-9生活習慣介入によって2型糖尿病の発症は抑止できるか?
●食事や運動習慣の是正を中心とした生活習慣介入は、2型糖尿病の発症を遅延させ、その効果は介入終了後も持続する。[推奨グレードA]
[Terahata]

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