【新型コロナ】日常で利用されている消毒薬の実際の効果を検証 ウイルスをどこまで不活化できるか? 北里大学研究所

2020.09.02
日常生活で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染予防に有用な製品を評価

 北里大学研究所は、日常で利用されているハンドソープや界面活性剤・医薬部外品・消毒剤でウイルスをどこまで不活化できるかを検証した。  研究成果を「日常生活および医療現場でSARS-CoV-2の感染の抑制と制御を確実に実行するための指針としてほしい」としている。

日常で利用されている製品でウイルスをどこまで不活化できるかを検証

 日常生活で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染予防を行うことは大切だ。感染拡大を防ぐためには手指の消毒、生活環境のなかで人が触れる物の消毒を行うことが必要。また、医療機関では院内感染防止のために、患者に使用した医療機器などの消毒ならびに院内環境の消毒などがますます重要になっている。

 そこで、北里大学大村智記念研究所の研究グループは、市場に流通している医薬部外品・雑貨および医療現場で使用されている消毒剤の、新型コロナウイルス不活化検証試験を行い、その効果を調査した。

 同研究所が今年4月に公表した第一報「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」をさらに発展させ、より多くの製品の評価を行った。

 研究は、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学Ⅰ研究室の戸高玲子研究員、芳賀慧特任助教、澤田成史助教、片山和彦教授らによるの。研究成果は、専門誌「感染制御と予防衛生」に掲載された。

洗剤系の製品のほとんどに十分な消毒効果がある

 研究グループは、まずエタノールと次亜塩素酸ナトリウムのSARS-CoV-2に対する不活性化効果を、次にインフルエンザなどの不活性化に有効とされている各種洗剤の原材料である界面活性剤のSARS-CoV-2に対する消毒効果を調べた。

 また、実際に病院で用いられている消毒剤、家庭で多用されており、市場に豊富に出回っている市販ハンドソープ、手指衛生用品のSARS-CoV-2の消毒効果を調べた。

 さらに、ボトル製品として販売されている次亜塩素酸水や亜塩素酸水系雑貨品のSARS-CoV-2消毒効果を調べた。

1. 市販雑貨品のSARS-CoV-2不活性化効果

 市販のアルコール系消毒剤は、アルコール濃度50%以上の製品であれば3万個の新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能であることが分かった。

 また、ハンドソープ系、台所洗剤類、お掃除並びにふき取り系製品でも、製品の使用方法に従って使用すれば、新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能であることが明らかになった。

 一方、二酸化塩素系、次亜塩素酸水系の製品は、製品の劣化がないことを確認してから、試験を実施したが、3万個の新型コロナウイルスを完全に消毒することができないことが明らかになった。

市販製品のSARS-CoV-2不活性化効果(1分間処理)
拡大表示
出典:北里研究所、2020年

2. エタノールと次亜塩素酸ナトリウムのSARS-CoV-2不活性化効果

 研究グループは、新型コロナウイルスを3万個含むウイルス液を、約10倍の容量の70%、50%、40%、30%の濃度のエタノールと混合して、1分間、または、10分間置き、消毒効果を調べた。

 その結果、70%、50%濃度のエタノールで1分間処理することで完全消毒が可能だが、40%、30%では消毒が不十分で、生き残ったウイルスが増殖して細胞を死滅させた。

 さらに、30%のエタノールでは、10分間処理しても、消毒は不十分だった。

 次亜塩素酸ナトリウム水溶液では、0.5(5,000ppm)、0.15(1,500ppm)、0.1(1,000ppm)、0.05(500ppm)、0.01(100ppm)の5段階の濃度の水溶液を作り、1分間および10分間の消毒処理を行った。

 その結果、1分間接触では0.15(1,500ppm)以上、10分間接触では0.1(1,000ppm)以上の濃度の水溶液で完全に消毒できることが分かった。

 しかし、厚生労働省が推奨する0.05(500ppm)濃度の水溶液では、10分間処理しても消毒が不十分で、生き残ったウイルスが細胞を死滅させることが分かった。

 1分間で完全にウイルスを消毒するためには、0.15%(1500ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用する必要があることが明らかになった。

3. 界面活性剤のSARS-CoV-2不活性化効果

 新型コロナウイルスは、表面にあるエンベロープを壊すと、感染性がなくなる。そこで、家庭用のハンドソープや中性洗剤、洗濯石鹸の原料として使われる界面活性剤類の、新型コロナウイルス不活性化効果について調べた。

 陰イオン系界面活性剤(陰イオン系)2剤、非イオン系界面活性剤(非イオン系)2剤、両性イオン系界面活性剤(両性イオン系)1剤、陽イオン系界面活性剤(陽イオン系)1剤の濃度を、0.1%、0.05%ならびに0.01%(いずれも容量%)の濃度に設定し、1分間および10分間、3万個の新型コロナウイルスと接させ、その効果を調べた。

 その結果、1分間接触では、非イオン系アルキルグリコシドは0.1%、両性イオン系アルキルアミンオキシド、陽イオン系塩化ベンザルコニウムについては0.05%および0.1%で、完全消毒が可能であることが分かった。

 10分間接触では陰イオン系直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは0.1%、非イオン系アルキルグリコシド、両性イオン系アルキルアミンオキシドは0.05%および0.1%、陽イオン系塩化ベンザルコニウムについては0.01%で完全消毒が可能だった。

4. 医療現場で使用されている消毒剤のSARS-CoV-2不活性化効果

 医療現場での消毒の参考にしてもらうため、医療現場で使用されている製品の検証を行ったところ、SARS-CoV-2の不活性化効果が不十分な製品が散見され、医療機器の消毒方法の見直しが必要だとみられる結果になった。

SARS-CoV-2の感染を最小限に抑えるために十分な消毒が必要

 このように、第一報に続いて、さまざまな身近な市販雑貨品について調べたところ、洗剤系の製品は、ほとんどの製品で十分な消毒効果を確認できた。

 今回の研究で分かったことをまとめると、次のようになる。
※ハンドソープ、台所洗剤類、掃除・ふき取り系製品でも、新型コロナウイルスを完全に消毒することは可能。
※エタノールは50%以上の濃度で3万個の新型コロナウイルスをほぼ完全に消毒可能。
※次亜塩素酸ナトリウムは、十分な消毒効果を得るためには1,500ppm以上の濃度が必要。
※一般市販医療器具消毒剤は、SARS-CoV-2の不活性化効果が不十分な製剤が散見され、医療機器の消毒方法の見直しが必要。

 「今回の研究で得られた情報を、日常生活上、SARS-CoV-2の感染を最小限に抑え、感染制御を確実に実行するために活用していただきたいと思います」と、同研究所では述べている。

YouTubeで経済産業省などが公開しているビデオ
「ご家庭にある洗剤を使って身近な物の消毒をしましょう」

評価方法

 新型コロナウイルス感染性粒子1万個/μLのウイルス液3μL(感染性ウイルス粒子3万個)を27μLの試験対象液と混合し、常温で1分間または10分間接触させた。その後、細胞を培養に用いる培地を270μL添加して、消毒反応を止め、細胞に感染させ、6日目まで観察を続けた。

 細胞が死滅せず、培養上清のリアルタイムRT-PCRでウイルスRNA量の増加が確認されなかった場合、屋試験対象液によって、3万個の感染性ウイルスの感染力を完全に消し去ることができた(完全消毒ができた)と判定した。

使用した新型コロナウイルス株:
2019-nCoV JPN/TY/WK-521(国立感染症研究所) JPN/Kanagawa/KUH003(北里大学病院) 使用した細胞:Vero-E6/TMPRSS2(JCRB細胞バンク)

北里研究所

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料