第35回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(9)
〈GLP-1受容体作動薬-2〉
加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)
初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 61(2019年7月1日号)
前回は高齢者のGLP-1受容体作動薬(以下、GLP- 1R)の特徴とその使い分けまでふれました。今回は高齢者への適応と注意点を具体的に記載します。
高齢者に対するGLP-1Rを使用しているケースは
高齢者でGLP-1Rを使用した当院例は①高齢でも食行動が活発な肥満例②インスリンでは低血糖の対処が不安③インスリンアレルギー④認知症などで家族か介護スタッフの助けで週一回注射するケースです。④は重要な導入理由となりつつあります。
高齢者GLP-1R導入の注意点
デイリー製剤(文献1)のリラグルチド(ビクトーザⓇ)は導入時漸増していくので嘔気、嘔吐はとても少ないと言えます。現在日本で使用できる週1回製剤はデュラグルチド(トルリシティⓇ)(文献2)と持続性エキセナチド注射剤 (ビデュリオンⓇ)ですが、後者は高齢者には不向きと考えます。セマグルチド(オゼンピックⓇ)は製造承認されたものの、現在保険収載されていません。デュラグルチドは注入量の調節が利かず、最大10日効果が持続するので、嘔気、食思不振、胃部不快感が長く続く可能性があり、導入時にはその可能性を本人・家族に話しておくことが大切です。発売時の国内第Ⅲ相臨床試験513例をみると、胃腸障害等の副作用は65歳~75歳未満は2.3%ですが、75歳以上では9.1%と増加していました。
高齢者導入後の注意点とまとめ
高齢者にGLP-1R導入後、目立たないが体重が減り続ける症例を経験します。体重変化を流れで把握し、可能なら体組成計にて骨格筋量の減少が無いかSGLT2阻害薬使用時(文献3)と同様に注意します。次に薬価ですが1日17単位注射として、インスリンデグルデク(トレシーバⓇ)は3,968円/4週、インスリンアスパルト(グラルギンリリーⓇ)は2,352円/4週です。これに対しリラグルチド(0.9mg/日)14,343円/4週、デュラグルチド13,848円/4週です。話しておかないと薬剤費が跳ね上がり驚かれます。1割負担でも大変な高齢者も多くいます。「低血糖が来なくて良い薬だよ」とだけ言っていられません。なおDPP-4阻害薬との併用は原則認められないことにも注意が必要です。
参考文献
- 1) 加藤光敏:GLP-1受容体作動薬(2)BOX&net.No.50, 2017
- 2) 田牧千裕ほか:日薬理誌 146 : 215-24, 2015
- 3) Kato M, Kato N. Diabetol Int.8(3) : 275-285, 2017
※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。
糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント 目次
- 40. 第40回 インスリンとGLP-1受容体作動薬の新配合薬
- 39. 第39回 心血管病変および心不全抑制効果が期待される「GLP-1受容体作動薬」
- 38. 第38回 心不全の進展抑制が期待される「経口血糖降下薬」
- 37. 第37回 糖尿病腎症の進展抑制が期待される「注射製剤」
- 36. 第36回 糖尿病腎症の進展抑制が期待される「経口薬剤」
- 35. 第35回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(9)〈GLP-1受容体作動薬-2〉
- 34. 第34回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(8)〈GLP-1受容体作動薬-1〉
- 33. 第33回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(7)〈インスリン療法-2〉
- 32. 第32回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(6)〈インスリン療法-1〉
- 31. 第31回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(5)
- 30. 第30回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(4)
- 29. 第29回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(3)
- 28. 第28回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(2)
- 27. 第27回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(1)
- 26. 第26回 経口血糖降下薬配合剤の現状と注意点
- 25. 第25回 EMPA-REG OUTCOME試験のその後と新たな展開
- 24. 第24回 GLP-1受容体作動薬(2)
- 23. 第23回 GLP-1受容体作動薬(1)
- 22. 第22回 インスリン療法をレベルアップする機器
- 21. 第21回 インスリン製剤 (4)
- 20. 第20回 インスリン製剤 (3)
- 19. 第19回 インスリン製剤 (2)
- 18. 第18回 SGLT2阻害薬 (5)
- 17. 第17回 インスリン製剤(1)
- 16. 第16回 SGLT2阻害薬(4)
- 15. 第15回 SGLT2阻害薬 (3)
- 14. 第14回 SGLT2阻害薬(2)
- 13. 第13回 スルホニル尿素(SU)薬(3)
- 12. 第12回 スルホニル尿素(SU)薬(2)
- 11. 第11回 スルホニル尿素(SU)薬(1)
- 10. 第10回 SGLT2阻害薬(1)
- 9. 第9回 DPP-4阻害薬(3)
- 8. 第8回 DPP-4阻害薬(2)
- 7. 第7回 DPP-4阻害薬(1)
- 6. 第6回 GLP-1受容体作動薬
- 5. 第5回 チアゾリジン薬
- 4. 第4回 グリニド系薬剤
- 3. 第3回 ビグアナイド薬(2)
- 2. 第2回 ビグアナイド薬(1)
- 1. 第1回 α-グルコシダーゼ阻害薬
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