オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

44. 軽度の高血糖も放置は厳禁!

河盛隆造 先生(順天堂大学大学院医学研究科
(文部科学省事業)スポートロジーセンター)

河盛隆造 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 44(2015年4月1日号)

糖尿病放置病が蔓延している

 わが国ほど2型糖尿病が早期に診断されている国は他にありません。健診制度が充実しているばかりでなく、医療へのアクセスが容易であることから、他の疾患で受診した際に尿糖などから糖尿病が発見されるケースも多く、糖尿病の早期発見に寄与しています。

 その一方で、国民健康・栄養調査によると、糖尿病を指摘された人のうち定期的に受診し治療を継続しているのは6割に満たず、ことに若年世代でその割合が低く、40代で4割、30代では3割足らずです。せっかく糖尿病を早期に発見された'ラッキーな'方の多くが、"糖尿病放置病"に罹っているのです。

 このような事態が起きている理由の一つは、未だ一般の方に糖尿病放置病の予後、合併症の深刻さが十分に理解されていないことが挙げられるでしょう。しかしそればかりではなく、「軽い糖尿病だから食事と運動に気をつけ、体重を少し減らし、半年後ぐらいにまた来てください」と、積極的に治療しない医師側の対応があることも一因ではないでしょうか。

高血糖が軽度だからといって介入せずにいると...

 糖尿病放置病の多くは、生活環境の変化に伴い比較的若年の方に急増しているメタボ型糖尿病です。その人たちの長い余命を考えると、「軽度だからまだよい」との判断はやや責任感が不足したものと言えます。なぜなら、現在の糖尿病治療は、顕著な高血糖が持続するようになってから生じる細小血管障害を抑制するだけで事足りる時代ではないからです。

 近年の分子糖尿病学の進歩により、これまで臨床的に'現象'としてのみ捉えられていたことの原因が次々に明らかになってきました。例えば、軽度の高血糖が膵β細胞機能を量的・質的に低下させ、血糖正常化が困難な顕性糖尿病状態を招くという"高血糖毒性"の悪循環や、軽度の高血糖とその代償機構としての高インスリン血症が血管内皮機能を低下させて動脈硬化を惹起・進展させることは既に明白です。

 よって、肥満やインスリン分泌低下によるわずかな高血糖を放置しないことが、それに続く糖代謝異常の重症化や心血管疾患を防ぐ上で極めて重要です。そればかりでなく、高インスリン血症や軽度な高血糖が、認知機能障害の発症・進展や発がんをもたらすことも疫学的に明らかで、その機序も解明されてきています。

 軽度の高血糖とは'糖のながれ'の結果に過ぎない血糖値の異常が軽度なだけであって、その背後には侮ってはならない病態が隠れているのです。

軽度の高血糖は確実に改善できる

 軽度の高血糖が看過ならないもう一つの理由は、軽度であればこの時期への介入が"糖尿病でなかった時期へ復帰させる"からです。それは決して難しいことではありません。糖尿病の初期に、食後の軽度な高血糖が生じる機序を例にとり、具体的な改善法を考えてみましょう。

 摂取した炭水化物は徐々にブドウ糖に分解され腸管で吸収されて、門脈より肝臓に流入します。同時に膵臓から分泌されたインスリンとグルカゴンも門脈経由で肝臓へ流入します。それらのカクテル比と肝臓の反応性が、肝臓におけるブドウ糖取込み率と、末梢へのブドウ糖供給量を規定します。このことから改善方法として以下が導かれます。

(1) 肝臓へのブドウ糖流入を緩やかにする

 液状単純糖質の摂取を控える、食物繊維を多く摂る、α-グルコシダーゼ阻害薬を用いる、などが該当します。

(2)門脈への速やかなインスリン流入を増やす

 グリニド薬、SU薬が該当します。

(3)肝臓でのインスリン作用を高める

 メトホルミン、ピオグリタゾンにこの作用を期待できます。

(4)グルカゴン分泌を抑制する

 インクレチン関連薬は、インスリン作用を介して異常なグルカゴン分泌を抑制します。また近年、メトホルミンは肝でのグルカゴン作用をブロックして肝・ブドウ糖放出率を抑制する ことがわかってきました。

(5)門脈と肝静脈との血糖濃度勾配を高める

 食前の血糖値を十分低くし、門脈と肝静脈の血糖濃度勾配を高くしておくことが、肝・ブドウ糖取り込み率を高め、食後高血糖を防止します。つまり、食前血糖値の正常化が食後の血糖値をもよりよくするという好循環を形成するのです。

 このほか、昨年から用いられるようになったSGLT2阻害薬が、部分的ではありますが上記(1) 、(3)、(5)と同様の作用を発揮するのかもしれません。インスリン注射療法は皮下投与という非生理的な方法ではありますが、筋・ブドウ糖取り込み率を高め、だるま落としのように血糖値を低下させる効果があります。

速やかに「糖尿病でなかった状態」に戻し、糖尿病の自然史を変える!

 以上のように私たちは今、多数の治療ツールを手にしています。患者さんごとの'糖のながれの乱れ'を推測し、これらの治療を駆使することで、速やかに「糖尿病でなかった状態」に戻してあげることが、わが国では保険診療で可能なのです。「膵β細胞機能が経年的に低下し、やがて種々の合併症が現れてくる」という糖尿病の自然史を変更することも、不可能ではありません。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス 目次

2019年04月18日
血圧が低い場合でも循環器疾患による死亡リスクは上昇 降圧薬で血圧を下げても安心はできない
2019年04月18日
ジャディアンスのEMPA-REG OUTCOME試験 ベースライン時の顕性アルブミン尿をともなうDKD患者における複合腎・心血管アウトカムの結果を公表
2019年04月18日
米国内分泌学会が高齢糖尿病患者の診療指針を策定
2019年04月17日
【リニューアル情報】インスリンポンプ・SAP・CGM取り扱い医療機関リスト
2019年04月11日
1型糖尿病の根治療法「バイオ人工膵島移植」も視野に 日本で「動物性集合胚」研究の規制が大幅に緩和 京都大学iPS細胞研究所など
2019年04月11日
ジャディアンスとDPP-4阻害薬を比較したリアルワールド研究「EMPRISE」 入院リスクの低下および入院期間の短縮と相関
2019年04月11日
2型糖尿病治療剤「Imeglimin」の第3相試験で良好な解析結果 ミトコンドリア機能を改善する新たな機序の新薬
2019年04月11日
SGLT2阻害薬「フォシーガ」 2型糖尿病治療における心血管アウトカムへの影響を示すDECLARE-TIMI 58試験のサブ解析
2019年04月11日
HbA1c基準では糖尿病の過小診断につながる可能性
2019年04月08日
「1型糖尿病を根絶するための研究」を支援 日本IDDMネットワーク